第15話 森の中 野営談義
ー新成 パルマ大地ー
夜の帳が落ち始め、マシューとアニスは今夜ここで野営をする事になった。マシューの怪我はマシュー自身がヒールの魔法をかけて治し、二人はソコソコ開けた場所に焚き火を焚いて野営準備をした。日が完全に落ちる頃設営は終わり、アニスは長い髪を頭に、ポニーテイルにして夕食の準備をしている時、マシューから声をかけられた。
「なあアニス、今ちょっといいか?」(お、髪形を変えたか。なにやっても見劣りせんなこいつ)
アニスは焚き火にかけてある鍋のスープをかき混ぜながら返事をした。
「ん、なんだ、これを作りながらなら構わないぞ」
「ああ、作りながらでいい、今日は助かった礼を言う」
「そんなことか。気にしなくていい、アイツも言ってたじゃないか、マシューだけでなく私も殺すって、だから私も戦った それだけの事だ」
「そうだな、では話は変わるが、教えてほしいお前の事を、あと奴が使っていた初めて聞くスキルやそれに対応できたお前のスキル、全部知りたい。駄目か?」
アニスは無言でマシューの言葉を聞きながら鍋のスープを混ぜていた。
「私のことか...何が知りたい?」
「そうだな、まず最初に聞きたいのは、口調と仕草が変わったことだ。ギルドであった時はもっと、こう女の子って感じだったんだが...」
「今は違うと言いたいんですか?」
マシューは軽く頷いた。
「そうだ、どちらかと言うと長年連れ添った冒険者仲間みたいな感じだ」
アニスは鍋に具材の粗挽きウインナーや野菜、芋などを入れしばらくして返事をした。
「そうだね、じゃあまず口調と仕草だけど、今のこれが私アニスだよ。前のはちょっと女の子ぶっていたんだ」
アニスはマシューが納得するだろうと、半分本当で半分嘘を言った。
「そうか、今のが本当のアニスなんだな。よかった、それでいい! いやそれがいい!」
「そ、そうか、ありがとう」
アニスはほんの少し顔を赤くして礼を言った。(ん、なんで顔が赤くなるんだ?)
「じゃあ次に、奴が使っていたスキルとお前のが使ったスキルそれを教えてくれないか?」
「奴が使っていた? ああ、あれね、マシューは知らなかったんだ。だから刺されたんだ」
「わりいーな知らなくて、本当に聞いたことなく変わったスキルだった。ありゃあなんだ?」
アニスは、ハア~とため息をつきながら鍋のスープ料理ができたので、取っ手付きの椀によそいマシューに手渡し答えた。
「マシューは剣士系の戦士だからかな、いいよ教えてあげる」
「本当か、わりいな、あとこれ食っていいのか?」
「ん、熱いから気をつけて食べて。それを食べながら聞いてくれ、いいかな?」
マシューは、アツアツの粗挽きウインナーを口に入れながら頷いた。
「あいつの使ったスキル《イリュージョン.ダイブ》は、幻影系最上級の大技だよ」
「げ、幻影系最上級⁉︎」
「そッ! 最上級。で、その大技は相手に幻惑状態にさせ、《縮地》Lv10で相手に高速接近攻撃をするスキルなんだ」
「幻惑か〜、気づかなかった。だが、俺には状態異常耐性スキルがあるぜ、それでもか?」
「それでもだ、 最上級って言ったろ。 特に《イリュージョン》シリーズは幻影系最強だ、あれは人の身に余る。《ダイブ》はまだ人が扱えるが、《ダンケル》と《リーゼ》この二つはだめだ。人には扱えない」
「使えないのにあるのか?」
「ある。 この世界でこの二つが使えるのは、竜種の【竜神王】と魔人の【始祖魔王】だけだな」
「使えるやつがいるのか、じゃあ他に、どこかの国に《ダイブ》が使える奴がいるかもしれないのか?」
「いや、《ダイブ》《ダンケル》《リーゼ》共に唯一無二のスキルと言われ、持ち主からスキル譲渡しない限り得ることはできない。今回、《ダイブ》の持ち主はそれをせず死んだので、残念だが《ダイブ》は永遠に無くなったとなる。だから他の人間がということはない」
「そうか、しかし平民少女のお前がよく知ってんな、どこかで習ったのか?」
「ん~、それに関しては今は言えない。ごめん」
「あ、いやいい、俺こそ立ち入ったことを聞いてすまん!」
「いいよ、お互い様だ、で次に私が使ったスキルの事だが、聞きたいか?」
「おう、できれば聞きたい。最上級の《イリュージョン》を打ち破るスキルだ、いいか?」
「わかった、ちょっとだけなら..私の使ったスキルは、《ディアスタシー.フラッツ》空間系最上級のスキルだよ」
「く、空間系⁉ それもまた聞いたことねえぞ‼。なんだそりゃ?」
「そうだろうね、このスキルは伝説級スキルの一つだから」
「伝説級...そ、それでそのスキルはどういうものなんだ?」
「《ディアスタシー.フラッツ》は幻影みたいに惑わすではなく、完璧にその場の空間の中に出入りできるスキル、時と場所を選ばず、一瞬で対象者を完殺する最強スキルの一つ、その他の事はごめん話せない」
「わかった、悪いな色々聞いちまって無理させたか?」
「ん、いい、こっちも話してもいいと思ったから話したから」
「そうか、ああ~、うまかった、ごっそさん‼」
マシューは満足したのか大型マントを被った。アニスは食事の後かたずけをし、自身も外套を出してかぶった。新成大地は木々が生い茂っているせいか夜はかなり冷える。焚火がしてあっても寒い、アニスは外套を被って座っていたが、少し身震いをしていた。そんな時マシューから声がかかる。
「アニス、ちょっとこっちこい」
「ん、何か用か?」
「いいから来い」
アニスがマシューの所へ行き、マシューの座る丸太の横に座ると、バッ とアニスの頭からマシューの大型マントがかけられアニスが変な声を出した。そう今マシューとアニスは一つのマントを二人で入っていた。
「はひゃッ‼ えッ!」
「ほれ、こうすると暖かいだろ、野営で寒い時はこれが一番だからな」
「うう~ッ くやしいがあったか~い」
マントの中のアニスはマシューの胸の中に納まる形になり、彼の鼓動がよく聞こえた。断ろうとしたが、意外にも暖かく、何やら安心できそうな感じで、いつの間にか顔が薄く赤く火照っていた。アニスは思った(このアニスという少女の体がマシューに恋心を持ち始めたのではないのか)と、まあせっかくなのでそのまま入ることにした。そうして森の中で二人はマント一つの状態で夜を明かした。アニスは思う(決して私はマシューに恋していない、この体のアニスがしているのだ)と。
「んぐんぐんぐ、おいしー!」
「ん、ユキヤマ何食べてる?」
「おねえちゃんがシュークリームくれて食べてる」
「アニスにもちょうだい!」
「もうない!これさいご、んぐんぐ、ごくん」
「《エノーマルエッジィィ――ッ‼》」
「ぎゃあああああーー」
ではまた次回もよろしくお願いします。