第109話 無から有へ 新世界創造、ジオス消失
―異次元世界「アーク」消滅後の空間―
無、そこはなにもない空間、音もない景色もない、全くの無の空間、それが消滅した世界の後の世界である。そんな空間がどれほどの時間が経ったのだろう、まるでそこに何かしらの生物の卵でもあったかの様に突然、なにもない無の空間に光のヒビが入り、弾けた。
ビキッ! ビキキッ! パリパリパリッ! パアアアンンッ!
その弾けた瞬間、周りには数えきれない数の光の粒が広がりやがて、ゆっくりと渦を描く様に、ゆっくり、ゆっくりと漂い、形を作っていった。それは、まるで夜空に輝く星々の集合体、銀河の様に綺麗な渦を作り、暗黒のなにもない世界を照らしていた。今、その光の粒の世界に、2人の人物が寄り添って浮いているのが窺える。
「ソフィア、ソフィア、起きて、目を開けて」 トントン
そう、その渦巻く光に粒の世界にいたのは、創造者ジオスと、女神ソフィアの2人だった。
「う、う〜ん… はッ! え? ジ、ジオス様⁉︎」 フワフワ
「ん、やっと目が覚めたか」 ニコ フワフワ
「えッ! あ、はい!ってここはいったい…」 ギュッ! フワフワ
「ソフィアは、初めてだったね」 フワフワ
「ジオス様?」 フワフワ
「ここは嘗て、異次元世界「アーク」が存在していた異次元空間、その異次元空間の中に作った異空間さ」 フワフワ
「へ? 異空間?」 フワフワ
「ああ、急遽、俺が構築した空間さ。ちょっと待ってな、今、足場を作るから」 パンッ!
ジオスは異空間内に、自分とソフィアの足場となる、光の板を出した。2人はその板の上に足を下ろし、周りを見渡した。
「よっと、良しうまくいった。ッと、どうだい?」 スタ
「はい、しっかりしてます」 スタ トントン
「ん、これでゆっくり話ができるな」 ふう~
「あのう、ジオス様…」 キョロキョロ
「ん?なんだい?」
「はい、あのう…あの時、私も消えて消滅してしまったのではないのですか?」
「は?ソフィアを消す? なんで?」
「いやだって、あの時、アリシアが言ってました。『完全消去』って、だから…」
「いやいやいや、そんな事はしないぞ。それに彼女は『世界消滅』と言ったんだ、その言葉にソフィアは含まれていない」
「え? そうなんですか?」
「ん、そうなんだ」 ニコ コク
「良かった」
「ん?」
「やっと会えたジオス様に、また会えなくなるかと思ったから」
「そうだな、俺もそう思う。しかし…」
「え?どうかしましたか?」
「いや、ソフィアの口調が、ずいぶん変わったなと思ってな」
「私の口調がですか?」
「ああ、以前は、RogとかRejとかつけてたじゃないか、それがなかったから気づくのが少し遅れた」
「それは120年もたっているのですよ、口調ぐらい変わりますッ!。以前の方が良かったですか?」
「いや、今の方がいい、その方が女神らしいしな!」
「はい!ありがとうございます。それで、この異空間なんですが…」
「ん? ああ、この異空間はね、異次元空間内に魔素元素が散らばって行かないようにするための、いわば隔離空間みたいなものかな」
「隔離空間ですか?」
「そう、ただ、普通の隔離空間ではなく、すでに異次元空間内に散らばっている、魔素元素を吸収、回収確保をする事ができる吸引型異空間で、今それをしている最中さ」
「ものすごい魔素元素の量…ジオス様」
「ん?」
「先ほどの世界、消滅した異次元世界『アーク』には。これ程の魔素元素があったのですか?」
「いいや、その異次元世界『アーク』には、今見えている魔素の1000分の1くらいしかなかったなあ」
「え?この膨大な魔素元素の1000分の1ですか?」
「ん、1000分の1、そのくらいしか残ってなかった。アリシアは良くやってたよ」
「では、これだけ大量の魔素元素は?」
「ああ、さっきも言ったとうり、異次元空間内に散らばっていた魔素元素を回収したものさ」
「いつの間に…」
「まあ、これだけ集めるのに100年は、かかったからねえ」
「100年ッ⁉」 バッ‼
「ん? どうした?」
「ジ、ジオス様?」
「ん?」
「今、100年とおっしゃいましたが…」
「ああ、この世界を完全消去。世界消滅してからもう、100年はたってるよ」
「そ、そんな…では私は100年もの間、気を失っていたのですか?」
「まあ、そうなるかな」
ソフィアは時間の経過に驚き考えた。異次元世界『アーク』が消滅後、ジオスはこの何もない空間を1人で、100年もの間いたのだ。「自分だったらどうだろう? そんな状況下で耐えれるのだろうか?」と。
「ん? どうしたんだいソフィア?」
「え? あ、ジオス様は辛くなかったのですか?」
「ん? 俺が? なんで?」
「だって、こんな何も無いところで100年ですよ100年、私だったら…」
「そっか、俺の事を思ってくれたんだね」
「は、はい」
「俺は別に寂しいとか辛いとかは思ってないんだ」
「え?」
「ソフィア、良く見てごらん」 サッ
ジオスはソフィアに、今、数多くの光がゆっくりと渦を巻いているところを指さした。
「魔素元素の渦ですか?」
「ん、」 コクン
「綺麗…」
「ソフィア、何か気がつかない?」
「え?…あ、そういえば、光の色が違う…それに大きさも」
「そう、この魔素元素、一見同じに見えても全部が一緒じゃ無いんだ」
「それはどう言う事です?」
「ソフィアは初めてだから、教えてあげるよ」 ニコ
「はい」
「今ここにある魔素元素は、全て、消滅した異次元世界『アーク』の物なんだ」
「はい、それはわかります」
「ん、で、よく見ると、魔素元素の光には色が付いている」
「はい、確かに…」
「で、その色なんだが、赤は火、青は水、緑は植物、水色は大気、オレンジは大地、青緑は大海、黄色は動物全般、紫は微生物、白は精霊、そして金色、これは人族全般の光なんだ」
「色にそんな意味があったのですか、知りませんでした」
「そう、で、黄色の動物全般は、地上から水の中、空を飛ぶ者、地中にいる者全て、金色の人族全般は、人族に魔族と獣人族、エルフやドワーフ、その全てがそれに当たる。また、魔素元素の大きさは、その者の力の大きさを示すんだ」
「ではここには、消滅前の異次元世界『アーク』があると言うのですか?」
「そう、例えばこれ」 フワン!
ジオスは一際大きい金色の魔素元素を手のひらの上に浮かべた。
「これは?」
「アリシアだよ」
「これがッ⁉︎」
「そう、これがアリシアの魔素元素、そして、これらが、ソフィアのよく知ってる者達だ」 ファンファファファファンッ!
やはり大きめの金色の魔素元素が10数個、ジオスの前に現れた。
「これが、私の知っている者達?」
「ん、魔族のアゴンやアヴィスランサー達、エルフのイーデルや各国の王族かな」
「これが……」 ギュッ
「そして、100年かかったけど、俺が探し求めていたのがコレだ」 フワン
それは小さな、とても小さな金色の魔素元素が2つ、ジオスの手の中で弱々しく光っていた。
「ジオス様、それは?」
「これはね、マシューとミウの魔素元素なんだ」
「 ⁉︎ッ 」
「ずいぶん探したんだ、既に異次元空間に溶け込んでしまっていたから、半分諦めかけてたけど、最後の最後で見つけたんだ。こんなに小さくなっちゃった、でも、俺の宝物さ」
「ジオス様…」
「ん、ごめん、ちょっとしんみりしてしまったね。 さあッ!始めようかッ!」
「え?ジオス様、一体なにを…」
「ん、異次元世界『アーク』の再生、いや新生だなッ! 準備はできた!」
「ジ、ジオス様?」
「ん、アリシアに頼まれてたし、サッサと誕生させてしまおう」
「アリシアに? ですが、すぐにまた消えてしまうのでは…」
「だからさ、ここに新たな神界世界を創造するッ!」 ザッ!
「ええーッ‼︎ し、しし、神界世界ですかあーッ⁉︎」
「そうだ、魔素元素無限供給のできる神界世界、第29神界世界「ノイエワルター」それを創造するッ!」 キイインンッ! バリバリッ! ドオオオンー
ジオスはいきなり創造者の能力の一つ、神界世界創造を使い始めた。
「きゃあああーッ!」
「ん、ソフィア、俺の後ろに隠れていた方がいい」
「は、はいッ!」 ガバッ!
数多くの様々な色を放つ光の魔素元素が、急激に動き出した。その中心に、黒い球体が現れ、それらを集約していく。
「ジオス様、あれは…?」
「ん、あれが世界の中心になる球体、特異点さ、さあ始まるよ!」
ギュヲオオオオオーッ!
それは、だんだんと高速に回転していき、ついには光の円盤が出来上がった。それと同時にソフィアはある異変に気がつく。
その異変とは、ジオスの体から魔素元素が抜け始めてきたのだ。
「ジオス様ッ!」 シュワアアアアアーー!
「ん、わかっている。こうしないと神界世界はできないからね」 ニコ
「え? それはどう言う…」
「以前に言ったろ、今のこの体は本来の俺の体じゃないって」 シュウウウウーッ!
「で、では…」
「ああ、だから、この仮の体にある魔素元素で、新しい神界世界を創造する!」 シュウウウウーッ
「無茶ですッ! そんな事をしたらッ!」
「ん?」 シュワアアアアアーーッ!
「そんな事をしたらッ!ジオス様が消えてしまいますッ!」
「ん、大丈夫だよ、ソフィア。俺は消えないから!」 シュワアアアアアーーッ!
「でも、でもッ!….」
ソフィアの目にはジオスの体の異変がはっきりと見えていた。あれだけはっきりとしていたその体が、今は透けて、半透明の状態になっていたからだ。 誰の目にも、それはジオスの消滅を意味している様に見えたからだ。
「グウウッ! まだ…まだだ…もうちょっと…」 シュワアアアアアーーッ!
「ジ、ジオス様…」 フルフル…
キュシイイインンンーッ‼︎
「ん、今ッ!」 グッ! ババッ!
ジオスは両目を見開き、両手を自分の上に向かって上げ、創造者の能力、神界創造の能力を発動した。
「はああッ!《シェリングバーツ.グランデ.ディスカッションッ!》」 キンッ!
ジオスが、創造者の能力を発動したと同時に、音のない光り輝く世界が、あたり一面に広がった。その光はあたり一面を純白の世界に包み、全くの無音状態が、その空間一帯を覆いしばらくの間続いた。
そして、その純白の空間世界が徐々に無くなり、あたりの様子が見え始めた時、そこに、新たな世界が見えてきた。現れたその世界は、言葉には言い現せれないような世界が広がっていた。
そう、そこは神々が住まう世界、人が絶対入ることの出来ない世界、第29神界世界「ノイエワルター」が存在していた。
シュワンンーッ サササー
「凄いッ! 本当に神界世界ができてる。これがジオス様の力…」
「はあ、はあ、まだだ、次ッ!」 ババッ!
創造者の能力を、ジオスは続け様に使用した。新生世界、「アーク」のために。
「んッ!《ワルツアー.グランデ.シグマリュートッ!》」キュンッパアアアンンッ!
それは、第29神界世界から遥か下方、そこに、ジオスによって新再生された世界、新生世界「アーク」が誕生していた。それは、緑豊かで生命に溢れ、自然豊かな生き生きとした世界があった。
よく見ると、人族、魔族、獣人族、ありとあらゆる人や動植物が甦り生きていた。その中には、魔族のアゴン達やアヴィスランサー達、獣人族のミュウやミイ、セレスやユリナ達、そしてエルフの森にはアイラの姿もあった。
ただ、以前の異次元世界「アーク」とは違う、彼女達それぞれが自分たちの領土、国にいた事だった。そう、ジオスはまだ、彼女達に会う遥か前の状態の「アーク」を作ってしまったのであった。 これは、「アーク」が魔素元素を失いつつある前の状態に戻した結果であった。
「ジオス様ッ! 『アーク』ですッ! 『アーク』があそこにできてますッ!」
ソフィアは新しくできた新生世界「アーク」に近寄り、その状態を確認した後、ジオスに振り向いた。だが、そのとき、ソフィアはジオスの異変に気がついた。
「………」 フラッ フラッ
「ジオス様?」
「ん……ソ、ソフィア……すま…な…い……」 パアアアンンッ!
「ジ、ジオス様ーッ!」 ババッ!
ジオスの体は高熱を放ち光り輝き始め、次第に消え始めていった。ソフィアは慌ててジオスに叫びながら近寄っていった。
「ジオス様ーーッ!」 ババッ!
「……ごめん…」 パアアアッ シュンッ!
ソフィアがジオスに触れる一瞬、ジオスはその場から消えてしまった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。