第151話 アニスと告白 朝食を邪魔する者達2
ーアトランティア帝国 国境付近森林地区野営地ー
ピピッ ピヨピヨ チチチ バサバサ! サアアーーッ
森林地区に夜明けの清々しい朝日の光が当たり、森の中の鳥達が活動し始めた。そんな早朝に、心地よいリズムの音が聞こえてきた。
トントントントン ジュウ〜 ブクブクブク カチャカチャ
「よしッ! 朝食準備終了 後はテーブルと椅子を出してっと…」 スッ!
ヴァンッ! ドンッ! ダンダン ダダダッ!
早朝からアニスは朝食の準備をし、異空間より大きなテーブルと椅子を人数分取り出し並べ、テーブルクロスをひき、皆が起きてくるのを待った。
ザッ ザッ
「アニス大尉殿、おはようございます」 ザッ
「おはようございます。ヒューイ兵長さん」 ペコ
朝食の準備をしていたアニスに朝の挨拶をしてきたのは、夜番当直の男性兵士、【ロイ・ヒューイ】兵長だった。彼は野営地を深夜からこの朝方まで夜番当直勤務をしてた。
「はッ! 昨日のカレーライスでしたか、ものすごく美味しかったです。ありがとうございました。しかしアニス大尉殿は早起きなんですね。まさかこんなに早くから起きてくるとは思いませんでした」
「はい、皆さんの朝食の準備をっと思いまして、早起きしました」
「朝食をですか? それでもう出来上がったんですか?」
「はい、このとうりです」 サッ
そこには大きな長テーブルに椅子が人数分、白テーブルクロスに、それぞれの席に食器類が既に並べられていた。
「さ、流石はアニス大尉、もう準備できていたんですね」
「それよりも兵長さん、そろそろ起床の時間ではないかと思いまして…」
「え⁉︎ 」 ササッ!
ヒューイ兵長は自分の腕につけている、軍支給の腕時計を見た。
「わあッ! 0511時ッ! 11分も過ぎてるッ!」 ババッ! ダダダッ!
ヒューイ兵長は、慌てて宿舎にしている脱出艇の方へ走って行った。
「起床ーッ! 起床ーッ! 起床ーッ!」 ダダダッ!
静かだった森林の中の野営地が、ヒューイ兵長の声で騒がしくなって行った。
「ふむ、こら兵長ッ! 起床時間が過ぎておるではないかッ!」
「はッ! 申し訳ありませんッ!」 ペコ
「うん? おおッ!アニス大尉ッ!おはようッ!」
「おはようございます、グレイ艦長 朝食の準備は出来てますから顔でも洗って来てくださいね」
「なにッ! も、もう出来てるのかね⁉︎」
「はい、出来てますよ」 ニコ
「相変わらず大尉はすごいな、では顔でも洗ってくるか」 ザッ ザッ
グレイ艦長は、近くで流れている、小川へと降りて行った。
「ふぁあ〜 ふみゅう… うん? あ、アニスちゃんおはよう〜…」 トコトコ
眠そうな顔をして起きて来たのは整備班のサラ軍曹だった。
「サラさん、おはようございます。朝食に準備ができてますので他の2人も呼んできていただけますか?」
「は〜い…って! ええーーッ! もう作っちゃったのッ!」 ババッ!
サラがそこを見ると、長テーブルに椅子、白いクロスに食器と、かまどには何かコトコトと煮込み料理ができていた。
「サラさん?」
「はッ! あまりの光景に我を忘れてたわ。直ぐみんなを呼んでくるね!」 タタタ
サラは脱出艇の方へかけて行った。今回、宿舎として使われた脱出艇は、6つのブロックに分かれており、その内の3つを、士官用、下士官用、女性用と分け、寝室として使用されていた。
「おお!アニス大尉殿!おはようございます」 ペコ
「はい、おはようございます、ダゴス中尉、朝食の準備は出来てますから、グレイ艦長が来るまで待っててくださいね」 ペコ
現れたのは、すでに顔を洗ってやって来た甲板長のダゴス中尉であった。
「流石ですな!アニス大尉殿! それに比べてうちの女どもはなにやってんだあ? アニス大尉殿ばかりにやらせて⁉︎」 キョロキョロ
バンッ! タタタ!
「「 きゃあああーッ! 寝過ごしたああッ! 」」 タタタッ!
「もう! 2人ともなかなか起きないんだからッ!」 タタタ!
マリー達3人の女性兵士達は、大慌てで脱出艇から出て来た。
「ん、大丈夫ですよ! もう準備できてますから支度してください」
「「「 はいッ! 」」」 タタタ
3人は顔を洗うため、小川の方へかけて行った。
「まったく、ちったあアニス大尉殿を見習えよ、あんなんじゃ嫁の貰い手がなくなるぜ!」 ふう〜
ダゴスは3人を見て呆れ返っていた。しばらくして全員がアニスの用意した長テーブルにつき、朝食が始まった。 朝食のメニューは、白パンに煮込んだミネストローネ、卵焼きに粗挽きウインナー各3本、果物のオレンとバナーにリンカ、飲み物はコーヒーと言ったシンプルなものだった。
「うむ、このスープ、赤いがなかなか美味い、いろんな具が入っていいぞ」 パクパク
「わああ、これって、あの上流貴族が食べるって言う白パン?」 ヒョイ
「多分そうだよ!ほらこんなに柔らかい、それになんか甘い香りがする」 パク
「んーッ! 美味しいッ!こんない美味しい朝食、久しぶりだわ」
「おいッ!この腸詰肉!まさかあの入手困難なペッパーを使っているんじゃないか⁉︎」 パリッ!
ムシャムシャ ゴクンッ!
「うん、間違いない! ペッパーだッ! これ超高級品じゃないかッ!」 パクパリッ!
食卓に並んだ朝食を、皆は満足げに平らげていった。やがて、朝食が済んだ者から、回収部隊がやって来た時のための準備をし始めた。
「いやあ、アニス大尉、美味かったよ」 ゴク
グレイ艦長は食後のコーヒーを飲みながら、アニスに礼を言った。
「本当、美味しかったわアニスちゃん」
「ふう〜、アニスちゃん!ごちそうさま!」
「ん、お口にあってよかったです。じゃあ私も食べよっと!」 ニコ
アニスは皆の朝食の給仕に徹していたため、今から朝食を取るつもりだった。アニスは空いた席に座り自分の分を並べ食べ始めた。
カチャカチャ あ〜ん
アニスが朝食を取ろうとして、粗挽きウインナーを口に運ぼうとした時、それは起こった。
・
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ーアトランティア帝国 森林地区上空ー
ヒイイイイイイーーッ シュゴオオオオオオーーッ!
ピッ! ピッ! ピピピッ! ビコッ! ビコビコッ! ポンッ!
『Lst、前方、国境付近森林内に熱源を感知ッ! 距離約10000ッ!』 ピッ
「うん? そこか?」 ピッ ピコピコ カチッ
『こちらアルファー1、森林地区国境付近、チャートNo.06に熱源を感知』 ピッ
『コントロール了解、アルファー1は直ちに向かえッ!』 ピッ
『アルファー1、了解、目標地点到達時間 0550時と推定 オーバー』 ピッ
『コントロール了解、アウト』 ピピッ…
「ふふふ!見つけたぜえーーッ!」 グイッ!
ヒイインッ! バウウウウウーーーッ! ギュウウウウンンッ‼︎
アニス達が食事を始めた頃、野営地から10数キロの上空を、一機のブレードナイトが飛んでいた。その機体は一つの熱源を見つけると、スラスターを全開にして、急接近して行った。
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ーアトランティア帝国 国境付近森林地区野営地ー
アニスは、グレイ艦長達の食事が済み、今から自分が食事をしようとしていた。
「アニスちゃん、先に食べちゃてごめんね」 ペコ
マリー曹長は、先に食事を済ませたことをアニスに詫びていた。
「ん、気にしないでください。さ、私も食べよっと…」
カチャカチャ
「これこれ、この粗挽きウインナー、作るの大変だったんだあ…」 ニコ
「え⁉︎ それもアニスちゃんが作ったの?」
「そうですよ〜、(野生のイノトンの肉をミンチにし、塩、コショウで味を整え、更に上品にするため香草を練り込む、そうして熟成して作ったんだ)」 ふんふん ♪
カチャカチャ スッ プス
「いただきま〜…」 あ〜ん… ドオオンンーーッ‼︎
ドゴオオオオーーッ!ビュウウウーーーッ‼︎ ガチャガチャンッ! バキバキバキッ!
「きゃあああーッ!」 ビュウウウーーーッ! シュバアアーッ!
「うおおおッ! なんだッ 何事だあッ!」 バアアーッ!
「ぎゃあああーッ! わたしのッ! アニスのごはんがああーッ!」 ビュワッ!
いきなりだった、野営地の直ぐ上空を、白いブレードナイトが突然現れ、逆噴射をしたのだ。その場は嵐のような突風が吹き、アニスの用意した長テーブルや椅子、食器類や朝食は、あっという間に吹き飛び、森の奥へと飛んでいった。
ビコッ! ピ ピピ
「いたああッ! アニス発見ーーッ!」 グイッ! バウウーッ!
『Rog、アニスッ! 無事でよかった』 ピッ
「アウディッ! 直ぐに降りろッ!」 カチカチ ピ ピピッ!
『Rog、降下着地します』 ピッ
『フェリテスコントロールッ! こちらアルファー1』 ピッ
『アルファー1、こちらフェリテスコントロール』 ピッ
『該当地区で目標を発見、これより降下する。至急来られたし』 ピッ
『フェリテスコントロール 了解、支援にブレードナイト『ライデン』隊が急行、合流されたし』 ピッ
『アルファー1、了解、これより行動を開始するオーバー』 ピッ
『フェリテスコントロール 了解 アウト』 ピッ
「さあ、アニスッ! やっと逢えたぜッ!」 ピ ピコ
バアアアアッ! シュゴオオッ! ドオンッ! ドンドン!
そう、グレイ達、駆逐艦「ライデン」脱出艇野営地に現れたのは、ブレードナイト、「アウシュレッザD型FARアウディ」のアウディとそのライナー、レオハルト少佐だった。 彼らは強制制動をかけ、アニス達のいる直ぐ脇に降下して来た。
ヒュウウンンン… ピ ピ ピ
「よし、先に行くぞアウディッ!」 ピッ バクンッ バクンッ!
ウイイイイイインンン カシュンッ! ザッ! ダダダダッ!
「アニスーッ!」 バッ ダダダッ
レオハルト少佐は、ブレードナイトから降りると、真っ先にアニスの方へかけて行った。
「まったく、一体なにッ!あのブレードナイトッ! いきなり着地するなんて非常識な!」
突然着地して来たブレードナイトにサラ軍曹は文句を言っていた。辺り一面何もかも吹き飛び、そこにはアニスが1人椅子に座っている状態だった。
「まったくよッ! もうッ! 何もかもメチャクチャじゃないッ! ねえッ!アニスちゃんッ!」
「………」
「アニスちゃん?…お〜いアニスちゃん聞こえま…ヒイイッ!」 ガバッ!
マリー曹長が側で何も無いところに1人、座ってナイフとフォークを持っているアニスに話しかけたが、アニスの表情を見て怯えた。アニスは薄ら笑いをし、半泣きの状態だった。
「…だ、だれ? わたしの…わたしのご飯の邪魔をするのは…」 スクッ! フラッ
「ア、アニスちゃん…私ッ! わかる⁉︎」 ガシッ!
マリーは虚ろな目をして立っているアニスを掴み、質問した。
「ん?あなたが私のご飯の邪魔をしたの?」 ジロッ! シュキンッ!
「ヒイイーッ! ち、違う違うッ違いますッ!」 ブンブン
アニスは持っていた食事用のナイフとフォークを持って、マリーに近づいて行った。
「違う? じゃあだれ?」 ジロ
ガタガタ スッ!
マリー曹長は、野営地に降りて来た白いブレードナイト「アウシュレッザD型FARアウディ」を指さした。
「ん、そう…アレが邪魔したんだ…」 フラッ フラッ テクテク
「ア、アニス…ちゃん、どこに行くの」 ビクビク
「ん、…ふふふ…ナイショだよ…」 ニコ テクテク
アニスは1人、ふらふらと白いブレードナイトの方へ歩いて行った。
ダダダッ! ザッ!
「ようッ!アニスッ! 元気だったか?」
「………」 テクテク
「おいッ! アニスッ!」 バッ!
「………」 テクテク
「俺だよ俺ッ! レオンだッ! わかるかッ!」 ガシッ! ガクガク
レオハルト少佐は、最初の呼びかけに応じず、黙々と一点を見つめて歩くアニスの肩を掴み、アニスに呼びかけた。
「ん⁉︎ あッ…ああ…あう…あううッ…レオンーッ!」 ガバッ! ギュウーッ
アニスはレオンの存在に気づき、泣きながら抱きついた。
「おわッ! ア、アニス?」 ギュウ
「レ、レオンッ! レオンッ聞いてくれッ!」 グズ…
「お、おう、なんでも聞いてやるぞ!」 ナデナデ
「アイツが…アイツがああ…」 グズグズ
「うん? アウディがどうした?」 ナデナデ
「アイツが、アニスのごはんを台無しにしたんだあああッ!」 わ〜ん
「へ⁉︎ ご、ごはん?」 スッ!
レオハルト少佐が顔を上げ、マリー曹長の方を見ると、彼女が『ご覧のとうりです』と、言うような仕草で、椅子のみ残された朝食があったであろう場所を示唆した。
「ア、アニス、実はな…」
「レオン、私はあの白い悪魔を退治してくる。ちょっと待っててね」 バッ! テクテク
ビシュッ! シュバアアーッ!
アニスはレオンから離れ、ブレードナイトの「アウディ」の方に歩き始める。持っていた食事用のナイフが、まるで伝説の聖剣のような青白い炎を放ち始めた。
「わああッ! ちょッ ちょっと待てアニスッ!」 ババッ!
「ん? 邪魔しないでレオン、直ぐ終わるから」
「いやいや、そうじゃなくて、アレはお前の友達だろ!それに朝食をダメにしたのは俺だッ! スマンッ!」 ガバッ!
レオハルト少佐は謝りながら、アニスに背後から抱きついた。
「友達?…レオンがやった?…」 ピタッ
「そうだッ!」 ギュウーッ
「そうだ、アウディは友達だ、でもなんで?」
「あ…そ、それはだな…」
「ん?」
「それは…おまえに…」
「私に?」
「ああ、お前にまた会えて嬉しかったからだッ!」
「私に会えて嬉しかった?」
「そうだッ! ついテンパってなッ!周りをよく見ず降りてしまったッ!」 バッ!
「テンパった…レオンが? なんで?」
「うッ 最後まで言わすなッ!察しろよッ!」 カアッ
「ん、さっきからどうしたレオンらしくない」
「あーもうッ! 好きなんだよッ! 俺はお前が好きなんだあッ! わかったかあッ!」 カアアッ!
「ッ! へッ⁉︎」 ボンッ! カカアアーッ!
「「「 きゃあああーッ♡ 生告白ッ!♡ 」」」 ワアッ!
「ほう、あのレオンがなあ、やるじゃないか」 ふむ
周りにいたグレイ艦長や、整備班のマリー曹長達から歓声が出た。
ぽとん… サクッ!
レオンの告白に、アニスは持っていた食事用のナイフを落とし、顔を真っ赤にした。
「レッ レオンッ! い、今…」 ドキドキ
「お前が好きだ、だからごめんな」
「……ん…そうか…レオン、わかったか、もういいよ」 クルッ! ガバッ!
アニスは振り返り、レオンに抱きついた。
「アニス…」
「私も好きだッ!」 ギュウーッ
その場でアニスとレオンは抱き合いしばらく止まっていた。
「「「 きゃあああーッ♡ 」」」 ワアワア
早朝の森林地区野営地で、女性兵士達の声がこだました。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。