第110話 アニスと新生世界「アーク」
ー新生世界「アーク」 フェスタールの丘ー
ピピピッ ピチュピチュ チチチ バサバサ ササーッ! そよそよ
ここはジオスが再生した新生世界「アーク」にある、政令都市ガルア近郊のフェスタールの丘。心地よい日差しと小鳥の囀り、さわやかな優しい風が吹いている草原に、倒れて横になっている者がいた。
「ああ…いてて、ここは……あッ…空が青いや…」 ガサッ!
足の短い草が生えているその場所に、仰向けで気が付き目を開けると、そこは雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。 太陽の日差しも優しく、時々優しい風が、頬を撫でた。
「よっと、ん~… んッ⁉ え? ま、まさかッ!」 バッ!
その場から起き上がり、背伸びをし、今の状況を確認しようとした時、あることに気がつく。
「はあ〜……戻っちゃったか…この体に…」 ガクン ペタ
「ん、…でも、まッ これでよかったんだよな、…【アリシア】…」 クイッ!
そう言って、その場で天を仰いだ。ここ、新生世界「アーク」からは見ることが出来ない、第29神界世界の方を向いて。
「うん、ジオスからアニスに戻っただけだ。まあ、あれだけ魔素元素を使ったんだ。しょうがないか」 スタッ! パッ パッ
そう、フェスタ―ルの丘に倒れていたのは、この新生世界「アーク」の誕生と、第29神界世界を創造創生した創造者、ジオスの、この世界に降臨した時の姿であった。
背格好は16歳の少女、身長は160㎝程度、青みがかった白銀髪のセミロングヘア、で、胸や腰回りは年相応、瞳は左が濃紺、右が淡い赤のヘテロクロミア、誰が見ても完璧な美少女で、服装は白を基調としたインナー、オフショルダーシャツにガードジャケット、膝上丈のアーマーコルセットスカートに白のニーハイソックスと格闘用ショートブーツ、背中腰のあたりに神器級武器、ミドルダガーの「アヴァロン」を装備した、その名は【アニス】が、スカートの埃を払いながら立っていた。
「さてと、元に戻ったのなら、それはそれでよし! 後は、今のこの体がどれだけ動けるかだな」 テクテク
アニスは、自分の今の能力がどれくらい使えるのか試してみた。目の前、10m程の所にある大岩に対し、アニスは右足を少し引き、腰を下げ、右手で背中腰に装備している神器、ミドルダガーの「アヴァロン」に手をかけ剣技を使ってみた。
「ん、《縮地!》 剣技!《エノーマル.エッジッ!》」 ヒュオンッ! シュパアーッ!
シュウウウウー ズパアアンンッ! バカンッ! ゴトッ!
放たれたアヴァロンの軌跡は、その大岩を難なく、切り裂いて真っ二つに割ってしまった。
「ん、使えるね。じゃあ次は魔法か」 ザッ! チャキン
神器の「アヴァロン」を背中腰の鞘に戻し、今度はさっきの大岩に向けて魔法の試し打ちをしてみる。
「ん、《ヴァーバル.ランスッ!》」 キンッ! シャッ!シャッ!シャッ!
シュッシシューッ! ドカッドカンッ! ドオオオンッ! バラバラバラ…
アニスの頭上に、三つの魔法陣が現れ、それらから一本ずつ、魔法の槍が放たれ、真っ二つの大岩を粉々に砕いてしまった。
「うん、魔法も使えるっと、後は、服の乱れはないね。さて、街の様子でも見にいこうかな」 ザッ テクテク
アニスは、自分の体の調子を確認し、身の回りをチェックした後、近くの街、政令都市ガルアに向けて歩き出した。
政令都市ガルアに近づくにつれ、行きかう人の数も多くなり、アニスは認識阻害の魔法と外套を被り、周りからは目立たないようにしていった。
「ようしッ! 次ッ! ほら、身分証を出せッ!」
都市の入り口では、門番である数人の鎧を着た兵士たちが、都市に入ってくる人達と、その荷物の検査をしていた。しばらくは順番待ちをして並んでいたが、程なくしてアニスの番になってきた。
「よしッ! 次ッ! ん? なんだお前は? 1人か?」
「ん、そうだが、ダメか?」
「いや、別にダメではないが、身分証はあるのか? なければ入市税、銀貨3枚だ」
「そうか、これではだめか?」 サッ
アニスは腰に付けたアイテムボックスのポーチから、以前ギルドで取得したギルドカードを見せた。
「うん? 何だ冒険者だったか、よしッ!通っていいぞ!」
「ん、入るね」 スッ テクテク
アニスは兵士から、入市の許可をもらうと、ギルドカードをポーチにしまい、政令都市ガルアの中に入って行った。
政令都市ガルアには以前来たことがある。そして再びこの都市にやって来た、相変わらず人が多い。賑やかで、活気づいているこの都市は、平和そのものだった。
アニスは周りを見ながら歩き、とある噴水のある広場で、屋台を出している店に行き、そこで肉串と飲み物を買って、噴水の際に座りそれを食べていた。
「ん、この味も変わらんな」 ングング コクン
ゆっくりとそれを食べながら、新生したこの世界の様子や人々を見ていた。人々は笑顔で動き、子供たちは複数で遊びながら走り回っていた。アニスはそれを眺め、肉串を持ったまま考えていた。
「(うまく新生できた。あれだけの魔素元素だ、うまくいかないはずがないんだ。みんな、元どうり…)」
そう考え、食べるのを止めていたら、不意に声を掛けられた。
「ねえ、それ、食べないのかミャ?」 ミャン
「え⁉」 バッ!
アニスが我に返り、自分の足元の方を見ると、そこには、自分がよく知っている獣人の女の子がそこにいた。
「ミイッ!」
「ミャッ⁉」
「ミイじゃないかッ!」
「ミャ、私、ミイだけど、あなたはだあれ?、どこかで会ったミャ?」
「私だよ!わかるか⁉︎」 ババッ
アニスは認識阻害の魔法を解き、外套を取って、ミイにその姿を見せた。しかし…
「ウニュ〜? だれ?」ミャア
「あッ…ううん、(そうだよな…)」 フリフリ スッ
アニスはそっと、外套だけ被り直した。
「ミャ、誰かと間違えたミャ?」
「そうだね…あ、これ良かったら食べる?」 スッ
「ミャアッ! いいのッ⁉︎ 食べるッ!」 パクッ!
「ミャア―ッ! おいしいーッ!」 ハグハグ ゴクン パクッ
「ふふ、良かったね」 ナデナデ
「ミャア~」
「ミイは今、どうしてるの?」
「ミャ、ミイは今、お姉ちゃん達と一緒に働いて、ここの街に住んでるミャ」
「お姉ちゃん達? そうか、働いてか、楽しいかい?」
「ミャア! とっても!」 ニコッ!
ミイを見ればよくわかる。身なりや着ている服など、どれも良い物である。以前のように酷い事にはなっていない様だった。満面の笑顔を見て充分幸せなんだと感じる。
「ん、ならいい、頑張りなさい」 ニコ
「ミャア、あッ!お姉ちゃん達だッ!」 バッ
少し離れた所に、ミイの姉ミュウが同じ獣人の青年と2人並んで歩いていた。
「ミャア! 綺麗なお姉ちゃん、肉串ありがとう、またね!」 ピョン タタタ
この世界のミイは、そう言ってアニスに礼を言うと走って、姉達の元へ行き、その場で暫く話したのち、姉のミュウは、アニスに一礼して、3人は街の喧騒の中に消えていった。
「わかっていた、わかっていたけど…」 スッ テクテク…
アニス、いやジオスの時もそうだった。以前にも、同じ様な事は何回もあった。その度に、アニス(ジオス)は今回の様な状況を何度も経験している。今まで親しくしていた者が、再生や新生でまた会えても、自分の事は記憶していない。そう、彼ら彼女達は皆、会った事すらない事になって、忘れてしまっているのだ。
ましてや、今は女の子の姿だ、彼女達の知っている男の、ジオスの姿では無い。仕方がないのだろう。こちらが、彼ら彼女達と共にしてきた事を覚えているだけに、つらいものがあった。
アニスはそんな思いを抱きながらその場を離れ、歩いていると、周りの人の話が耳に入ってきた。
「おい、きいたかい?」
「うん?何をだ?」
「ああ、アトランティア法王国の姫さんが結婚するんだと!」
「ほう、そりゃめでたい」
「なんでも、隣国の王子様だって話だ」
「ま、俺達には関係ねえけどな!」
「そりゃそうだ!」 ガハハハ!…
「そうか、セレスは結婚するのか、そうか…よかった…」 テクテク
アニスはそのまま街の中を歩き、いろんな事を考えていた。
「この調子だと、みんな別々の違った人生を送っているんだ。もう、関わらない方がいい」
程なくして、町外れの人気のない公園にやってきた時、その公園にある一本の木の袂に、1人の女性が立ってこちらを見ていた。
「ん? あれは…」
「ジオス…様?」 ジ〜
「やあ、【ノキア】久しぶり」 フリフリ
「え? やだ本当に? 本当にジオス様⁉︎」 タタタ バッ
「ん、今は【アニス】を名乗ってるけどね」
「へ? いや、なんか凄く可愛いんですけど、なんで?」
【ノキア】、元は創造神【シュウゴ】の創造した地球という世界の時の神である。彼女は特別な神で、その能力は時を自在に行き来できる事が出来、さらに時空転位を使い他所の世界まで来ることができる女神である。当然、ジオスの事も知っていた。
「ん、まあこれには色々と深いわけがあってね…」 えへへ
「ん〜、エレンディアね、そうでしょッ!」 グイ
「あ、やっぱりわかる?」
「わからない訳ないわッ! ジオス様にこんな事するの、あの子だけですから」
「あははは…」
「で、ここで何してんですか?」
「ん、今回新生した世界、この『アーク』を見ていたのさ」
「相変わらず凄い事するんですね、と言うことは、数万年ぶりに神界世界を?」
「ああ、創造した」
「もう、【シュウゴ】様が呆れる訳ね」
「ん?そうなのか?」
「えっと、アニスちゃんッ!」
「あ、はい…(アニスちゃんって)」
「シュウゴ様が言ってましたよッ!」
「ん?」
「『増やすなッ!』って」
「あははは…」 タラ〜…
「うん、反省してないでしょッ!」 ギラ
「こ、今回は特別だッ! この世界の為だったし、決して遊びで作った訳ではないぞ!」 バッ
「まあ、今回はアニスちゃんが可愛いから許してあげる」 うふふ
「はあ〜、で、君はなんでここにいるんだ?」
「ん〜、たまたま? なんか新しい物が出来た所に引き寄せられたって感じかな?」
「ん、相変わらず自由神だな君は…」
「まあね、それで、この後ジオスじゃない、アニスちゃんはどうするの?」
「ん〜、一度出来立ての第29神界世界に行ってみようかと思うんだ」
「行けますの?」
「行けない…」
「え? なんで?」
「随分と力を使ったから、今は行けない」
「はあ〜…アニスちゃん」
「ん?」
「一緒に行く?」
「いいのッ?」 ニコ パアアー
「うッ この笑顔ッ! なんか悔しいッ!」
「ダメえ?」 ウルッ
「連れてく連れてくッ! 泣かないでッ!」 オロオロ
「ありがとうッ!」 グッ(やったぜーッ! 凄いぞ少女の涙ッ!)
「うん? 何か言いましたか?」
「言ってな〜い」 ニコ
「わッ 凄く可愛い、アニスちゃん反則ですよ」
「そ、そうなのか…どこ、どこだ?」 サッ サッ
「いや、見えませんから、で、何処にあるんですか神界世界?」
「ん、あっち」 スッ
「アニスちゃ〜んッ!」 ピクピク
「はい、すみません。 此処から天頂方向、約10光年くらいの所です」 ブルブル
「はい、最初からそう言ってください」 プン
「ん、ごめんね」 シュン
「い、いいのよ、ちょっとお茶目しただけだよね?」 アセアセ
「うんッ!」(チョロい チョロい、まだまだだな、ノルンよ)
「じゃあ、行きますよ。手を繋いで下さい」 ギュッ
「ん、よろしく頼む」 ギュッ
「わッ! 柔らか〜い」 キュ
「ん?」
「い、行きますよッ!」 キイイインンッ
パアアアンンッ! シュンッ! キラキラ…
アニスとノキアは新生世界「アーク」から 第29神界世界へと転移していった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。