第105話 瞬間転移 アルフヘイムへ
ー魔王城 謁見の間ー
そこは、魔王との謁見を行う場所、だが今はその魔王がまだ現れないので、ジオス達はその隅にあるテーブル席で話をしていた。
ジオスはアゴンとデルタの2人に、今この世界の状況をすべて話した。そして、「アルフヘイム」の事も......
「ジオスよ、その話だが信憑性はあるのか?」
「アゴンの言うとうりだ、ジオス、お前はその『アルフヘイム』に行ったことはあるのか?」
アゴンとデルタの両者はジオスの話を、にわかには信じていなかった。その信憑性に疑いを持っていた。
「ん、まあ、2人がそう言うのも無理はないか、事実、『ニブルヘイム』や、【レグニッツア】の事さえ知らなかったんだからな!」
「この世界が滅び、消えようとしている。それを阻止できる鍵が『アルフヘイム』にあるかもか。……ジオスよ」
「ん?」
「俺はおまえの今までの行動を見て、おまえが嘘を言っているとは思えん、ただ、俺やデルタは今の今までにそのような事を、聞いたことが無かったのだ」
「俺も初耳だな、第一、あの【メルト】がそんな事を何も言ってなかった。アイツ、自分の領地の隣の国が何か、良く知っているはずだし、探ってもいるからな」
「うむ、それには俺も同感だ、ん?待てよ、今、そのメルトの領地に緊急事態があったと言わなかったか?」
「ああ、そうだ、魔王様もそこに行ってたんだった」
「少し遅いような気がするが…」
「まあ、もう少し待っていようぜ、メルトもそうだが、魔王様なら大丈夫さ」
「ふむ」
「で、話の続きだがいいか?」
「「 ああ 」」 コクン
「まずは、『アルフヘイム』エルフの女王の【イーデル】だが、元は聖魔大戦の孤児だったんだ。そう、戦災孤児って言う存在で、弟の【レグニッツア】と2人、廃墟で震えて隠れていたんだ。それを俺が見つけて保護したんだ」
「あの女王が戦災孤児だと⁉︎」
「ちょっと待て、今、聖魔大戦と言ったな」
「ん、」 コクン
「それは今から150年くらい前の事じゃないか」
「ん? そうなのかアゴン?」
「うむ、正確には152年前に起こり、人族と魔族双方に多大なる犠牲者が出たため、双方痛み分けで終結した争いであったな」
「そうか、こっちの世界では、そんなに時が経っていたのか」
「ジオス、おまえは…」
「その聖魔大戦はな、俺が止めたんだ。当時の女神【エレンディア】に頼まれてな、俺の時間感覚ではほんの15年前の事だったんだが、この世界では随分と時間が過ぎていたんだな」
「15年前が、152年前になってしまったのか」
「ん、その当時、彼女達にはまだ、そんなに力が無かったんだ。12歳のエルフの少女と10歳の少年だったしね、10年ほど経って姉のイーデルはエルフの代表、弟のレグニッツアは呪術やら魔法の研究、その他に、魔物の研究で名を馳せてた。その研究の一つが蜘蛛の魔物アブダイルさ、俺に見せて来たよ。まだ、掌サイズの小さなアブダイルをな」
「では、その弟が今回、蜘蛛の魔物アブダイルを使って、襲撃してきたという事か?」
「いや、レグニッツアにはそんな度胸はない、というか、アイツがそんな事をする意味がない」
「では誰かが、レグニッツアを焚きつけた…」
「ん、それが、姉であるエルフ女王【イーデル】か、もしくは他の誰かだ」
「ふむ、まだ何かありそうだな」
「とにかく、彼女達はさらに5年後、イーデルはアルフヘイム、妖精界のエルフの女王に、レグニッツアはアルフヘイムの地下層にニブルヘイム、幻冥界を作りそこの統治者、総統になったんだ」
「ジオスは今でも彼女達と行き来しているのか?」
「元の世界でも、こちらの世界でも、2人には会っていないな。ただ、俺は彼女達に力を与え過ぎてしまったのかもしれないな」
「そうか、それで納得だ」
「ん?」
「イーデル様の異常な魔力とその力、ジオス、おまえが何かしたんだな」
「ん、弟の【レグニッツア】と2人、この世界で生きていけるようにな、だが…」
「姉は女王、弟は冥界の王ってか?」
「ああ、俺は彼女達に、そんな者になる為に力を与えたわけではなかった、ただ、姉弟2人、仲良く過ごせる様にしたかっただけなんだ」
「ふむ、で、ジオスよ、これからどうする?」
「姉のイーデルは後にして、弟のレグニッツアには、今回の行動について聞きたいことがあるから、会ってみようと思う」
「そうだな、ジオスなら、きっと…」
その時、謁見の間の窓が明るく輝き、轟音と共にそれは横切っていった。
パアアアーッ! ギュオオオーッ!
「む! 星降りか、でかいなッ!」
「本当だ、ここのところ続くなあ!」
「クッ! ア、アレはッ! … アレだけはッ!」 ググッ
「むッ! どうしたのだ? 星降りがどうかしたのか?」
「アゴンッ!」
「うん?」
「あの星降りはどこに向かって落ちているかわかるか?」グッ
「ああ、それなら分かるぞ!」
「どこなんだ⁉︎ 教えてくれ!」 グッ
「うむ、アレらは全て、隣国『ラングリオン』の『アルフヘイム』にある大火山、『ベガ』の火口に落ちていっている』
「ん、『ベガ』だな、わかったッ!」 ババッ! ザッ!
「ジオス?」
「アゴン悪い」 ババッ
「は?」
「俺は今からその大火山、ベガに行ってくる」
「ま、待てッ!」 ガバッ!
「ん?」
「おまえは魔王様に呼ばれてここに来ておるのだぞ! 勝手な行動は許されない! 魔王様が帰って来るまでここにいろッ!」
アゴンはジオスが立ち上がって、この魔王城から出て、アルフヘイムにある火山へと行こうとするのを止めた。
「アゴン、魔王には謝ってておいてくれッ! 『じきに戻る』と伝えて待たしとけ」
「ジオスッ!」
「じゃあなッ! 《フリーダムゲイト》」 パンッ! シュン!
ジオスは一瞬でその場から消えてしまった。
「なッ! 瞬間転移術だとおおッ!」
「アゴン見たかい今のッ!」
「うむ、魔法陣も、アイテムも無しの転移術、初めてこの目にした」
「ジオスは何を焦ったんだろね」
「うむ、あのジオスがあそこまで慌てるとは、……デルタッ!」
「ああ、分かってるさ。魔王様には俺から言っておくから」
「すまんッ!」 ババッ! コツコツ! ギイイッ バタンッ!
「さあ、なんて言い訳しようかなぁ〜」
ジオスはこの王城から消え、アゴンはそれを追う様に、謁見の間から出ていった。
―総合国家「ラングリオン」妖精界「アルフヘイム」の森―
「ラングリオン」とは、妖精界エルフ国、ノーム、ドーワーフの国、獣人国、ほか少数民族なる多種多様な亞人達の国が集まった集団国家である。その代表が妖精界エルフ国であった。今、ジオスはそのエルフの国の大火山がある森へと転位してきた。
シュリンッ! タンッ!
「『アルフヘイム』か、ずいぶんと様変わりしたな」ザッ ザッ
ジオスは緑濃い森の中を歩き、眼前にそびえたつ大火山、ベガに向かって歩いていた。
ガサガサ、チチチ、 バサバサバサッ! キュウウー キュウウー
森の中は、いたって平和で、鳥や小動物など、様々な鳴き声や音が聞こえていた。
「さて、あの火山だが、どこか横穴でもないか?」 キョロキョロ
ジオスは火山のふもとの周りを見渡し、山頂の火口以外の入り口を探していた。
「ん? ああ、あそこかな、なんか認識疎外の魔法で隠蔽してるな」 サクサク
一見、ただの断崖絶壁にになっていた所を、ジオスは右手でそれに触れてみた。その時、ジオスに数本の矢が放たれてきた。
ビシュシュシュシュシュッ!
「うん? おっとッ!」 ババッ! ビシビシビシビシッ!
ジオスはそれを全てかわし、矢の飛んできた方向を見た。そこには、エルフの女性が5人、次の矢を弓に構えこちらを狙っていた。
「貴様ッ! 何者だあ! ここは神聖なる森、お前のような人間がここに立ち入る事は、万死に値するぞ!」
5人の中央に位置するそのエルフの少女は、ジオスを睨み叫んできた。
「ん? そりゃあ悪かった、だが俺もここに用があってね、だからここを通るがいいかい?」
「ならんッ!」 ビシュッ!
ヒュンッ! ビシッ!
その矢はジオスの顔の横をかすめ、後ろの断崖にの壁に突き刺さった。
「(うん、いい腕をしている)」 チラ
「さあ、はけ、ここにに来た本当の目的は何だッ⁉」 スチャ
再び矢を挿げ、ジオスに質問してきた。
「はあ~、俺の名はジオス! ここ、大火山ベガの中に用があってここに来た!」
「ベガの中だとおおッ! 貴様あッ! やはり只者ではないなッ!」 ギリギリッ!
「待て待てッ! 俺は星降りがどうなったか見に来ただけだ、悪い事はしないぞ」
「星降りの事まで…かまわんッ! コイツは間者だッ! 全員放てええッ!」 シャシャシャッ!
ヒュンヒュンヒュンッ!
「うわあッ! ちょッ! 人のッ! 話を聞けえッ!」 ヒョイヒョイッ!
ビシッ ビシッ
「クウウッ! 素早いヤツめ、 コレならどうだ!《ウインド.ラッシュッ!》」
キンッ! シャシャシャ!
「だから、いい加減にしろッ! 《ワルター.ランスッ!》」キュン! シュシュシュッ!
エルフの少女は風魔法を打ってきたのに対し、ジオスも風魔法を放った。
ガンガンガンッ! ビシュッ! ドガアアンン!
「「「 きゃあああッ! 」」」 ザザーッ!
魔法威力的には、ジオスの方が上まっていたのでエルフ達はその威力の爆風で、吹き飛ばされていった。
「あ、やべ、やり過ぎたか?」 シュウ〜
「うう…う〜ん….」 パラパラ パラ
エルフ達は皆気絶して、その場に倒れ伏してしまった。
「う〜ん、やっぱこのまま放置は不味いよなあ、しょうがない。目が覚めるまで待つか」
そう言うとジオスはその場に異空間よりテントとマット、毛布を出し、エルフ達5人の少女達を中に寝かせ、焚き火を焚き、その場でお茶の準備をしながら、認識阻害の魔法解除をした。
「ん?、この術式、どこかで見たことがあると思ったら、俺がイーデルに教えたヤツじゃないか。上手くなったものだ」 キンッ! シュワアアンン…
認識阻害魔法は一瞬で解かれ、その奥に、火山への入り口が現れた。
「よし、さあ、あとはこの子達が目覚めるまで待つだけだな」 カチャ コポコポ
そう言ってジオスはひとり、紅茶を入れ飲みながら彼女達、5人のエルフが目覚めるのを待った。
「うッ、 う〜ん…はッ!ここはッ!」 ガバッ! キョロキョロ
テントの中で、一番初めに目を覚ましたのは、あのリーダー的存在のエルフの少女だった。彼女は自分たちが揃ってテントの中にいる事、毛布をかけられ、手荒なことはされてない事を確認し、テントの出入り口の方を見た。 外はまだ明るく、焚き火の音が聞こえ、自分と仲間達は介抱されたことに気がついた。 そして、そっとテントの外を覗いてみた。
パチパチッ! ジュウ〜 グラグラ トントントン
そこには、先程まで自分が敵対視していた男が、焚き火の向こうで夕食の準備をしていた。
「ととッ! コレでよし、あとはスープとエルフだから肉、食べるのかなあ…」 ジュワアーッ!
そんな様子を見てリーダー格のエルフの少女は テントから出て話しかけてきた。
「あなたッ!」
「ん?、ああやっと目が覚めたか、寝坊助め」 ニコ
カア〜ッ
「ね、寝坊助ってなによッ! あなたがやったじゃないのッ!」 バッ
「ん? ああ、そうだな、でもアレは正当防衛だ! そっちが悪い」 ふふん
「きいいッ!」 ジタバタ
「まあ、落ち着けって、ほらこれでも飲めよ」 コポコポコポ サッ
ジオスはそのエルフの少女に、蜂蜜入りの紅茶を渡した。
「ふ、ふん! いいわよッ! 飲んでやるわよッ!」 サッ コク
「 !ッ 」 ピクッ
「ん? 不味かったか?」
「美味しい……」 コクコク ハア〜
「すごく美味しいッ! なにこれッ!」 コクン
「ああ、蜂蜜入りの「ラクシュミー」って言う紅茶さ、コレもどうぞ」サッ カタン
紅茶の名前を言ったあと、ジオスは紅茶うけに、ドライフルーツを差し出した。
「え? こ、これって『エスパル』じゃないッ!」
「ん? 『エスパル』? なんだそりゃ、苦手だったか?」
「違うッ! コレはおいそれと出していい食べ物じゃないのッ!」
「はあ?、ただ干しただけの果物じゃないか、そんな大袈裟な」 ヒョイ パク
「ああーッ! た、食べたーッ!」
「サクサク、なかなか美味いぞ!」 ヒョイ パク
「またあーッ!」
「いらないなら、俺が全部食べるぞ!」
「待って待って、食べるッ! 私も食べるからッ!」 パク
「 !ッ うふふ 」 ニコ
「なんだ? 大丈夫か?」
「ん〜ッ! しあわせ〜ッ! 美味しい〜」 ングング ゴクン
「はあ〜、へんなヤツだな。 ん?」 クル
ジオスが何かに気づき振り返ると、そこには、テントから顔を出し、こちらの様子を見ている4人の、エルフの少女達がいた。
「おい!おまえ」
「アイラッ!」 パク
「ん?」
「私の名前ッ!」 ングング コクン
「ああ、俺はジオス、よろしくな」
「うん、あ、これも美味しい」 パク
「で、アイラ」
「うん?」 もぐもぐ
「おまえの仲間が、すっごく睨んでこっちを見てるんだけど…」
「へ⁉︎」 そ〜ッ
「「「「 アイラーッ! 」」」」 バババッ!
「ヒッ!」 ビクッ!
「ずるいですッ! 自分だけッ!」 グイッ!
「私達を放って、自分だけいい思いしてッ!」 グイッ!
「い、いや、そ、そのおッ …」 オドオド
「しかもッ! 皇族しか召し上がれない貴重な『エスパル』を1人でパクパクとッ!」
「許せませんッ!」 グッ
「ヒイイーッ!」
ワイワイ きゃあきゃあ ワーワー
テントからいきなり出て来た4人の少女達は、先駆けした1人を責め立てていた。
「うう…ジオス〜… 助けて〜…」 シクシク
「はあ〜、毎度毎度なんでこうなるかな〜…しょうがないなぁ」 カチャカチャ
ジオスは新たに蜂蜜入りの紅茶とドライフルーツの大盛りを用意した。
「ん、君たちの分もあるからどうだい?」 コポコポコポ サッ コトン
「「「「 わああッ! いいんですか? 」」」」 ババッ
「ああ、アイラだけじゃあ不公平だからなッ! いいぞ」
「「「「 いただきまーす! 」」」」 コクンッ!
「「「「 !!!!ッ 」」」」
「「「「 美味しいッ! 」」」」 コクコク
「えーッ! なにこれ! すごく美味しいッ!」
「ええ、こんな森でこんな美味しいものが飲めて、食べれるなんて!」
「ぱく! んーッ! 美味しいッ! これが高貴な方しか食べれない『エスパル』なんですねッ!」 ングング
「素晴らしい味です!」 サクサク コクン
「ん、みんな喜んでもらえて嬉しいよ」
「じゃあ、私ももう少し…」 そ〜…
「アイラはさっき食べたじゃないッ!」
「いいじゃない、こんなにあるんだから。あ、ジオス、紅茶もお願い」 パク
「お、おう! なんかもう馴染んでら、順応性が高いのか、ただの食いしん坊なのか?」
「そこッ! 聞こえてるんだからねッ! 早く紅茶ッ!」 ングング ゴクン
「こりゃ、腹ペコエルフ少女隊だな」
ジオスはアイラに新しい蜂蜜入りの紅茶を渡し、夕食作りに戻った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。