第103話 解呪と再生
ー魔王城内 治療室ー
「神聖解呪魔法ッ!方陣展開ッ!」 パアアアンンンッ!
「アッ!ガアアッ!グギイイッ!」 バタッバタンッ! ビクビク!
「ん、魔法陣を展開しただけでこの反応ッ! 呪詛以上に何かいるな!」 グッ
重傷であるスカラは、医療従事者達によって、ベッドに手足を固定されていた。したがって、どんなに暴れても、この拘束を解くことはできなかった。
「大人しくしてろ、今楽にしてやるから」 ザッ
「ジオスよ、何か手伝うことはないか。」
「ん? ああ、ありがとう。では、万が一の事態に備えていてくれ」
「うむ、任せろ」
アゴンにそう言うと、ジオスは魔法陣を起動させ始めた。
「さてと、はッ!」 ババッ! キュルルルル!
ジオスはベッドのスカラに対し、体に触れていた両手の掌から、神聖解呪魔法を起動中の魔法陣に重ね掛けし、彼の身体に作用する魔法を放った。
「我はジオス、彼の者の体に巣食いし呪詛よ、今その忌まわしき呪いを解き放ち開放せよッ!《ゼルバストレーゼッ!》」 バアアアアーッ‼︎
「ガアアアアーーッ‼︎」 ビクンッ!ビクンッ! ガタガタッ!
神聖なる神々しい光がスカラを包み込んだ、彼の脇腹の傷を癒やしその傷から黒いモヤのようなものが現れ形作っていった。それは、具現化し出したと同時に、いきなり叫び出しベッドより落ちて苦しそうにのたうち回っていた。
{ギャキイイイイイーッ! ガッ! ゲガアッ!} バタバタゴロゴロ
「ほう、お前が彼に取り憑き、呪詛を吐き出していたのか」 ザッ
{ギャッ! ギュアッ!ゼエエッゼエ!} バタタッ
「なッ! ジオスッ!なんだそいつはーッ!」 シュン!チャキッ!
ジオスの魔法によって、スカラの体から現れたその魔物に対し、アゴンは魔神剣「ノイエレーテ」を構え警戒した。
{グルルルルッ! ギャッ! ギャッ!} ダンッ ダンッ!
「ん、アゴン!手を出すなよ、ヘタをするとスカラの二の舞になる! 呪われるぞッ!」 二ッ
「なにッ! ではお前はそいつが何か知っているのかッ⁉︎」 ザッ
{ギャギャッ! ガアアーッ!} ダンダンッ! ダダダッ!
スカラから現れたその魔物は、やがてその姿がはっきりとしていった。それは、まさしく8本足の蜘蛛の魔物であった。その蜘蛛の魔物はジオスに対し、蜘蛛独特の走りで急速に迫ってきた。
「ん、ああ、よおく知ってるさ、コイツは、『断罪の執行者』ヴァレスブレイカー、その残滓……そうだろ、…【アブダイル】」 ザッ!
{ギシャアアッ! ⁉︎}ダダダッ! ピタッ!
「ん? やはり言葉が通じるか、間違いなさそうだな」 ス〜ッ チャキッ!
ジオスは、異空間より神剣「エルデシーゲル」を取り出し、眼前で急停止した蜘蛛の魔物に対し構えた。
{グッ ガッ ワ、ワレノ、フルキナマエヲ、ナゼ?}
「「「 しゃべったああッ! 」」」 ザワザワッ!
「むう、魔物が人の言葉を話すとは奇っ怪な、ジオスッ! いけるかッ⁉︎」 ザザッ!
「ん、問題ない、任せてくれ」 サッ
治療室の外からこの状況を見ていた、マクシン以下の医療関係者は皆驚き、アゴンだけが冷静にジオスの事を見ていた。
「さて、アブダイルよ、貴様がこの世界になぜ現れた? 此処はお前のいるべき世界ではない、幻冥界に帰れッ!」
{ガッ オワリノハジマリ、ムダナコトダ、キサマモキエル}
「俺が消える? 無駄? 終わりとは終焉のことか? 何を企んでる?」
{ジキニワカル、ジャマヲスルナ}
「そうもいかんな、帰らないならお前を此処で消す」 ザッ!
{ケス? オマエガカ? }
「ん、お前、スカラを利用し、取り憑いたろ。なにが目的だ⁉︎」
{コノ、オトコハヨリシロダ、コノクニノ、オウノモトニ、ツイテイクコトガデキル}
「成る程ねえ、考えたじゃないか」
「ジオスッ! どういうことだッ!」
「簡単な事さ、アゴン。 コイツはワザとスカラを傷つけた後、分身体をその傷に潜みこませ、この国の中枢、つまり魔王の所まで案内させた後、魔王共々ここを、この国を破壊、消滅するつもりだったんだ」
「なッ⁉ 何と卑劣なああ...」 ワナワナ ググッ!
「(わああ、アゴンの怒りが超マックスになってら...)」
{バレテハシカタナイ、イズレミナホロブ、コレハ、キマッタ、コトダ}
「ん、⁉︎…だれが決めた!」 ギンッ! バババアアーーッ!
ジオスは、アブダイルに対し、強い眼光を浴びせ、声のトーンを下げ、質問した。
{ガアアアアーッ! ナ、ナンダコノチカラハッ! グッググッ!}ビシッビシッ!
「なあアブダイルよ、もう一度聞く、だれが決めたッ⁉︎」 ギインンッ‼︎
ビシイイッ! ザンッ!ブシャアアアーッ!
ジオスの眼光は蜘蛛の魔物、アブダイルの右足の一本を吹き飛ばしてしまった。
{ガアアアアーッ! キ、キサマ、ナニヲシタ? ワタシハ、セカイノダンザイシャ、ワタシニハムカウハ、カミヲテキニスルトオナジ、シンバツガクダルゾ}
グラッ ヨロ!
「フン、よく言うな、世界の断罪者? 神罰だあ? お前、いつの間にそんなに偉くなったんだ?」
{キサマコソ、ソノ、フソンナタイド、カミニカワッテ、ワタシガバツヲアタエル} ギシャアアーッ!
「なにが罰だ、【レグニッツア】の出来損ないが⁉︎ 調子に乗るなッ!」 ビュンッ!
シュパアアアアーーッ! ザンッ! ドガアアアアンンッ! パラパラ
{ガッ? ゲゲ? ガアアアアーッ! アシガアアッ!} ブシュウウッ!
ジオスが神剣「エルデシーゲル」を振り下ろし、その剣から発生した刃の衝撃波は、アブダイルの左足4本を全て飛ばし、そのまま治療室の壁にあたり、壁を破壊してしまった。
「これが最後だ! もう一度聞く、だれが決めた⁉」 クルクルッ!チャキン!
{ヒイイイイッ! ワ、ワタシハカミノ、ダイコウシャデモアルノダゾ、コンナコトヲシテ、カミノ…}
ビュンッ! ジャキンッ! ビシッ
「ん⁉︎ 神の何だって? おい! その先は責任持てよ! お前なんざ何とでもなるからな」
{ギャギャッ! ハ、ハヤイッ……} ギギッ!
ジオスは一瞬で間合いを詰め、神剣を抜刀術のように高速で鞘から抜き、アブダイルの八つある目の中心にそれを突き付けた。
{ハ⁉︎ ヒ、ヒトガナゼ? ナゼコノヨウナウゴキガデキル⁉︎} ブルブル
「まだ気が付かんのか、まあいい、後は【レグニッツア】に聞くから」 グッ!
{ワガアルジヲ、イッタイ、オマエハ..}
「じゃあな、《イグニ.グラン.バースト》」 キイイインン! ドゴオオオンン―ッ!
{ソ、ソノマホウッ⁉ オマエ、イヤ、アナタサ...ガアアアア―ッ!...} ジュアアア―ッ!
ブワアアアッ! ボウボウッ! メラメラメラメラ…
ジオスの魔法が直撃した瞬間、蜘蛛の魔物のアブダイルはジオスの正体に気が付いた。だがそれは時すでに遅く、アブダイルはその魔法の業火に焼き尽くされ、消えていった。
ジュウウウ... シュウ〜
「ん、これで良しッと」 ササッ
「終わったようだな、ジオス」
「ああ、すべてな、治療も呪詛解除も、その原因の魔物もな、この男も直に気が付くだろ」
そうやって、ベッドに横になっているスカラを見ると、腹の傷は完全に治っており、顔色も良く、呼吸も安定して眠っていた。
スウ~ スウ~ スウ~
「マクシン様、呼吸、脈拍共に正常、助かりましたあッ!」
「おおッ! 若造、お前すげえ奴だな! どうだ、ワシと一緒にこの王城の医療師にならんか? なんなら副医療長の座でも用意するぞ!」
「ん~、それはいいや、俺には他にやることがあるから」
「ぬう~、残念じゃのう」
「マクシン、諦めろ!それにジオスは、魔王様直々のお声がかった客人だ、無茶を言うな」
「ウヌ、では仕方ない、分かった」
「ジオス」
「ん?」
「改めて礼を言う、スカラを救い、この国を救ってくれた」
「ああ、成り行きだよアゴン、気にするな」
「ふ、そう言ってくれると思っておったわ」
「知ってて言ったな、ずるいぞ」
「ハハハッ」
「全くもう、 ん?、なんだあれ?」 スタスタスタ
ジオスは、スカラの元へ行き、彼の右手が何かを握っているのに気が付いた。それをジオスが開き、彼の持っていた物を手に取って、それを見た。
「ん~?」 ジロジロ シゲシゲ
「何をしてるのだジオス?」
「なあアゴン、これか、聖魔核って?」 サッ
「ぬッ!ジオスよ、それをどこから?」
「ああ、そこに寝ているスカラが持ってた」
「ではそれはスカラの、スカラのアヴィスランサー、【ミスト】の聖魔核だ!」
「そっか、もしかしたら、彼を助けた時、彼のアヴィスランサー、ミストは自分の聖魔核を主に持たせ、主を守ったのだな」
「ふむ、ミストはそこまでしてスカラを... なあジオス...」
「ああ、やってみようか?」
「それじゃあ、エリスの時の様に頼めるか?」
「ああ、問題ない、元々クリスの頼みでもあるからな」
「何から何まですまん」
「気にするな、俺が好きでやってるんだ。さてとスカラ、少しもらうぞ」 サッ
「ウグッ!」 ピクピク
ジオスはベッドで寝ているスカラに手を当て、彼から少量の魔力と精気を抜き取った。
「これで良し、じゃあ、始めるか」 パアアアンンンッ!
「おい、ジオス」
「ん?」
「スカラの魔力と精気だが、それだけで良いのか?」
「ああ、充分。だって、聖魔核があるんだ、エリスの様に無からじゃないからこれでいいんだ」
「そ、そうか、では頼む」
「んッ!」 コクン
再びジオスは魔法陣を出し、魔法を唱え始める。アゴンはそれを見守っていた。
「ん、《リンケージッ!》」 シュワアアンンッ! ………
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「うッ!」 ボウ〜
「あら、気がつきましたか?スカラ様」 ニコ
気がついたスカラの目には、此処の看護師の女性スタッフの笑顔が見えた。
「此処は?」
「王城の治療室です。今、マクシン様を呼んで参りますね」 スタスタスタ
そう言って、看護師の女性は治療室を出ていった。
「...そうか、俺は蜘蛛の魔物と戦って、腹に一撃をうけ、その後ここへ転移させられたんだ。…俺は、ミストに助けてもらったんだ、(さよならです、僕のマスター)...クソッ! 俺を置いて行きやがって...ミスト..ミスト..ミストオ―ッ!」 ババッ!
「はいッ! マスター、僕に何か御用ですか?」 ニコ
「え?......」
そこには、自分を助けるために犠牲になったはずのアヴィスランサー、ミストが、いつもどうり、ショートパンツスタイルのメイド服を着て、笑顔で現れた。
「マスター?」
「ミスト、なの…か?」
「はい、ミストです♡」 ニコ
「ミストオオオ―ッ!」 ガバッ!ギュゥゥゥッ!
「キャッ! マ、マスターッ!」 ギュゥゥゥ
「ミスト、ミスト、ミストオオオッ!」 ギュウウウッ!
「はい、ミストはここにいますよ、マスター」 ナデナデ
「もう、俺を置いて勝手に行くなッ!」 ギュッ
「はい、マスター」 ニコ
「これでいいか、アゴン?」
治療室の外の廊下で、ジオスとアゴンは中の2人の様子を見ていた。
「ああ、すまんな、しかし相変わらず、でたらめなやつだな」
「ん?」
「いくら聖魔核があったからって、こんなにも短時間で、しかも完璧な彼女を再生復活させるとは、つくづく理解に苦しむ」 ふう~
「そんな大袈裟なあ」
「いやジオス、前も言ったはずだ、『生まれたてのアヴィスランサーは何もできない赤子同然』だと」
「ん、聞いた」
「だがあのミストもエリスと同じなんだな、性格や表情、ましてや、記憶まで持っている、普通ではありえないことだ。それをお前は何事でもないように行いおって」
「ああ、だめだったか?」
「はあ~」
「ん?」
「いや、何でもない。やっぱりお前はとんでもないな、大胆不敵、行き当たりばったりで、全てにおいて完璧な存在、ジオスだよ」
「なんだそりゃ」
「ハハハッ! さて、謁見の間に戻ろうか」 ババッ!
「そうだな、クリスとの約束も果たせたし、ここにはもう用はないからな」 ザッ ザッ
「そうだジオス」
「ん?」
「スカラに取り憑いていた魔物の事を教えてはもらえないか?」
「ああ、アブダイルの事か、いいぞ」
「では、謁見の間で聞かせてくれ」
「ん」 コクン
ジオスとアゴンは治療室に、スカラとミストをおき、謁見の間に戻って行った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回も出来次第投稿します。