第115話 森林地区 野営地談義
ーアトランティア帝国領内 森林地区ー
パチパチ カタン ボウッ メラメラメラ…
アニス達は夕食も終わり、焚火を囲んで就寝前のひと時を過ごしていた。
「アニスさん、ご馳走様でした」
「いえ、どういたしまして」 カチャカチャ
アニスは食器類を洗い、すべての道具を異空間に戻して、かたずけを終えた。
「ん、これで良しッと、後は…」 コポコポコポコポ
アニスは片付けが終わった後、全員分の食後のお茶を淹れ、皆がいる焚き火の所へ持ってきた。
「お茶です、どうぞ」 カチャ
「あ、ありがとう、 あら、いい香り」 コク
「へえ、こんなお茶があるんだ」 コク
「うん、美味しい」 フ〜
「ああ、美味いな、コレはいいッ」 ゴクン
ジェシカとアランをはじめ、皆アニスの出したお茶をほめた。
「ねえ、アニスちゃん」
「ん?」
「差し支えなかったら、アニスちゃんのこと教えてくれない?」
そう、隣にいたジェシカは、アニスに問いかけてきた。その質問に、この場にいる全員が耳を傾けていた。
「私のことですか?」
「うん、あ、できればでいいからね」
「そうですね、ジェシカには制服も貸して貰ってますし、わかりました」
「よかった、ありがとう」
「ええ、言える範囲でよければですけど」 ニコ
「それでもいいわ、教えて」
「はい、まず、私の名前はアニス、家名、爵位はありません」
「えッ! マジかよッ! こんなに可愛いのに? でも家名は何で無いんだ?」
「アランッ!」
「なッ なんだよジェシカ!」
「女の子には色々あるのッ!(そのくらい、察しなさい!)」
「あ…そ、そうか、ごめん…」 ペコ
「いいですよ、気にしてません」 ニコ
「あ、ありがとう(この笑顔だ! 天使すぎる!)」 ポッ
「俺は構わないねッ! な、なんだったら俺のところに来る?」 カアッ!
「もうッ!マイロッ! ふざけないのッ!」 キッ
「おい! マイロッ! さっき約束したろッ!」
「そうですよッ! マイロさんッ!」
「お、おう、すまない、調子に乗った…」
「フフ、じゃあ続けますね、今は、1人です。身内はいませんね」
「え? ご両親や親族、全てですか?」
「はい」
「ご、ごめなさい…」ペコ
「いいんですよジェシカ、気にしてません」
「で、でも…」
「私は今まで一人でやってきました、もう慣れてますから」
アニスのその一言に、男子は『アニスは、俺が守るッ!』、女子は『ほおっては置けない!』っといった感情がわき、それぞれがアニスに対し、『この娘は、自分たちで何とかしなくては』と言う、暗黙の誓いができた。
「アニスちゃん! 今は私たちがいるからねッ!」 ガバッ! ギュウウ
「そうよっ! だから安心してッ!」 ギュッ!
「私もッ!」 ギュッ!
ジェシカ達3人は、アニスに抱き着いた。それを見たアラン達男子は(くう~、ジェシカ達がうらやましい)と思っていた。
「ありがとう、ジェシカ、みんな」
「「「 うん 」」」コクン
「あと、生まれた時から、私にはとてつもない魔力と力が備わっていました」
「うん、それはわかるわ、あのドローンを倒してしまうくらいだから」
「ん、で、その力や魔力と共に、いろんな世界を旅してまわりました」
「じゃあ、やはりあなたは帝国人ではないのね」
「ええ、それで私は今、この世界の事や、ジェシカ達の事を知りたく、ここまでやって来たのです」
アニスは嘘を一つもつかなかった、自分が異世界から来たのでこの世界には、身内がいない、創造者として生まれたので、とてつもない力と魔力を持っている、異世界や神界、異次元世界と巡っているので、いろんなところに行って旅をしている、この世界に来てみれば、約500年後の世界、よって、この世界の事、会ったばかりの、アレンやジェシカの事を聞いてみたいっという事だった。
「じゃあ、あの凄い動きや技は? あと魔法使えるの?」
「ん? 凄い動きと技?」
「ええ、あなたが防衛ドローンを倒した動きよ」
「ああ、高速移動術と剣技の事ね」
「高速移動術? 剣技?」
「はい、高速移動術は、《瞬歩》《縮地》《刹那》と言う順に、移動速度が上がり、攻撃相手に接近する体術ですね」
「え? 体術? なに、特殊能力じゃないの?」
「私の育った所では、皆《縮地》までは使いこなせてましたよ」
「アニスちゃんのいた所って、それが普通なんだ」
「俺達には無理だ。そんな体術聞いた事ねえし、知らない、使えないぜ」
「そうなんですか…(この世界では体術なども衰退してるのか?)」
「それで、剣技ってなに?」
「はい、文字通り、剣を使って相手を攻撃する技ですよ」
「それ、どんな物なの?」
「そうですねえ…」 スクッ シュリンッ!
アニスは立ち上がり、背中腰裏に装備している神器「アヴァロン」を抜いて見せた。
「私の愛刀で見せましょうか?」 ニコ
「アニスちゃんの愛刀ってその短剣? まさか、そんな短剣でドローンを倒したの?」
「はい、そうですよ、短剣ですけど先程言った剣技を使えば倒せます」
「見せてもらえるかい?」
アランはアニスに剣技の実演を頼んだ。
「ん、いいですよ。じゃあ、見てて下さい」
そう言うとアニスは誰もいない方向に体を向け、右足を少し下げ、腰を落とし構えた。
「行きますッ! 剣技!《エノーマル.エッジッ!》」 ビュンッ!
シュパアアアアーッ! ザンッ! ドオオオンッ!
アニスが剣技を出した前方、10m位先にあった大木を、一瞬で切り倒してしまった。
「なッ! こ、これが剣技…」
「凄い、あんな短剣が大木を切り倒すなんて…」
「それも、こんなにも、離れているのに…」
アニスの剣技を見た皆が驚いていた。
「それが剣技なの?」
「はい、一部ですけどね」 ニコ チャキン スタッ
「一部ですか、ハハ…」
「まだまだ、色々な剣技がありますが、ここでは危ないので、控えます」
「そ、そうなんだ、じゃあ魔法は? アニスちゃん、魔道具の類は一切持ってなかったよね?」
「私は、魔道具は一切使いませんよ」
「え?、じゃあどうやって使うの?」
「ん、ただこうやって…」 ボウッ! メラメラ
「「「「「「 はあッ⁉︎ 」」」」」」 ガバッ!
「えッ? どうしたんですか?」 メラメラ ユラユラ
アニスは手のひらを上に向け、詠唱も魔道具も無しに、炎を出し、それを出し続けて見せた。
「火が出た!」
「魔道具、本当に使わないのね」
「お前、あれできるか?」
「無理無理無理ッ! そもそも、魔道具を使ってもあれだけ長い時間炎を出したら、倒れっちまうよ」
「だよなあ、魔力が続かねえ! アニスちゃんはやっぱ凄いや」
「ま、魔法もたくさんあるの?」
「ん、ありますよ」
「ちなみに、どんなのがあるの?」
「そうですねえ、ボールから始まって、バレット、アロー、スフィア、ランスに、あとウォール、それから…」
「ちょ、ちょっと待ってッ!」 バッ!
「 ん? 」
「今言ったのって…」
「はい、属性一つの強い順です」
「はッ? 強い順? 属性一つ? 何言ってるかわかんないッ!」
「ええッ!(もしかして、基本の魔法属性すら知らないのか? 参ったなあ… )」
「アニスちゃん、もうちょっと詳しく教えて」 ニコ
「はあ〜、ではいいですか?」
「「「「「「 はいッ! 」」」」」」 ビシッ!
「魔法属性には、火、水、風、土、光、闇、無、この7つがあります」
「そんなに⁉︎」
「学園ではそんな事、教えて貰って無かったよなあ!」
「ああ、無かった」
「学園では何を学んでいたのですか?」
「え〜っと、算術に語学、一般教養、魔法は火、水、風、光 だけだな」
「そうなのジェシカ?」
「ええ、それも火、水、風、が中心ね」
「じゃあ、強さはどうなの?」
「無いわ」
「 え? 」
「強さなんて無いのよ、私たちは魔法理論と基本だけ。後は魔道具で強化するの」
「はッ?(そうか、魔法の種類と理論、それさえ教えておけば、後は魔道具次第、使う用途によって、魔道具を変えるだけ。この世界の魔法とは、魔道具の能力、威力でその力が変わる。そんな物だったのか)」
「アニスちゃん?」
「ん、ごめんね、考え事してた」
「いいのよ、それで、魔法って魔道具なしで使えるの?」
「魔法ですか?」
「ええ、さっきみたいに、手のひらに炎を出したでしょ」
「そうですね、私は魔道具を使いません」
「じゃあ、やっぱり魔道具なしで魔法を使うのね」
「はい」 コクン
「やはり、アニスちゃんは凄いぜ、俺なんかこの魔道具、魔力ライフルが無いとダメだからな」 スチャッ
アランは学園支給の演習用魔力ライフルを見せた。
「私もよ、コレが無いとダメだわ」 チャキッ
ジェシカは筒状の、剣でいう握りだけのものを見せた。
「ん、それなに?」
アニスはジェシカの持つそれに興味を示して聞いた。
「ああコレ?」 スッ
「うん」 コクン
「コレはね『ライトニングセイバー』、自身の魔力を使って、魔力の刃を出す、言わば魔力剣ですね」
ジェシカはそう答えた。しかし、アニスはそれを見て思った。(コレは良く無い)と…
「ん、それ、ちょといい?」 サ
アニスは手を出し、ジェシカの持っている「ライトニングセイバー」を貸してくれるように言った。
「ええ、どうぞ。 私用に調整されてるから使えないと思うけど」 サッ
「ありがとう、 ん? コレは…」 ググッ
「ね、流石にすぐには使えないでしょうけど…… えッ!」
ヴォオンッ! ビシュンッ! ビイイイイイ!
「ええーッ⁉︎ 起動したあッ⁉︎」
「ん、コレが『ライトニングセイバー』か…」 ジロジロ
アニスに自分の「ライトニングセイバー」を渡し、話している時、アニスはいとも簡単に、それを起動させた。だが、それだけでは無かった。ジェシカから借りた、「ライトニングセイバー」を持って、少しその場から離れ、それを振り回してみた。
ブオン! ビュンッ! ブオンブオンッ! ビュンビュン!
「アニスちゃん凄いッ! 完璧じゃ無いッ!」
「ちょ、ちょっと待ってッ! アレってまさかッ!」 プルプルッ
ジェシカはアニスに渡した自分の「ライトニングセイバー」を見て指を差し震え出した。
「どうしたのよジェシカ、何か変なの?」
「ルナッ! よく見てッ! セイバーの色よッ!」
「え? 色ッ! …ええーーッ!」
「そう、蒼金色ッ! 神に近しい人にしか使う事の出来ない色ッ! それが私の訓練用のセイバーで出るなんて…」
ブオンブオン、ビュオンッ! ビンビンッビシュッ!
「ん、だいぶ慣れて来たぞ! こいつの使い方も分かった」 ザッ!
「ア、アニスちゃん?」
「ん、ちょっと試してみるね」 ニコ
「え?」
クルクルッ! パシッ! ザッ!
アニスは、ジェシカの「ライトニングセイバー」を2回ほど、手の中で回し、それを逆手に持った。
「え⁉ アニスちゃん、持ち方が反対だよッ!」
ジェシカがそうアニスに注意したが、アニスは笑顔でそれに答えた。
「うん、でもいいんだ、ジェシカ」
「 え? 」
「こいつの本当の使い方を見せてあげる」
「え、なに?、本当の? 使い方?」
アニスは先程の剣技のように、逆手に持った「ライトニングセイバー」を、体の後ろへもっていき、腰を少し落とし、右足を下げ、剣技に入った。
「ん、神級剣技ッ!《グランツ.カッツエーッ!》」 ビュオンッ!
ブンッ! ビュビイイイイ―ッ! シュワンッ! ドガアアアアンンッ!
「「「「「「わああああーーーッ!」」」」」」 バババアーー
ビュウウウーッ! バラバラバラッ! パラパラ パラ
アニスが、剣技を放ったその先には、森林が切り開かれ、まるで宅地造成でもされたかのように、直径100m程の円形状に土地が更地になっていた。
「ん、意外と強いなコレ、魔道具か、この時代の道具はすごいな」
パリッ パリパリッ
アニスは剣技を出し終わった後、魔道具の「ライトニングセイバー」を見て、この時代の魔道具の評価をした。 その魔道具は、技を出し終わった後なのに、いまだに少し放電をしていた。
「こ、コレが、私の『ライトニングセイバー』の威力だって言うのッ!」 ヒュウ〜
「こ、こんなの知らないッ! 教官だってこんなこと出来てなかった…」 パラパラ
「お、おいッ! 大丈夫か?」
「ううッ! マイロか? 何があった?」
「見ろよッ!」 クイ
「なッ!… 」
「ジェシカの『ライトニングセイバー』をアニスちゃんが使った結果だぜ!」
「うおッ! 凄ええッ! アニスちゃん、こんなにも魔力があったんだ」
男子も女子も、アニスの技に、只々驚くだけだった。
「はい、ジェシカ、ありがとう」 スッ
「アニスちゃん凄いッ!」 ガバッ!
「 わッ! 」
「本当です、まるで、公爵家の【ミレイ・フォン・アスター】様みたい」
「ん? ミレイ? 知り合いなの?」
「え、ええ…アスター公爵家の長女で、私達の同級生ですわ」 チャカ!
「 ん? 」
「アニスちゃん、ちょっとお願いがあるの…」 ギュ
ジェシカはアニスに近寄り、両手でアニスの手を握った。
「ん、お願い?」
「ええ、先程の技、私に教えていただけませんか?」
「 え⁉︎ 」
「アレだけの威力、私はそれを身に付けたいんです!」
「何か理由でも?」
「はい、その……」
「私、ミレイ様のお力になりたいのッ!」
「 へ? 」
「みんなッ! 言っていいかしら?」 バッ
ジェシカがその場にいる全員に、確認を取った。
「ああ、俺はいいぜ!」
「アラン…」
「俺もだ!」
「マイロ…」
「「 私達もいいよ! ジェシカ!」」
「エリー、ルナ…」
「ぼ、僕もいいですッ!」
「オスカー…みんなありがとう」
「何か訳ありみたいな話し方だな、何かあったの?」
「ええ、アニスちゃん。 今から話す事は重要機密なの!いい?」
「 ん! 」コクン
「じゃあ話すね……」
ザワッ!
ジェシカの話の内容に、アニスの奥底から怒りのような嫌なものが湧き上がってきた。話し終えたジェシカ達は皆涙ぐんでいたからだ。
「ん、わかった、全面的に協力するね」
「アニスちゃん…ありがとうッ!」 ガバッ!ギュウッ!
「ん、じゃあ今度はそれ、貸して?」 ニコ
アニスはアランが持っていた訓練用の魔道具、魔力ライフルを指刺し、アランにお願いした。
「 え? 」
「いや、『え?』じゃなくてそれ、撃ってみたい」 ニコ
「はッ? こ、これ⁉︎ これを使うの?」
「 ん、」 コクン
「アランッ! 渡しちゃだめだああッ!」 ガバッ
「そ、そうよ、いくらアニスちゃんの頼みでもそれだけはダメえッ!」
「ん? なんで?」 コテ
「だって、アニスちゃんが魔道具使うと半端無いのよ!」
「大丈夫ですよ、ほら、あそこの山をちょっと撃つだけだから」
「ダメええッ! あそこは私の家の領地なの!」
「じゃあ、あっちの…」 スッ!
「そっちは俺んとこだよ! 頼むからやめてね」
「じゃあ、どこならいいの?」 ん?
「どこもダメだから、お願いアニスちゃん、ライフルはまた今度に、ね!」 ペコ
「ん、じゃあ今度にする」 プク
「あ、なんか可愛い」 うふ
「よかったあ〜(ふう〜、危なかったぜえ、女子用の『ライトニングセイバー』であの威力だ、ライフルなんか使ったら、山一つ吹っ飛ぶんじゃねえか?)」
「 ん? 」 ニコ
「あの笑顔がいいんだよなあ…」 はあ〜
野営地の夜はまだ始まったばかりだった。
パチパチ カタン ボウッ メラメラ パチ…
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。