第125話 裏切り
ーアトランティア帝国 国境付近ー
アニス達が帝都に着く1日前、アトランティア帝国山岳地帯、ゼルファ神帝国まで約120km付近の山間に、周りの景色に溶け込んで、姿を消している大小4隻のグラウンドシップが停泊していた。それは、皇太子以下、20名の学園生を拉致、誘拐に成功した、ゼルファ神帝国の潜空艦、特殊任務艦隊であった。
その内の一隻、大型の護衛巡航潜「ガルト」艦内に、捕われた皇太子以下、20名の学園生はいた。
「大佐、此処なら暫くは見つかりません、それとあの駆逐艦の艦名がわかりました」
「で、ヤツの名前は⁉︎」
「は! アトランティア帝国 大陸艦隊所属、攻撃型駆逐艦『ライデン』 だそうです」
「『ライデン』か、覚えておこう!」 ググッ
「帝国の奴ら、こちらを必死に探しているようです」
「ふむ、奴らもこんな山岳地帯に、我らが合流ポイントにしているとは夢にも思うまい」
「全くです、私もまさか、国境よりさらに離れるとは思いませんでした」
「で、皇太子どもの様子は?」
「は、今は内通者以外は皆、睡眠カプセルで眠っております」
「監視を怠るなよ!」
「は!」
「本国の支援艦隊の方はどうだ?」
「は! 本日 1415時現在、本国国境より100㎞、第一機動艦隊が集結、3日後にアトランティア帝国領内に侵攻開始、我々の回収作戦行動の陽動に入ります」
「ふむ、で、我らの回収艦隊は?」
「は! 国境付近にすでに集結、ザイル提督麾下の強襲打撃艦隊が配備されてます」
「よし、ならば今しばらく、ここで待つとしよう…」
―護衛巡航潜「ガルト」艦内留置室―
カツン カツン カツン ピタ キイッ! カツカツ カパ
「ふふふ、よく眠ってるぜ! ラステル~…」 ククク
そこには18本の睡眠カプセルが並び、その一つの小窓の蓋を開けると、顔だけが見える仕組みになっており、ぐっすりと眠っている、皇太子ラステルの顔がそこにあった。
「【ゼビオ】様、本当にこんな事して大丈夫ですか?」 オドオド
「ふん、公爵家である俺が付いておるのだ、大丈夫に決まってるだろ!、それに…」
「それに、なんでしょうか?」
「ふふふ、それになあ、ラステルはもう、お終いさあ!」 ククク
「ラステル様がですか?」
「もう、奴に様などいらんぞ、【クリオ】、お前も随分と奴にこき使われて、恨んでいたのだろ?」
「そ、それは…」
「まあ、昨日までヤツの側仕えをしてたんだからなぁ、言いにくいか。まさかラステルもお前が裏切るとは夢にも思うまい」ククク
「私は、そんなつもりは無かったんです…」
「まあ、もう遅いがな。王族に手を出したんだ、お前はもう俺しか頼れまい?」
「本当に、これで本国の家族の命は保証してくれますか?」
「ああ、約束するぞ!(事が済めばキサマ達は用済みだがな)」
「これでもう奴は王族ではいられなくなる。しかも婚約者の【ミレイ】共々もな」
「それは、2人を殺すという事ですか?」
「殺しはしないさ、2人とも、ゼルファ神帝国に連れて行き、洗脳してやるのさ」
「せ、洗脳!」
「そうだ、そして二人とも、俺の操り人形、奴隷にしてやる。まあ、ミレイは、俺がたっぷりと仕込んでやるからな」 グフフフ
「ラステル様、いやラステルはどうなさるので?」
「ああ、奴には王位を返還させ、俺を推奨するように仕向けるのさ」
「王位! アトランティア帝国の皇帝になるのですか?」
「そうだ、奴の父は長男、俺の父は次男、そう、次男の家系と言うだけで、俺達は本来の名をもらえず、ましてや王位もない!、こんなことがあってたまるか!」
「それで此度の事を?」
「そうだ、ゼルファ神帝国の奴らに、国境警備や防御ドローンの事を教え、さらには、今回ラステルが演習遠征に出るという事を教えてやったのさ」
「でもそれだけでは、ゼルファ神帝国の奴らは、動かないのでは?」
「ぐふふ、大丈夫だ、奴らには俺が王位についたら、国交を結び、ほしい物をくれてやるっと言ったら、すぐに手を差し伸べてきたぞ。奴らも物欲の塊、大した事のない連中だ」
「(そんな甘いゼルファ神帝国ではないはずなのに)」
「2人以外の同級生の皆は、どうなさるので?」
「ああ、その他の奴は皆、ゼルファ神帝国へ引き渡す。どうなろうと知ったことではない」
「ゼビオ様、私たちは無事に帰れるのですか?」
「ああ、その心配はない、ゼルファ神帝国の奴らと根回しはできておる」
「このまま帰って怪しまれるのでは?」
「心配するな、そこは俺、公爵家の力で何とでもなる」
カツ カツ カパッ!
ゼビオはラステルの眠っているカプセルの隣へと歩き、そこにあるもう一つの睡眠カプセルの小窓の蓋を開けた。
「ふふふ(ああ、もう少しの辛抱だ、やっとお前が手に入る。ミレイ・フォン・アスターよ。あれだけ俺が誘っても、一向になびかなかった、気丈な女! 洗脳して俺だけのものにしてやる)」 フーッ!フーッ!
「まあ、今は手を出さない方がいいかと」
「そうだな、せっかくおとなしく寝ておるのだ、目を覚まし騒がれるのは、良くないからな」
「さようです(ラステル様、ミレイ様、皆んな…すまない…)」 ググッ
「では、自室に戻るか」 ザッ
「は、はい」 タタ
パタン カツ カツ カツ ガチャッ バンッ!
ゼビオとクリオと名乗る男2人は、留置室から出て行った。ゼビオとは、【ゼビオ・ヴェア・アルテア】、現皇帝の孫の1人で、皇帝の次男、【ゼレオ・ヴェア・アルテア】公爵の長男である。
捕われて眠っているラステルとは父親同士が兄弟で、ラステルの父【ゼオス・ヴェル・アトランティア】公爵が、王位継承者第一位だったが、昨年、何者かに暗殺、ラステルの兄【レトニア・ヴェル・アトランティア】が、二月ほど前に戦死、従って、ラステル、【ラステル・ヴェル・アトランティア】が、今現在王位継承者第一位で、皇太子殿下となっていた。
クリオとは、ラステル付きの従者で、【クリオ・フォン・ベルタ】、ベルタ男爵家の次男だが、今回、公爵のゼビオによって、ラステルを裏切り、今に至る。
―帝都、艦隊総司令部、司令長官室―
トントン ガチャ!
「失礼します。アニス、例の学園生ををお連れしました」 サッ!
「うむ、ご苦労、…ふむ、君がアニスさんだね、私はアトランティア帝国 大陸艦隊総司令官【ワイアット・フォン・エイブス】だ、宜しく」 サッ
「ん、アニスです」 ニコ サッ ギュッ!
「ほう、なかなか可愛らしいお嬢さんだな、で、グレイ彼女がそうなのか?」
「はい、記録媒体が損傷してしまって、映像はなにも残ってませんが、保証します。私がこの目で見ましたから」
「ふむ…」
「保証? この目で見た? 何の事ですかグレイ?」
「アニス、お前さんなんだろッ!『軽巡クラスの潜空艦』を消し飛ばしたのは!」 グイ
「え? な、何の事でしょう? はは…」 タラ〜
「誤魔化すんじゃないッ! 証拠は上がってんだッ!」 ジイ〜
「はは…はい、やっちゃいました…」 コクン
「なんとッ! こんな少女がか? 信じられん…」 ウ〜ン
「しかも司令、皇太子殿下の位置もわかっておるそうです!」
「それは誠かッ⁉︎」 グイッ
「え、ええ、まあ、わかります」 タジッ
「ちょッ ちょっとこちらに来たまえ!」 グイ
「え? え? ちょ、ちょっと…」 テテテ
総司令官はアニスの手を引き、司令官室の奥、壁一面のモニターに映し出された、この国の地図と数多くの光点が動くところへ連れて来た。
「これを見たまえ…」 ポン ピッ ピッ
「ん、光の点がいっぱい動いてるな」
「そうだ、これは我が領土地図、で、この青い光はわが軍の艦艇の一つ一つだ」
ピッ ピッ ピピッ!
「ん? このバツ点は何ですか?」
「そこは、今回皇太子殿下たちが、ゼルファ神帝国の潜空艦に襲われた地点だ」
そこは帝都「アダム」から数十㎞の所であった。
「こんなにも帝都の近くでさらわれたのですか?」
「うむ、面目ない。この辺りは防御ドローンも警備隊も手薄でな、まさかこんな所まで侵入されるとは思わなかったのだ」
「アニス、それで、皇太子殿下達は今どこら辺なのだ?」
アニスは、壁一面のモニターを見まわして、ある一点を指さした。
「ここ、ここにいます」 ビシ
「なッ!こんな山奥にか?」
「これは盲点ですな!」
「よし、直ちに部隊を向かわせよう!ありがとうアニスさん」
「ん~…」
「うん、アニス、どうしたんだ?」
「ここ、」
「「うん?」」
アニスは、光点が何もないゼルファ神帝国との国境を指さした。
「ここに、向こうの国の大きな何かが来ますよ」
「ここって、全然別の場所じゃないか」
「いやまて、グレイ…」 う~ん
「総司令官?…」
「グレイ、」
「は!」
「奴ら、どうやってこの国から出ようとする?」
「それは… 奴らもエネルギーや弾薬、食料、等が乏しいはず。ましてや皇太子殿下たちがいるんだ、早く自分の領土に帰りたいはずだ、だから早くこの国から出たい、だが今はそれが出来ないのではないかと」
「そうだ、だが、食料はともかく、エネルギーや弾薬がなければ、この国から容易には出られまい」
「そうか!陽動だッ! それも大規模な陽動で、他から目をそらすつもりなんだ! そしてその間に別働隊が侵入、回収に来る!」
「そのとうりだ!」
「では、今、アニスが指さしたところは…」
「その大規模な陽動部隊が来るはずだ」
「総司令ッ!」
「グレイッ!『ライデン』の様子はどうだ?」
「は! 先ほど見た状態では、おそらく後5時間ほどはかかるかと」
「5時間か…よしッ!」ピッ ポン
『はい、提督、お呼びでしょうか?』 ピッ
「すまんが『ラグレス』のグリフォード大佐を呼んできてくれ」 ピッ
『了解しました』 ピッ
「総司令、まさか…」
「そのまさかだ、君も信じるからには私もアニスさんを信じよう。恐らく大きな艦隊が動くはずだ、第2主力艦隊を出す」
トントン ガチャ!
「総司令、【グリフォード・フォン・バートン】大佐、参りました」 サッ
「うむ、」 サッ
「で、御用向きはなんですか?」
「グリフォード、出撃命令だ!」
「は!」
「第2主力艦隊は 明日0600時を持って緊急出撃、国境付近デラウラ高緑地にて布陣、ゼルファ神帝国の艦隊侵攻に対処せよ!」
「は! 第2主力艦隊は明日0600時を持って緊急出撃、国境付近、デラウラ高緑地にて、ゼルファ神帝国の艦隊に対し迎撃行動に入ります」
「うむ、頼むぞ!」
「はッ! おや、グレイ、久しぶりじゃないか、元気そうだな」 グッ
「バートン貴様もな」 グッ
「相変わらず駆逐艦の艦長をやってんのか?」 ニイ!
「ほっとけッ! 好きで俺はやってんだよッ!」 フンッ
「お前なら重巡どころか戦闘空母でもいけると俺は思うんだがねえ!」
「ああ、やめてくれ」 フリフリ
「ん、グレイは大きい船はダメなのですか?」 グイ
「いや、そのなあ…」
「おや、この綺麗で可愛いお嬢ちゃんは誰だい?」
「グリフォード、今回彼女が皇太子殿下の所在や、進行してくるであろう敵艦隊の位置を教えてくれたアニスさんだ」
「アニスです、よろしくお願いします」 ニコ
「ウッ! お、おうよろしくなッ!」 サッ カアア
「猛将、グリフォードが赤くなってら!」 ははは
「うるさいぞ! グレイ!ちょっと来い」
「なんだよ全く!」
グリフォードはグレイに近づき小声で言った。
「(おい、グレイ、どこの姫さんだ?)」 ヒソヒソ
「(は? アニスの事か?)」 ヒソヒソ
「(そうだ、他に誰がいる?)」 ヒソヒソ
「(そう言えば、しっかり聞いてなかったなあ)」 ヒソヒソ
「(なんだよそりゃ、お前も知らないのか?)」 ヒソヒソ
「(ああ、アニスはなレオンが連れて来たんだ)」 ヒソヒソ
「(なに⁉︎ レオンってレオハルト少佐か?)」 ヒソヒソ
「(そうだよ)」 ヒソヒソ
ガバッ! ジイ〜…
グリフォードは、総司令官と並んで、壁一面のモニターに向き直ってるアニスを見た。
「(まさか…レオンと同じじゃあねえのか?)」 ヒソヒソ
「(レオンとだと…ま、まさか…)」 ヒソヒソ
「(だって、レオンが連れて来たのだろ! あり得ない話じゃない!)」 ヒソヒソ
「(では、皇帝陛下の、2人目の婚外子だと⁉︎)」 ヒソヒソ
「(分からん、が、あの容姿と気品は王族のそれに近い)」 ヒソヒソ
「「 暫く様子を見よう! 」」 ウン!
グリフォードとグレイの2人は同時に声を出してうなづいた。
「ん、内緒話は終わりましたか?」 ウン?
「ははは、な、なにを言ってるのかな、アニスさん!」 ドキ
「そ、そうだぞ! アニス、気にするな! ははッ」 アセアセ
「では俺は行きます!」 サッ
「うむ、頼んだぞ! グリフォード!」 サッ
「グリフォード、気をつけてな!」 サッ
軽く挨拶をして、グリフォードは部屋から出て行った。
「さて、グレイ、貴様には皇太子救出の方を頼む」
「はあ、しかしライデン一隻では…」
「心配するな、一隻ではない」
「ではッ!」 ガバッ
「現在捜索活動中の艦隊をそちらに向ける」 二ッ
「現在捜索活動中の艦隊ですか…」 クイッ
グレイは、壁一面のモニターの方を見て、数多くの光点で、艦隊らしき光点を探した。
「ん、グレイ、この艦隊じゃあないのですか?」 スッ!
グレイは、アニスが指さしたモニターの中の一つの光点を見た。 その光点は、どの光点よりも活発に動いていた。
「さすがはアニスさん、大当たりだよ」
「えへへ、ありがとう」 ニコ
「総司令ッ! この艦隊は?」
ピッ ピピッ! ポンッ! タタタタ!
総司令官のワイアットは、机のコンソールを操作し、モニター上の光点の一つ、アニス達が見ていた活発に動く光点を拡大した。
「艦隊名は『第3独立任務部隊、通称デルタ艦隊』で、旗艦は『戦闘空母フェリテス』、艦隊指揮官は艦長の【アリエラ・フォン・ビアトリクス】大佐だ」 ピッ
「やっぱり…」 ふう〜
「ん、グレイは知ってるのですか?」
「ま、まあな、この艦隊には今、レオン達が配属になってるんだ」
「そうですか、じゃあちょうど良いのではないですか!」
「うん?」
「レオン達を回収でき、また共に活動できるんでしょ?」
「まあ、そうなんだが…」
「何か問題でも?」
「ははは、グレイ、まだ気にしてるのか?」 ニカッ
「総司令ッ!」
「ん?」
「アニスさん」
「はい、なんでしょう?」
「グレイはな、デルタ艦隊の艦隊指揮官、「アリエラ」と、先の第2主力艦隊指揮官、「グリフォード」と合わせて、この国最強の艦隊指揮官、『トリオ・テンプルナイツ』って呼ばれておったのだ」
「凄いじゃないですかグレイ! ん? 『呼ばれておった』? そう言えばグレイは艦隊指揮官じゃないですよね」
「そうだ、だが以前は艦隊指揮官だった」
「ん? 艦隊指揮官だった?」
「ああ、第一空雷戦隊、6隻の駆逐艦を伴い、敵艦隊を翻弄し続けた名艦隊指揮官だ」
「でも今は『駆逐艦ライデン』の艦長ですよね…」
「グレイはな、裏切りにあったのさ…」
それは、帝国軍 大陸艦隊史上、最大の大事件であった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。