第112話 ファーストコンタクト
―異世界「アーク」アトランティア帝国近郊の森(帝国領内)―
ドガアアアアンン―ッ! ボウワッ! ボウボウッ!メラメラ…
静かだった森の中が、今はその爆発と木々が燃える炎で、ざわついていた。そしてそこには人でも魔物でもない、異様ないでたちの物体が、地面よりわずかに浮き、炎の海と化した辺りをじっと見ていた。
ピピッ! ピピッ! ピピッ!
『探索中! 探索中! 探索中!』 ブ~ン ブ~ン
それは、黒い筒状の物体で、足はなく宙に浮き、その大きさは、高さ3m、太さは80㎝、上から90㎝の所に両腕が付いており、その両腕には何やら筒状の物が付いて、そこからわずかな煙を出していた。頭であろう部分には、何やら光が回っており、その中心には、赤いひとつ目が光って、辺りをじっと見ていた。
『探索中! 探索中! 探索中!』 ブ~ン ブ~ン スーーッ!
それは音もなく前に移動し、攻撃した相手、アニスを探していた。そして、その物体がアニスがいたであろう場所に来た時、その物体は予期せぬ攻撃にさらされる。
「剣技ッ!《イージス.エッジッ!》」 ビュホンッ!
ビシイイイッ! ガアアアアンンンッ!
『ギッ⁉…ビビ…ビーッ!」 ドカドカンッ! ゴロゴロゴロッ!ドオオンン‼
その物体は、強い衝撃を受け前に吹っ飛んでいき、宙に浮くことすらできず、地面を転がり岩に当たって止まった。 だが、土煙の中それはまだ生きていた。
シュ~シュ~ ピピッ! ピピッ!
『目標ヲ確認』 ピピッ! ビーッ! ブオンッ! ガバアアッ!
そう言うと、倒れていた体を起こし、再び宙に浮いて、攻撃をしてきた者に、体を向けた。
そこには、青みかかった白銀髪を揺らし、右手に神器級ミドルダガーをもって構えた白い服の少女、アニスがそこに立っていた。
「なんだコイツ?《イージス.エッジ》を食らっても無傷なのか、すごいな」
チャキッ!
アニスが感心してその物体を見ていた時、それは再び攻撃してきた。
『目標ヲ排除ッ!』 スウ チャカッ!
「あ、また来るッ!」
ドンドンドンドンッ! シュシュシュシュ―ッ!
「ん、《ファントムッ!》」 ブンッ!
『ギッ⁉』 ドンドンドンッ!
アニスは、その物体の攻撃が当たる瞬間、その体がぶれ、その場から姿を消した。
ドカドカドカドカアアアンンッ! ブワアア―ッ! メラメラ
『目標ヲロストッ! 探索中!』 ブ~ン
「ここだよッ!」 ブンッ!
『ギギッ!』 グルンッ!
アニスの声で、その物体がアニスに向き直ろうとした一瞬後、アニスはその物体のすぐ後ろに現れ、反撃の一撃を加えた。
「ん、神級迎撃剣技ッ!《ガイエリアス.グラン.ファングッ!》」 シュンッ! ビシイイッ!
『ギギッ⁉︎ ギイーーッ!』 ザンッ! ボトッ! ドオオンッ!
アニスの一撃は強力だった。その物体の右腕と下半分を袈裟斬りにして、切り落としてしまった。下半分を失ったその物体は、宙に浮くことができず、その場に倒れてしまった。
『ギギ、右腕損傷、機動ユニット欠落、行動不能、救援要請』 ブ〜ン
クルクルクルッ! チャキンッ! ザッ ザッ !
相手を倒したアニスは、神器ミドルダガーを手の中で回しながら背中腰の鞘に収め近づいていった。
「ん、今度のは効いたか、なんなんだコイツは?」 ジ〜
ブオンッ! グググッ! ブ〜ン
「わッ! まだ動くのか」 サッ
『脅威的存在ト断定、排除シマス』 ギギギッ チャカッ!
倒れながらもその物体は、残った左腕の筒をアニスに向けてきた。
「ん、《イグニ.グラン.バースト》」 キイインンッ! ドゴオオオンッ!
『ギギッ! ギイーーッ!……』 ジュワアアアアーーッ!……
ボウッ! メラメラ パチパチッ! メラメラ…パンッ! ガチャン…パチパチ…
「結局、何だったか分からず終いだったな。まあ、街にけば何かわかるかな」ザッ
そう言って、アニスは颯爽とスカートを翻し、その場を後にした。
ーアトランティア帝国帝都 国防省CICー
そこはこのアトランティア帝国の防衛を一手に担う施設、国防省の一角の防衛センター、そこの中央制御室では、異常事態アラームが鳴り響いていた。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
『帝国領内に侵入者、自動防衛システム作動』
『防衛ドローン、マーダー6 接敵稼働中』
「何事かあッ⁉︎」 カツカツカツ
帝国防衛の責任者、防衛センター指令は、緊急警報で自室から司令室にやってきた。
「は、本日午前1015時、帝国領内に侵入者を感知、これを今、迎撃中でありますッ!」 バッ
「侵入者だとおッ! 位置はッ!」
「はッ チャートナンバー12、帝国国境内森林地区、マークポイント13、イエロー11、チャ―リーッ!」
「なッ! 侵入されておるではないかッ! 国境守備隊は何をしていたあッ!」
「それが、目標は突然現れましたので、守備隊には接触してないかと」
「むうう、それで現状はッ⁉」
「はッ! 現在、防衛ドローン、一機が作動中、迎撃行動をしています」
「ふむ、なら大丈夫だろ、アレに勝てる者などおりはせんッ!」
帝国領内に配備されている防衛ドローン、いわゆる無人全自動防衛戦闘機械であった。帝都の者ならば、特殊IDチップがその体に埋め込まれており、敵対行動をしない限り攻撃を受けることはない。だが、それがない者に対しては容赦なく攻撃を仕掛け抹殺する、恐ろしい戦闘兵器である。
ビビーッ! ビビーッ!
「うん? どうしたあッ!」
「防衛ドローン、マーダー6よりエマージェンシーですッ!」
「なにッ! 損傷を受けたのかッ⁉」
ピーーーーーーッ!
「マーダー6ッ! ロストッ! 識別信号途絶ッ! 破壊されましたあッ!」
「ば、馬鹿な… アレを破壊だとお? そんなことが可能なのか?」
「侵入者もロスト!おそらく帝国内に進んでいると思われます!」
「くう、直ちに非常態勢! 全、防衛ドローン、及び索敵探査ヴェルパーを向けろ、急げッ!」
「「「 はッ! 」」」
「「「全システム解放!索敵……」」」
コンソールの兵士たちがけたたましく作業し、命令を実行していく、そんな中、その場の最高責任者は椅子に座り考え込む。
「(いったい何者が侵入してきた? ディアル皇国のやつらにはこんな事は出来まい。なら、誰だ?)」
そう、思案していると、またほかの兵から報告が来た。
「司令、ちょっと御報告があります」
「なんだ、手短にな!」
「はッ! 先程の侵入者が現れた森林地区なのですが、本日、帝都学園3回生の生徒120名が、実戦演習の遠征をしています」
「だからなんだ! 学生とは言え帝都学園は軍の予備校でもある。心配には及ばん!」
「はッ! ですが…」
「なんだ、ハッキリ言わんかッ!」
「はッ! その学園生徒の中に皇帝陛下のお孫様の『ラステル』様と、アスター公爵家の御令嬢『ミレイ』様、その他高級貴族の嫡子、嫡男の面々が参加しております!」
「なッ! なんだとおおおッ!」
「いかが致しましょう、司令」
「ウググ、防衛ドローンは現状維持だ! その代わり準戦闘型のフィアットとレンジャーを出せ!」
「はッ!」 タタタ
「「「 指示命令変更! フィアット準備! レンジャー各隊は…. 」」」
「全く、なんて間の悪い、王侯貴族の学生達に何もなければ良いが…」
防衛センター司令は椅子に深く座り、センター内の大型モニターを見てため息をついた。
ーアトランティア帝国領内 森林地区 演習地域ー
ドオオンッ! ダンダンッ! パパパパッ! ドオオンッ!
ここは帝国の火力演習場、15〜18歳位の若者達が、それぞれ手に演習用の武器を持ち、その武器の練習をしていた。彼らが持つその武器は、棒状の筒があり、持ち手と引き金がついたいわゆる「ライフル銃」と言う武器であった。ただ、違うのは、火薬式の銃弾を打つのではなく、自分自身の魔力をそのライフル銃に込め、引き金を引いて打ち出す、魔力弾を撃つ「魔力ライフル銃」であった。
「うん、良いねえ、流石皇帝陛下のお孫さんだ、筋がいい」 パチパチ
「ふん、この程度、なんともないさ、何だったら、あの大的を破壊しようか?」
彼が言った大的とは、演習場左奥にある、直径10m、厚さ5mの円柱を横に倒した的で、これは魔力銃や魔力ライフル用の的ではなく、魔力砲や、魔力噴進弾用の的であった。
「ははは、ご冗談を」
「冗談ではない、かつて我が先祖はこのような武器を持たずとも強力な魔弾が撃てたのだ。俺にそれができないわけがない」
「あらあら、勇ましいこと」 サクサク
「なんだミレイ、何か用か?」 チャキッ! ブブブッ!
「あらあ、未来の奥さんが未来の夫に近づいてはいけませんの?」
ダアアンンッ! ビシッ! ドガアアンンッ!
「ふん、親同士が決めたこと、俺は納得してなどいない」 チャキッ! ブブブッ!
「あらあら、そんな事を言ってはお爺さま、皇帝陛下に怒られますわよ」 ふふ
ダアアンンッ! ビシッ! ドガアアンンッ!
「なら怒らせておけばいいッ、ミレイ、お前だってそうなんだろ?」 カチャ
「ふふ、ご想像にお任せしますわ」 ニコ
青年は訓練用の魔力ライフルを指定の場所に戻した。
「もう、宜しいのですか、殿下?」
「ああ、全弾命中だ、俺の魔力も無尽蔵ではない、流石に疲れた。休む」 ザッ!
「なら、私も付き合いいたしますわ」 サクサク
「うん?お前の訓練は終わったのか?」
「はい、相手の殿方がみな倒れてしまったので、訓練といってよいのかどうか」
「まあ、お前の『ライトニングセイバー』を打ち負かすなど、俺以外誰にもできんだろな!」
「あら、今一度、お相手願いますか、殿下?」
「今はダメだ、魔力が足りない。また次の機会でならいいぞ」 ザッ! ザッ!
「うふ、言質、いただきました。それでは次の機会といたしましょう」 サクサク
2人は並んで歩き、火力演習場の出口に向かっていった。
この2人、王族と公爵家との間に、生まれた時から決まっていた婚約者同士である。共に16歳、とっくに成人年齢になってはいるが、学業を優先していまだに結婚はしていない。王族の「ラステル」は王位継承権第5位の位、上に兄が1人いる。類い稀ない魔力の持ち主で、文武両方に優れた青年である。一方女性の方は、アスター公爵家の長女で、その気丈夫と気品、文武も平等、王族に嫁ぐには問題なしとされた少女である。
パアンッ! ドンドンドン! ドガアンンッ!
「おらそこおッ! ちゃんと的を見ろおッ! あと、魔力をもっとこめろおッ!」
「は、はい!」 シュウウッ! パンッ! チュインンッ!
「だから的を見ろと言ってるだろうがあ!」
「すみませ~ん」
皇太子殿下である「ラステル」はその様子を見て、首を横に軽く振りつぶやいた。
「クズがッ!、あれではだめだ…」 ザッ! ザッ!
「あら、私たちの年齢ではいいほうですよ」 サクサク
「だが、あれでは何の戦力にもならない! あのまま戦場に出れば確実に死ぬぞ!」 ザッ! ザッ!
「ふふ、やはり、殿下はお優しいですね」 サクサク
「な、何を言うのだ?」 ピタ
「ひどいことを言っているようで、実はその者を安じている。そうでしょ」 ニコ
「ふん、気のせいだ!」 ザッ! ザッ!
「ふふ、(不器用な方…)」 サクサク
そんな時、ラステルの従者の1人が、慌ててやってきた。
「ラステル様ーッ!」 ダダダッ!
「どうしたのだクリオ、お前がそんなに慌てるとは何事だ?」
「は、はい、ハアハア、い、今、帝都よりハアハア れ、連絡がありました」 ハアハア
「うん? 帝都から? で、内容は?」
「はい、この近くの森林地区に侵入者です」
「侵入者? それは何かの間違いであろう、ここは帝国領の中心近くだぞ、国境沿いならまだしも、こんな奥まで来られるわけが無いじゃないか」
「ですが、これは国防省、防衛センターからの電文です」
「む、国防省か…では間違いなさそうだな」
「はい、で、今回の実演実習の遠征は、直ちに中止して帰還せよとの事です」
「うむ、わかった、皆に帰還準備をさせよう、お前も急げ」
「はッ」 バッ ダダダッ!
「ラステル…」
「ああ、心配ないさ、俺たちは皆強くなってる。侵入者くらい何とかなる!」
「ええ、そうですわね、では、私達も準備しましょう」
そう2人が歩き出した時、演習場の方で大爆発が起こった。
ピカアッ! ドガアアアアーーンンッ! ビュウヲオオオーッ!
閃光と爆発音、それに続き、猛烈な爆風があたり一面に吹き荒れた。
「な、なんだ⁉︎ ミレイッ! 大丈夫かあッ!」 ビュウウウー
「ええ、私は大丈夫ですわッ」 ビュウウウー
やがて爆風が収まり、周りの様子がはっきりとしてきた。
「ミレイ、君は宿舎の方へ皆と行くんだッ!」
「ラステルはどうするの?」
「俺は何があったのか見に行ってくる」 ザッ
「わかったわ、気をつけてくださいね」 タタ
「ああ、わかってる」 ザザッ! バッ!
ラステルは、爆発のあった演習場に駆け出していった。そして彼は出会ってしまった。
演習場には、爆発に巻き込まれ倒れて動けなくなっている教師と生徒が20人程、その爆発の中心にあの防衛ドローンが宙に浮いていた。周りは窪み、いまだに煙が燻っていた。そして、その防衛ドローンの前に立ちはだかる、純白の少女、彼の思考はそこで止まり、その少女しか目に入らなかった。
青みがかった白銀髪をなびかせ、白い上着に白いスカート、腰の紺色のコルセットが引き立つその颯爽とした姿に一目惚れしてしまったのだ。
「美しい……」 ザッ
ただこの一言しか出なかった。その時、彼女の姿が消えたと思った瞬間、防衛ドローンが爆発炎上した。一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。防衛ドローンがその場で燃えて崩れた時には、もうその少女の姿はどこにもなかった。
「はッ! どこだッ! どこにいるッ!… 消えた?」 キョロキョロ
彼は演習場を隈なく探したが、何処にもその白い少女の姿はなかった。
「俺は幻影でも見ていたのか… 」
そう思ったが、目の前の燃え尽きて転がる、防衛ドローンの残骸が、それを否定した。
「いやいるッ! 絶対に見つけてみせるッ!」 グッ!
彼はそう心に誓い、その場に倒れている者達の解放に向かった。しばらくして、救護隊が来たので、彼らに任せ、ミレイ達が待っているであろう宿舎に戻っていった。
「おーい、こっちだあ! 担架をたのむッ!」
「しっかりしろ! 大丈夫だ、すぐ治る」
ワーワー、ガヤガヤ……
爆発現場はまるで野戦病院の有様だった。幸いにも、ほとんどが軽症で、気を失っているだけであった。事の原因は生徒の魔力操作ミス、膨大に膨れあがり魔力爆発を起こしたのだ。その爆発で防衛ドローンが現れ、生徒達を危険分子と判断、攻撃してきたのを、謎の白い服を着た少女がそれを防ぎ、教師と生徒を助けたと言うのが真相らしい。
今、学園側もその少女を探しているらしいが、情報が少ないので上手くいっていないそうだ。
「で、わざわざそんな情報を、私に伝えに来たのですか、殿下?」 コク
宿舎のテラスで、ラステルとミレイは紅茶を飲みながら、昨日の話をしていた。
「え?いや…その…ミレイにも、今、どんな状況か知っておいた方かいいと思ってな」
「ふ〜ん……」 コク カチャ
「殿下、」
「うッ、なんだ?」
「その娘、可愛かったんでしょ?」
「なッ! 何を言う、そんな事ないぞッ!」
「いいえ、殿下は気づいてないのですか?」
「な、何をだ?」
「先程から、顔が喜んでますわよ」
「え?、この俺が喜んでる」 カア〜
「ハア〜、(これは、殿下の初恋ですわね)」
「とにかく、その娘の事は、学園に任せましょう。いいですね」
「そ、そうだな、でもダメな時は俺も手伝おうかな、ははは」
「オホホ、(もう、完全に入れ込んでますわ、これはこちらが先に見つけて、その娘に会わなければいけませんね)」
「さあ、明日には帰れそうだ。早く帰って準備しなくてはな!」
「ええ、準備ですね、いいですよ(なんの準備だか)」 ニコ
あははは…. オホホホ…..
ーアトランティア帝国領内 森林地区ー
パチパチ メラメラ カタン ボウッ! メラメラ
パクッ! ングング ゴクンッ!
「ん〜ッ 美味し〜いッ!」 パク モグモグ
「 んッ⁉︎ 」 ゾクッ! コクン
「なんだ? なんか寒気がする? ま、いいっか!」 パク ングング
アニスは1人、森林地区内で、山鳥を捕まえて捌き、ソロキャンプを楽しんでいた。
パチパチ カタン メラメラ……
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。