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第171話 ベルギットの友人

-帝都学園 演習場内-


チチチ  チチ  ピチュピチュ  サアアアアーー


バサッ! ゴソゴソ タタッ  スタッ!


「う〜んッ!…ふうう…んッ今日もいい天気です」 うん!


交流戦前日の朝がやって来た。あの後、アニス達は軽く戦闘移動訓練や、所持する武器の使い方などを2時間程訓練した後解散した。 彼ら彼女達全員が魔力を使い切り、それ以上訓練にならなくなったため、帰宅する事になったのである。 予想以上に、模擬戦用の武器は魔力を消費するようで、ザッツ達はフォトンライフル銃を連射する度に疲弊していった。 アルテとアレッタも同様、模擬戦用ライトニングセイバーとフォトンシールドを10数分、使用しただけで、魔力欠乏症のような状態に陥って、アニス以外皆、クタクタになってしまったのでそのまま帰宅したのであった。 


明日の交流戦に備えて、彼ら全員、休息を取るという事で休みを取り、今日は学園には来ていなかったのだが、ただ1人、アニスのみここ演習場内にテントを張って、一晩を過ごしていた。 一度は学園に帰ったアニスなのだが、姉である【レイラ】が陽が落ちても現れず、仕方なしにアニスはここ演習場に戻り、テントを張って一夜を過ごしたのであった。


アニスは良く晴れた青空を見て、昨日のアルテ達、交流戦メンバーの訓練の事を思い返していた。

          ・

          ・

          ・

『やあッ! このッ!』 ダダダッ! ダンッ ダンッ!


『はああッ!』 ヴォンッ! ブンッ! ビシュウウー


『こっちッ! 回って援護ッ!』 タタタ ヴォンッ……

          ・

          ・

          ・


「ふむ、しかし…やはり、この世界では人の保有魔力量が極端に少ない…いくら少年少女とはいえ、元の異世界『アーク』と比べると…あまりにも少なすぎる…仕方がない…か」 ふうう…


アニスの元いた異世界「アーク」では、魔法は常に日常化され、暮らしに欠かせない物になっている。だがこの新生世界『アーク』は、魔力の元、魔素そのものが極端に少ない、余ってこの世界の人々は魔道具を使用して魔法をなんとか使用していた。 昨日、アルテ達が魔道具の演習用ライトニングセイバーやフォトンシールドを使用しているのを見てもそうだった。


「ライトニングセイバーはまあまあ…フォトンシールドに至ってはシールド能力にムラがある…使用時間も短い…」 テクテク


そう考えながら昨晩作ったかまどの前にやって来た。


「まあ、それは後で考えるかな、よし! 朝食でも作るか」 シュンッ! パサ キュッ!


ふんふん♪ トントントン ジュウウ〜


アニスは演習場内の少し開けた場所でテントを貼り一夜を過ごした所で、今、銀髪を束ねポニーテールにし、私服の上からエプロンをつけ、朝食を作り始めていた。その時、正面茂みが揺れ始めた…


「よッと! ごはん ごはん〜 おいしいごはん〜♪」 ふんふん♪


ガサッ! ガササッ!


「ん? ガササ?」 ピクッ


ガサッ! バササアアーッ! ドタッ…


アニスが音のする方を見ていると、藪の中から1人の少女が飛び出して来た。


「う…うう…あ、貴女は…」 ハアハア ふらふら…よろよろ…トテ…


「ん? ああッ! ベルギットじゃないかッ!」 ババッ!


「ア…アニス・フォン・ビ…ビクトリアス…なぜ…ここに…」 ハアハア パタンッ


「わああッ! ちょ、ちょっとおーッ!」 タタタッ! ガバッ!


そこに現れたのは、傷だらけの『金扇クラス』のベルギットだった。 彼女の野戦服は傷だらけで破れ、綺麗な金髪ロール巻きの髪もほつれて乱れ、額と腕から血を流していた。


「ベルギット、何があったのですかッ⁉︎」 スッ!


「う…うう…た、助け…て…」 ハアハア…ガクンッ! パタ…


「ん、まずいッ!」 ザッ!


ベルギットは出血と疲労でその場で意識を失い、倒れてしまった。 アニスは咄嗟に駆け寄り、彼女の体に手を当て治癒の能力を使った。


「《リ.ライフッ!》」 キュインッ! シュバアアーーッ!


ベルギットの周りを光の輪が囲み、出血や細かい切り傷など、全ての傷を癒していった。


シュウウウ…… パアアアンンッ!


ベルギットを包んでいた光の輪が弾け、彼女の治療は終わった。


「うッ…うう… う〜ん…」 スウ… スウ… スウ…


ベルギットの傷は全て癒、安らかな寝息をたてて眠っていた。


「ふう…ん、これでもう大丈夫…しかし…一体何があったのかな?」


アニスは静かな寝息をたて眠っているベルギットを見て困惑していた。 あの、高圧的で元気なベルギットが、ここまで疲弊し傷だらけで、自慢の髪を乱し藪の中から出てくる。只事ではない様子だった。

          ・

          ・

          ・

ドオオオンーッ! パラパラ… ダダダッ! ダンダンッ! ドオオオンーッ!


タタタッ! ザザアアアーーーッ! バッ! チャキッ! ダンダンッ!


『ベルギットッ! 先に逃げてッ! ここは私達が食い止めますッ!』 バッ!


『そうです! 私達が時間を稼ぎますッ! お急ぎくださいッ!』ダンッ ダンッ!


『マイヤー様、任せてくださいッ!』 ニコッ! ヴォンッ! ビシュウウーッ!


『シルティーッ! あなたたちッ!』 ババッ!


タタタタッ! ビシッ! ビシッ! チュンッ! チュインッ!


『早く行ってッ! この事を アルテにッ! いえ あの娘ッ あの娘にッ!』ザッ


キュルルルルッ! ドガアアアアーーッ! バアアンンーーッ!


『『『 キャアアアアーッ! 』』』 ババアアーーッ!  ザザザアアアーーッ!


『シルティーッ! みんなああーッ! はッ⁉︎』 ババッ! キュルルルルッ!


ドガアアアアーーッ! バババアアアーーッ‼︎ ドザザアアアーーッ!


『キャアアアアーーッ!……』 パアアアアアアアーーッ ……….

          ・

          ・

          ・

「いやあああッ!」 ガバッ! ハアハアハア… チチ チチチ ピチュピチュ…


ササアアーー… チチチ  バサバサバサ ピチュピチュ…


「え…こ、ここは…」 キョロキョロ


ベルギットが跳ね起きたそこは、清々しい森の中にあるベットの上だった。


「ベット?…こんな森の中に?…あッ そうですわッ!」 サ ササッ!


ベルギットはベットの上で自分の身体の確認をした。


「痛くない…傷がない…治ってる…どうして…」 サワ サスサス…


彼女はベットの上で驚いていた。あれだけ傷だらけで、血も流し、身体が痛みを感じていたのが、今は全くそれがないからだった。


「確か私は…そうだ、私はシルティーと…皆んなと…」 グッ ググッ…


ベルギットは、昨晩から今朝にかけてのことを思い出したのか、両手の握り拳をギュッと握り歯を食いしばった。


パチパチ カタン! ボウッ! メラメラ…カチャカチャ…


「え…は?…」 サッ! ポウ…


ベルギットは、薪がはじける音がする方を見た。その時、彼女の両眼が一瞬ピンク色に光る。


「男の人?…なんて素敵な…えッ! 消え…た…」 カアア…


ベルギットのその目には、背の高いスラっとした好青年が、焚き火の前に佇んでいた。が、一瞬でその姿は消え、そこには自分がよく知っている人物、【アニス・フォン・ビクトリアス】が立っていた。アニスは、ベルギットに気づき近づいて来ていた。


テクテク テクテク スッ!


「気分はどうですか? 【ベルギット・フォン・マイヤー】さん?」 ニコ


「あなた…」 ボ〜…


「ん、どうかしましたか?」 うん?


「いえ…なんでもありません、あなたが私を?」


「ええ、もう治ってると思いますよ」


「そうね、問題なさそうですわ、ありがとう…ございます…」 サスサス


「ん、よかった。今、飲み物を持って来ますね」 クルッ ファサッ タタタ


アニスはそう言って、かまどの方に走って行った。 ベルギットはその後ろ姿を見ながら、さっき見た事を思い出す。


「アニス・フォン・ビクトリアス…助けてくれた事に感謝します。しかし…(さっきのは一体…なぜ彼女が男性の姿に見えたのでしょうか?…あの素敵な方は誰なの?…あなたは…)」 …


そうしているうちに、アニスがベルギットにと紅茶を持って来た。


「ベルギット、紅茶です」 スッ


「ありがとう、アニス・フォン・ビクトリアス…」 スッ コクッ


ベルギットはアニスに礼を言い、もらった紅茶を口に含んだ。


「美味しい…」 ツツ〜  ポロッ ポタポタ


口に含んだ紅茶の優しい美味しさに、思わず涙がこぼれた。


「ベルギット、貴女がこのような姿で現れるとは一体何があったのですか?」


「アニス・フォン・ビクトリアス…こんな事、大変失礼なお願いですが…」 ワナワナ…


「ベルギット?」


ガバッ! ギュウウッ!  ガシャッ!ガチャンッ!


「お願いしますッ! シルティーを…私の友人達を助けてくださいッ!」 バッ!


ベルギットは飲んでいた紅茶のティーカップの存在すら忘れるくらい、切羽詰まっていたのだろう、アニスにしがみつき、友人達、置いて来たシルティー達のことを頼んだ。


「わかりましたベルギット、最初から詳しく話してくれますか?」 トントン


アニスはしがみついているベルギットの背中を軽く叩き、事の詳細を尋ねた。


「助けてくれるのですか?」


「ん、当然、私とベルギットは友達です、だったらあなたの友達も私の友達です。それに…」


「それに…?」


「ベルギット、貴女ほどの人が私に助けを求める。余程のことなんでしょ?」 ニコ


「貴女という人は…お願いできますか?」


「ん!」 コクン


「ありがとう! ありがとうございます! アニス・フォン・ビクトリアス!」


「ベルギット、アニスでいいですよ!」


「え…」


「友達でしょ、アニスと呼んでください。名前呼びでいいです」


「で、では…アニス…さん?」


「はい、ベルギット、よろしくですね」 ギュッ!


「ええ、よろしくですわ、アニスさん」 ギュッ!


ベルギットはこの時よりアニスを友人として迎える。そう、彼女の人生において、この世界最強の友人を…


「では詳細をお願いできますか?」


「ええ、実は……」

          ・

          ・

          ・

ー交流戦2日前、演習場準備棟 「金扇クラス」専用棟前ー


陽が傾き始める前、ベルギット達女子メンバーとアディオス率いる男子メンバーとの間に諍いが起きていた。


【アディオス・フォン・ガスティー】、彼は【ガスティー侯爵家】の嫡男で、ゼビオの【アルテア公爵家】とは主君と配下の関係であった。 今回、ゼビオの学園休校の情報を得て、自分がのし上がろうと画作した時、とある組織から後押しを得たのであった。 それをもあって、ベルギット達女子メンバーに強気に出て、自分より家柄が上のベルギット対し、自分の下に着けと言うような、暴力的で脅迫まがいのことをしたのであった。


だが、ベルギット達はそれを拒否、女性メンバー全員で反発した時、アディオスは事もあろうに、手に持っていた武器で、他の男子メンバーと共に、ベルギット達女子メンバーを襲い始めた。 演習という名の制裁攻撃であった。 シルティーと他の女子メンバーは、ベルギットを逃すため、その場に踏み止まり、彼女を逃し、今に至る。

          ・

          ・

          ・

ー帝都学園 演習場内ー


「では、シルティーと他の女子メンバーのその後のことは…」


「分からないですわ…」 フリフリ


「では、男子メンバー達に囚われてる可能性もあるんですね」


「はい…おそらくは、ひどい事をされてなければ良いのですが…」


ベルギットは、自分を逃してくれたシルティー達の身を案じていた。


「速い方がいいか…」 スタッ テクテク


「アニスさん、まさか?」


「ん、ちょっと行ってくる。ベルギットはここで待っていてください」 キイインッ!


ベルギットにそう言うと、アニスの体が一瞬光り、私服姿から、アニスがこの新生世界『アーク』に降り立った時の姿、本来のアニスの服装になった。


青みがかった白銀髪に白を基調としたシャツにオフショルダーの上着とガードジャケット、膝上丈のコルセットスカートに肘までの白手袋、足には白のニーハイソックスに格闘用戦闘ショートブーツを履いて、背中腰裏に神器『アヴァロン』を装備したアニスが颯爽と立っていた。


「アニスさん…あなた…(綺麗…まるで天使のようですわ…)」 ぽ〜


「ん、行ってきます」 シュンッ! シュッ!


「え? 消えた…」 ヒュウウウウウ……


アニスはベルギットの目の前から一瞬で姿を消し、演習場早朝のそこには、ベルギットが1人取り残された。

          ・

          ・

          ・

ー帝都学園 演習場準備棟 「金扇クラス」専用棟 2階女子準備室ー


ギイイッ ドンッ ドタタ…


「シルティーッ!」 ババッ!


「ふん!手間を取らせやがって! お前ら面倒見ておけよッ!」 バタンッ! ガチャッ


準備棟の女子準備室に、「金扇クラス」の女子メンバー達は閉じ込められていた。全員が傷だらけで、所々血も流れていた。今、その1人【シルティー・フォン・アイゼンベルガー】がアディオスに連れられて、この部屋に放り込まれた所だった。 放り込まれたシルティーは気絶していたようで、ピクリとも動かなかった。


「シルティーッ! 大丈夫ッ! きゃあッ!」 タタタ バッ!


「どうしたの! サンドラッ! シルティーに何かあったの⁉︎」 


「メルティー…シルティーの腕が…腕がああーッ!」 うう…


「えッ⁉︎ きゃあッ! シルティーッ! シルティーーッ!」 うう…


サンドラとメルティーが見たシルティーには、右腕が上腕より下がなかった。闘争戦闘中に、魔力攻撃で失ってしまっていた。


「メルティー、私達、この後どうなるの?」 うう…


「大丈夫よサンドラ、ニールとベルギット様がまだ捕まってないわ。2人がなんとかしてくれるはず、気をしっかり持ちましょ!」


「うん…」 コクン


「それより早くッ! シルティーの腕の治療よッ! 応急キットは?」


「あ、ここにあります!」 スッ!


「うん、これで…」 プシュッ!


「うッ!…」 ピクッ!


「これでしばらくは持つはず、早く学園の医務室に連れて行かないと…」


「うん、頑張って、シルティー…」 スッ

          ・

          ・

          ・

ー帝都学園 演習場準備棟内 1階喫茶コーナーー


ドカドカドカ ギッ ドスン


喫茶コーナーの丸テーブルの椅子に勢いよく腰掛けたのは、今回の騒動の首謀者、アディオスだった。


「ふう、全く、一晩中探し回ってやっと3人か…」


「なあアディオス、こんな事して本当に良かったのか?」


「ああ? 俺の言うことが聞けないってのか?」 ギラッ!


「そう言うわけじゃないんだけど…女子メンバーに銃や擲弾を撃つなんて…その…やりすぎなんじゃないかと思って…」


「はんッ もうやっちまったんだ、今頃言ってもおせーよ!」 ふん


「なッ!」 ババッ!


「心配すんなって、俺にはある方達が着いたんだ。もう怖いものなんてないのさ!」


「アディオス、おまえ…」


「それよりあいつらを見張っててくれよ!」


「「「 え? 」」」


「ベルギットのヤツがまだ見つからねえ、アイツがここに来るかもしれんからな」


「アディオスはどうすんだよ?」


「俺は一度学園に帰って、交流戦メンバー変更届を出してくる」


「変更…他の女子メンバーを誘うのか?」


「いや、男子だ。 女子メンバーは信用ならないからな!」


「そ、そうか…」


「じゃあ、頼むぜッ!」 ドカドカドカ ギイイッ! パタン


そう言って、アディオスは準備棟を出て行った。


ドカドカドカ ザッ ザッ ザッ!


「ふふん、これで明日の交流戦で俺はやってやるぜ!」 ふはは…


アディオスは演習場を出て行った。 しばらくして、準備棟の近くに急接近してきた者がいた。


シュンッ! シュッ シュッ シュッ!  シュタンッ! ピタッ  サアアーッ


「ん、見つけた…」 シュルンッ! チャキッ! ヴォンッ!


そこに一瞬で現れたのは、ベルギットに頼まれ、シルティー達女子メンバーを助けにきたアニスだった。


「さあ、始めようか…」 シュンッ!


再び、アニスはその姿を消した。ベルギットの友人達、シルティーとその他の女子メンバーを助けるために…





いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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