第141話 アニス神帝都突入
ーアトランティア帝国 平原ー
アニスが一瞬で消え去った後、残されたレオハルト達はすぐに動いた。
「さて、ルイ君…だっけ?」
「はい」
「皇太子達はどこにいるんだ?」
「ああ、それなら僕の中います、睡眠カプセルに入って眠ってますよ」
「僕の中って、それ、大丈夫なのか?」
「ん〜、よくわからないですけど、大丈夫みたいですね、なんとなくわかります」
「そっか、じゃあ 帝都まで俺らを運んでくれるかな?」
「ええ、アニスお姉ちゃんもそう言ってましたから」 ブンッ!
バアアアアアーッ! ゴオン ゴオン ゴオン
そう言うと同時に、ルイの姿は消え、一瞬で 彼らの上空に、装甲重巡航艦「ノイ・バルゲイト」が姿を表した。
「はは… アニスのやつ、またとんでもねえヤツを置いていきやがったぜ」
「ルイ、すごいねあなた、私たちも乗っていい?」
『当然だよ、ジェシーお姉ちゃん、みんなも早く乗って』 ウィイイイインン!
「じゃあ大佐も一緒にどうぞ」
「いいのか? 俺は敵だぞ?」
「アニスも言ってたろ、『もう、ゼルファ神帝国には戻れないぞ』って、たぶん大佐もそうなんじゃないかな、『ゼルファ神帝国では、ベルダム大佐、ブレードナイトのジェシー、そして重巡航艦「バルゲイト」の乗員全部が抹消、戦死扱いになってる』って」
「ッ!」
「Rog、その可能性は極めて高いですね」
「私もそう思うわ、このまま神帝国に帰っても反逆者、もしくは敵だと認識されますね」
「ジェシー…」
「ベルダム大佐、私は後悔してませんよ! 再び、人の体に戻れたんです、たとえ、偽物でも…」
「そうか、ジェシーがそう言うのなら、私も付き合おう」
「Lst、ですがジェシー、それもアニスが事をなし終えて、帰ってくるまでの間だけですよ」
「え?」
「Lst、アニスは気が付いてました」
「気が付いてた?なにをですの?」
「Rog、あなた方、全ての『ゼルファ神帝国国民の本物の身体は、中央、メイン制御コアである、個体No.D01ダイアナが隠し、保管して存在している事』を…」
「「『 本物の身体ッ⁉︎ 』」」 ザワッ!
「Rog、アニスから聞いてなかったのですか?」
「では、今のこの我々の体とこの兵器は…」
「Rog、はい、借り物の、とりあえずの処置ですね。あのままでは、メイン制御コアのダイアナに精神を破壊され、たとえ、本当の身体があっても、元の体に戻ることはできませんでしたから」
「私達の本当の体があるのねッ!」
「Rog、アニスはそう言ってました」
「じゃあ、アニスが今とっている行動は…」
「Rog、あなた方、ゼルファ神帝国国民の身体奪還と暴挙に出たメイン制御コア、個体No.D01ダイアナの停止ですね」
「アニス様が私達の身体を…」
『お姉ちゃん、よかったね。後はアニスお姉ちゃんに任せようよ』
「そうねルイ、ベルダム大佐、私と共に行きましょう」
「うむ、しかし彼女は、アニスとは何者なんだ⁉︎ この様な芸当、普通の人間ではあるまいッ!」
「Rej、申し訳ありませんが、それは私の口からは申し上げれません、ただ、アニスはいつも正しい道を示すのです」
「うん?(正しい道を示す?)…まさか…」
「Lst、アニスは我々の為に、この世界の為にその全てを正しい方向に向ける為に動くのです」
「そうか…、少佐、少佐はこの事を…」
「ああ、薄々な、アイツが、アニスがとんでもない力を使ったのを俺は見た。その時から何となく気が付いた。アニスは我々とは違う、だが、1人の少女でもある。だから気遣っていたんだ」
「少佐、いやレオハルト、お前はアニスの事を…」
「はは、さあ、俺たちは俺たちのできる事をしようぜ」
「うむ」 コクン!
ベルダムとジェシーはうなづき、「ノイ・バルゲイト」に乗艦して行った。
ーゼルファ神帝国 中央メイン制御コアルームー
「なぜだッ!」 ダンッ!
ゼルファ神帝国、その中枢にある中央メイン制御ルーム、その上階にある、自室の部屋の中で、メイン制御コア、女神を名乗るダイアナは、苛立ちながら机を叩いていた。
「私の計画は完璧だったはず!」
ピッ ピッ ピッ ピコッ! カタカタカタ ジッ ジジッ
「なぜ、どうやって皇太子達は私の手から逃れた?」グググッ!
自室のモニターに様々な情報や、周りの様子を見ながら、ダイアナは自問自答していた。
―ゼルファ神帝国 総司令部センター―
そこは、ゼルファ神帝国の軍関係を統括する場所、そこの総司令官は、窮地に落とされていた。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「緊急電ッ! 陽動艦隊旗艦 正規空母「クラブゲイ」より通信ッ!」
「内容は、『我、奇襲するも敵の大艦隊と正面戦に突入、被害甚大、撤退許可を申請』だそうですッ!」
ピッピーッ!
「ザイル提督より入電ッ! 『鳥籠作戦は失敗、強襲打撃艦隊はこれより撤退、帰還する』です」
ビーッ!ピコッ! ビッビビッ! ピコンッ!
「特殊部隊ッ 潜入潜空艦隊通信途絶ッ! 識別信号ロスト!」 ピピッ! ポン!
「ブレードナイト 第2大隊被害甚大ッ! 大隊長フロスト大佐戦死ーッ!」 ビコッ!
制御ルームは様々な戦況報告が入る、そのどれもが敗色の濃い報告ばかりであった。
「完璧な作戦だったのに…どこで間違えた?」 クク
総司令官は、今回の失敗の原因が全くわからなかった。
「ベルダムはッ! 大佐はどうなのだッ⁉︎」 ババッ!
「ベルダム大佐の反応なしッ! ただし、神徒管理ゲージには帰還信号が確認とれません」
「なに⁉︎(ベルダム大佐の意識が帰ってきていない? 意識が行方不明? そんなこと…まさか、いまだに敵地領土内で単素体ユニットとして活動している? いや、そんなはずはない。ここからの活動信号のやり取りがないのだ、動けるはずがない。どう言うことなのだ?)」
ゼルファ神帝国の兵士達は、戦闘などで、その単素体がダメージで動けなくなってっも、意識はここ、中央メイン制御ルームの地下、神徒管理室にある管理ゲージに戻ってきて、再び単素体が組み上がると意識をそれに移し活動する。
ゼルファ神帝国の国民は、意識さえあれば何度でも復活する事が出来る。ゼルファ神帝国の戦士は、いわゆる不死の戦士達なのだった。だが、もし意識が消え去った場合は、完全な死となる。(意識が一定時間帰ってこない、または、反逆行為での違反、女神ダイアナによる粛清がそれに当たる)
その様子を見て、自室にいるダイアナはつぶやいた。
「まあいいわ、また別の方法で『補充』すればいいんだから」 ふふふ
メイン制御コア、女神のダイアナは、薄笑いを浮かべ、もう、ベルダム大佐達のことは気にもしていない様子だった。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「うん? 何事だあッ ⁉︎」
ポンッ! 『緊急警報、緊急警報、侵入者、侵入者、緊急警報、緊急…』
「国境防衛ラインに反応ッ! 高速移動物体が通過ッ! ここ神帝都へ向け接近ッ! 速度ッ…速度ッ!…あ…ああ…」 ピッピー ビコッ! ビビッ!
索敵観測の兵は、その数値を見て絶句した。
「どうしたあッ! はっきりせんかあッ!」
「はッ、すみません! 速度ッ!約3000km/hッ! 超音速ですッ! 間も無く最終防衛ラインッ! 神帝都まで約3分ッ!」 ピコンッ!
「ぼ、防衛システムは何をしてるッ! 早く迎撃せんかああッ!」
「全自動防衛システムは正常ッ!目標が早すぎますッ! 反応できませんッ!」
シュウウウウーーッ!シュゴオオオオオオオーーッ! バババーーーッ
アニスは国境を超えたあたりからさらに速度を上げ、今、超音速というとんでもない速度で、ゼルファ神帝国の領内を神帝都へ向け突進していた。
シュゴオオオオオオーーッ!
「ん、もうちょっと…アレかな」 ババババアアアーーッ!
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「最終防衛ライン突破ーッ! 神帝都まであと1分ッ!」 ビビビッ! ピーーーッ!
「神帝都防衛フォトンフィールド展開ッ! 最大だああーーッ!」 ブオンッ!
ドオオオオオオオオーーーッ!
「「「「 わああああーーッ! 」」」」 ゴゴゴッ グラッ グラグラッ!
アニスの高速移動に、総司令官は帝都全域に防御のためのフォトンフィールドを、その持てる力いっぱいに出して張り巡らせた。 それに対し、アニスは真正面から突っ込んでいった。
ドゴオオオオオオオーーッ! ドガアアンンッ! ガラガラッ
「ん、…少し、勢いが付きすぎたかな、壊してしまったか」 ガラガラッ タンッ!
外壁の崩れた瓦礫の山の上に、白銀髪を靡かせたアニスがそこに立っていた。服は途中で着替えたのであろう、ライナースーツから、本来のアニスの服、白を基調としたインナーとオフショルダーのシャツにガードジャケット、膝上丈のアーマーコルセットスカートに白のニーハイソックス、格闘用ショートブーツを履き、背中腰には神器「アヴァロン」を装備していた。
「さて、え〜っと…向こうかッ!」 サッ! タタタッ シュンッ!
アニスは目標を定め、瓦礫の山から再び駆け出した。 シュンッ! シュンッ!
「ひ、被害報告ーーッ」 グラグラッ! ドオオオンッ! パラ パラパラッ
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「帝都南東外壁に衝突ッ! フォトンフィールド崩壊消失ッ! 損害不明ッ!」 ゴゴゴッ
シュワアアアアアーーッ! ドゴオンッ! ドカンッ! ドガアアンンッ! モクモク…
帝都内の要所要所で小爆発が起こり、建物が炎上しながら煙を上げていた。アニスが中央メイン制御コアのある建物までの間にあった、防衛システムを破壊していった爆発であった。
「衝突体、帝都内に侵入ッ! 高速で移動ッ! 防衛設備を破壊しつつ中央に向かって移動中ッ!」
「ええいッ! ブレードナイトを出せッ! 防衛システムでは歯が立たんッ!」
「しかしッ! 帝都内ですよッ! 被害が…」
「かまわんッ!」
「そ、総司令…」
「何としても食い止めよッ!」
「ヤーッ!『ブレードナイト隊全機出撃ッ! 帝都内に進入した敵を撃滅せよ』」 ピッ!
「ふう…(これで食い止めればいいが…いったい何が来た?)」
総司令官は、司令室の大型モニターを見ながら、状況の成り行きを見ていた。その頃、最上階、女神の部屋では…
「一体何が侵入したというの⁉︎ このままでは、私が作った帝都がメチャクチャになってしまうッ!」
このゼルファ神帝国のメイン制御コアであり、女神でもあるダイアナは侵入して来た突入体に焦りを感じていた。 この国を自分の思うとうりに作り、絶対の戦力と防御力で今まで来たのだが、ここに来てそれが崩壊しつつあるからだ。
派遣した特殊部隊、虎の子の潜空艦部隊が音信途絶、陽動の最強空母艦隊は大打撃を受け敗走中、支援の打撃艦隊は作戦中止で撤退、ましてや、今、超音速などと言う途方もない高速で突っ込んできて、さらにこの中央に迫ってきている敵がいる。理解に苦しんでいた。
「総司令ッ!ブレードナイト隊 発進しました」 ピッ! ピコンッ!
「遊撃第一ブレードナイト隊 帝都防空ワイバーン隊、共に16機ですッ!」
シュゴオオオオーーーッ! ババババーーーーッ
発進したブレードナイト隊は、「ヴァルヴィルFw 159」が14機、「シュバルツライザーR401A」が2機であった。
ピッ! ピッ! ピッ! ポンッ! タタタ
総司令官は、司令室の前面に広がる大型モニターに映る、帝都の全体図と、赤い点が動く侵入者、それに向かう青い点、16のブレードナイトの動向を見ていた。
「ブレードナイト隊、敵と接触、攻撃に移ります」 ピコンッ!
「ふふ、これだけの数のノブレードナイトだ、侵入者も5分と持つまい!」 ふん!
ダイアナは絶対の自信をもって、モニターを見ていた。侵入した赤い点を囲むように、青い16もの点は4機ずつ4隊にに分かれ、赤い点に接近していった。
誰もがブレードナイト隊の圧倒的勝利を確信していたが、それは一瞬で絶望に変わった。囲んでいた4隊に分かれた青い点は、赤い点に近づいた瞬間、次々と消えてい ったからだ。
「バ、バカなッ……」
ビーッ! ガガ…ガガガ…
『こちら、ワイバーン隊 何だあれはッ!』 ピッ!
「こちら、司令室ッ ワイバーン隊どうした⁉ 報告せよッ!」
『わあああーーッ ガタガタッ ゴオオンンッ! 』 プツン!
ガガガ…ピッ! ピーーーーーーーッ
司令室は一瞬、沈黙の間があった。誰もが勝利を確信していたその時、たった一つの赤い光点に、16もの青い光点は、消えて行ったのである。しかも、当のライナーの悲鳴と共に…
ピッ ピッ ピッ ビコッ!
やがてその赤い光点は、地図上では、ここ司令部の直近まで来て停止していた。
「ここの真上にいるぞおおッ!」 ガタタっ!
「わあああーッ ザワザワ」 バタバタ ドタバタッ
総司令部内は、蜂の巣をつついたように慌ただしくなった。
ヒュウウウウウーーッ バサバサッ! タンッ! ジ〜っ
アニスは侵入の足を止め、中央制御室なるタワーの近くに聳え立つ、4本の通信タワーの一つの天辺に降り立ち、その周辺の景色を見回していた。
「ん、ここは…」 キョロキョロ
眼下はゼルファ神帝国の帝都、様々な家が立ち並び、ここが昔どの様な土地だったかわからなくなっていた。しかし、遠方の山々や川の流れ、それらを見て、アニスは気が付いた。ここは、アニスに最も縁のある場所、この世界に初めて降り立ち、この世界の改善のため初めて創造者の、アニスの力を使った場所、緑豊かで魔素量も豊富に湧き出る大地そうここは…
「ここは、パルマ大地かッ‼︎」 ヒュウウウーッ! バサバサッ!
旧聖王国カルナ、その領地の外れ、人々の争いと、女神のエレンディラの手違いによって起きた魔力拡散爆発の跡地、そこにアニスは降臨し、その不毛だった大地を緑豊かな大地に甦らせた場所だった。
「パルマ大地のこれが…これが成れの果てなのか…」 ヒュウウウウウ…
500年以上経ったパルマ大地は、アニスが蘇らせた時の見る影もなく、城壁と聳え立つタワーや街並み、樹木は倒され岩だらけの更地へと変貌し、動植物の姿は全くなかった。
「マシューが生きて、コレを見たら悲しむな……」 パリッ! パリパリッ!
アニスの周りを、細かな放電現象が起き始めた。そんな状態でも、アニスは微笑み眼下の街の中心、中央メイン制御コアのある巨大なタワーを見ていた。
「人を贋造の神の神徒にしたて騙し、道具としたその罪、ダイアナ、君はやりすぎた…」 バリバリッ!ビシイイイッ!
アニスの体が一瞬光り輝き、その光が右腕全体に集中して行った。
バリバリッ! バシッ! ピシッ! ビリビリッ!
「受けるがいい、神級雷帝槌ッ!《エルステッド.グラン.ハンマーッ!》」 バリバリッ!
ギュオンッ! シュワアアアーーッ!ドガアアアアーーンッ‼︎
中央メイン制御コアのあるその巨大なタワーは、一瞬で吹き飛んでしまった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。