第102話 魔王不在の王城にて
ー魔族領 王都「ブロスベルク」ー
キラキラキラキラ…シュイイイインン!
〈 転移終了、王都「ブロスベルク」王城です 〉
ジオスはアゴンと共に魔族領アコン州にある王都、「ブロスベルク」の王城に転移してきた。
「ん、ここが王城か?」
「ああ、そうだ、その転移室だ」
「では、案内いたします、こちらへ」 テクテクテクテク
「ジオス様、姉様の後へ続いて下さい」 テクテクテクテク
ジオスはクリスとエリスの2人の案内で、城内を歩いて行った。しばらく歩いて、大きな扉の前でその歩みを止めた。
「ここが魔王様と会う謁見の間だ、粗相のないようにな」
「ん、分かった。攻撃してきたら反撃してもいいよな?」
「「 え⁉︎ 」」
「頼む、そう言う発想は無しでいてくれるか?」
「えーッ、だって魔王だろ?」
「いや、そんな事しないから」
「そ、そうですよッジオス様!」 アセアセ
「私も会ったことありませんが、マスターを信じて下さい」
「まあ、クリスとエリスが言うなら…」
「とにかく、大人しくしていてくれ」
「ああ、分かった」
ギイイ…
大扉を開くと、そこには200人は入れる大ホールになっており、床には赤い絨毯が敷き詰められその中央に、2段ほど上がった玉座まで、2本のラインが引かれていた。 そして玉座に近い所に、アゴン以外のグレーターギルスの面々がこちらを見て立っていた。
「諸君、遅れてすまん」 ザッザッザッ
「「「 …… 」」」 ジロッ!
その場にいたのは、3人のグレーターギルスで、主席のグレタ、参席のデルタ、四席のバルトが入ってきたジオスを見ていた。
「「 お待たせしました! 」」 ペコ
「ん、ほう、結構広いな! へえ〜、あれがアゴン以外のグレーターギルスかあ!」 キョロキョロ
「ジオス様、他のグレーターギルスの皆さんが見てますよ!」
「そうです、もっと落ち着いてください」
クリスとエリスが、ジオスに注意をしていると、アゴンが諦め顔で言った。
「無駄だ!」
「「 マスター? 」」
「お前達も知っておろうが、ジオスとはこう言う奴だとな!」 ニコ
「「 あ、そうでした。了解です 」」 バッ!
「あ、ひで! なあ、アゴン」
「うん? なんだジオスよ?」
「俺って、どんなふうに見えるんだ?」
「そうだな、大胆不敵、行き当たりばったり、それでいて完璧な存在ってとこかな」 フムッ!
「そうです! ジオス様はなんでもアリの人なんです!」
「姉様の言う通り! ジオス様は少し自重したほうがいいですよ!」
「自重か、それは言えてるな! ハハハハッ!」 バッ!
「なんだよ皆んなして」 フン
「しかしジオスよ、お前はやはり不思議なやつだ」
「なんだそれ」
「私だけでなく、我がランサーのクリスがこれ程、私以外の者と親しく話すのは見たことがないからな」
「へえ〜、そうなのか?」
「ジオス様は特別です。マスター以上の力を持ちながら、マスターと対等の対応をなされる。それだけでなく、私に妹を授けてくださったり、武器防具を強化されたり。ここまでされて、親しくしない方がおかしいです」
「私は姉様に会えて幸せです。これもジオス様のおかげなんです」
「まあ、私も良い友人を得たと思っている。これからも宜しくな」
「ああ、アゴン」
謁見の間の入り口付近で、アゴン達のやりとりを見ていた、他のグレーターギルスは唖然としていた。グレーターギルスだけでなく、それぞれのアヴィスランサー達も驚きの表情をしていた。
「ムウ、アゴンの奴、また変わった毛色の者を連れ込んだものだ!」
「はい、マスター、警戒した方がよろしいかと」
「へえ〜、あのアゴンが皆の前で笑ったのなんて、初めてじゃないか?」
「それよりマスター!」
「なんだい、フォルト?」
「クリスが2人いる!」
「えッ! あ、本当だ、2人いるねえ、でも片方は髪の色が違うよ!」
「ええ、でもそっくり…だれッ?」
「ふ〜ん、アゴンが連れてきた人、結構強そうだねえ…」
「マスター、あのものに注意を払ってはどうかと思います」
「おーッ! 我が愛しのランサー! デライアよ!」 ガバッ!
「わッ! てめええッ!抱きつくんじゃねえ!」 ボカッ!
「あだあッ! う〜、デライアの意地悪〜…」
ジオスはアゴンの後に続き、玉座の近くまでやってきた。
「(ん、グレーターギルスか、確かにアゴンに近い能力の持ち主ばかりだな)」
「諸君、紹介しよう、【ジオス】だ、私とクリス達の友人でもある。良しなにしてくれ!」
「ジオスだ、宜しくな」
「フム、『ヘキサリアム』主席、グレーターギルスの【グレタ】だ」
「グレタ様のアヴィスランサー、【ネヴュラス】です」 ペコ
「俺は、アゴンの盟友、グレーターギルスの【デルタ】宜しくな!」
「私はデルタ様のアヴィスランサー、【フォルト】宜しくお願いします」 ペコ
(クリスッ!後で話があるからッ!) グッ
「へ⁉︎」(わああ…フォルト了解です…アハハ…) コクン
「姉様?」
「僕はグレーターギルス、『ヘキサリアム』第四席の【バルト】、宜しくなジオス君」
「バルト様のアヴィスランサー、【デライア】です。以後お見知りおきを」 ペコ
「こいつツンデレメイドなんだッ!」 さわさわ
「しりを触んじゃねええッ!」 ガンッ!
「ぎゃああーッ!」 バタ
「おい。いいのかそれ?」
「ジオス...様でしたね、我がマスターが大変お見苦しい姿を見せました、申し訳ありません」 ペコ
「ああ、べ、別に気にしてないから、 あはは...」
「ふむ、皆挨拶は以上だな、それで、魔王様はまだか?」
「うむ、アゴン、今、魔王様は東のローレライに行っておる」
「うん? 【メルト】の所か?」
「そうだ、緊急事態が発生してな、急遽、向かわれたのだ」
「なら何故、貴様らはここにいる? 率先して魔王様について行くのが道理であろうがッ⁉︎」
「ああ、その件だけど、ここに僕らが留まる事を命じたのが魔王様なんだ」
「魔王様が?それは本当かデルタ」
「ああ、俺も魔王様から直に命令を受けた、間違いない」
「では、私には何か命令はなかったのか?」
「あるよ!」
「おおーッ! で、魔王様はなんと?」
「うむ、魔王様は貴様に出した指示は『我が頼んだ彼の者と、魔王城にて待て』と言う物だ!」
「ここで待てと言うことか…」
「ま、そう言うことだからアゴン、少し此処で寛ぎながら、魔王様のご帰還を待とうではないか」
「わかったデルタ、お前の言うとうりにしよう」
「では、皆の者、今しばらくここで休みながら、待つと言うことで良いな!」
その場にいた全員が頷いた。 コクン
「ジオス、こっちだ、少し話がしたい」
「ああ、わかった」
ジオスはアゴンに誘われるまま、謁見の間の隅にある小テーブルのあるスペースへと歩いて行った。
「「 マスター! 」」
「ああ、クリスとエリス、お前達もしばしの間楽にしておれ、私は少しジオスと話をしておるから」
「「 はい、 わかりました 」」 ペコ
「じゃあエリス、みんなにあなたを紹介するわ」
「はい、お姉様」
2人は、アヴィスランサー達が集まっている場所へ歩いて行った。
「で、話ってなんなんだ!アゴン」
「ああ、実はここにはいないが、この城にはもうい1人、グレーターギルスがいる」
「此処にいないのは何か訳ありか?」
「重傷を負って治療室に居る」
「重症? ひどいのか?」
「ああ、さっき聞いたのだが、医術長が懸命の治療を施してはいるらしい、だが一向に良くならん」
「良くならん? それ、治療法か何か間違ってんじゃねえか?」
「分からん、そもそも治療自体が私には出来ないからな」
「え? 治療自体って、おいアゴン、まさかお前、…」
「なんだジオス、不思議そうな顔をしおって」
「いや、まさかお前治癒魔法とかは使わないのか?」
「うん? ああ《ガイア》の事か?」
「《ガイア》? ああ、魔族の使う治癒魔法か、そうそれ、使わないのか?」
「ジオス、私はこれまで一度も怪我を負ったことが無いのだ、それに伴って必然的に《ガイア》を使わなかった。要するに私は治癒魔法を必要としないのだ」
「ああ〜…も、もしかして……」
「うん? なんだ?」
「もしかして、グレーターギルスの面々は皆、『怪我をした事がない』っと、言う理由で、治癒魔法を知っていても使わない、もしくは使えないのか?」
「うむ、そうだな、その回答は正しい、我々は強い、怪我を負ったことが無い、従って、必要としない魔法は使わない覚えない、必要ならアヴィスランサーに覚えさせ使わせる、そんな所だ」
「アゴン…」
「む、なんだジオスよ?」
「これは俺から忠告だ、よく聞いてほしい」
「ふむ、ジオスからの忠告か、よかろう聞いてやる、なんだ?」
「上に立つ者はいつ何時、何が起こるか分からない、それに備えて万全を期せ! だから、必要としない物でもそれを憶え、使えるようにしておけ!」
「なる程、上に立つ者か。その忠告、ありがたく受けておくことにしよう」
「ん、ああ、それで、その重傷のグレーターギルス、魔王が来るまでの間、何もする事がないなら、ちょっと俺に見せてはもらえないか?」
「貴様、まさか…」
「ああ、俺が治療してみようと思う」
「うむ、では早速だが、治療室に来てもらえるか?」
「ん、当然、行こうか」
「うむ、おいッグレタ!」
「む、なんだアゴン」
「魔王様が着くまでの間、スカラの所へ行ってくる、後は頼む」
「うむ、わかった。手短にな魔王様はいつ戻られるか分からぬのだからな」
「ああ、分かった、では行ってくる。いくぞジオス、こっちだ!」 ババッ
「ん、案内頼む」 ザザッ
ギイイッ バタンッ!
ジオスは、アゴンの後に続き、謁見の間を出て、治療室へと行った。
ー魔王城内 治療室ー
「ぐわあああッ」 バタバタ ガチャガチャ!
「スカラ様ッ! 落ち着いてッ! 落ち着いて下さいッ!」
「術長ーッ! 血圧低下ッ! 意識レベル 赤ッ! ショック状態ですッ!」
「グッ なぜだッ! なぜ、治癒魔法がきかぬッ!」
王城治療医術長マクシンは、重傷のスカラを賢明に治療していたが、一向によくはならなかった。その治療の最中、アゴンが1人の人物を引き連れ、治療室に入ってきた。
バンッ! ズカズカ…
「どうだ、マクシン、スカラの容体は?」
「うぬ⁉ アゴンか、見てのとうりだ、魔法が効かない!今は延命中だけだ!」 バタバタ
「そうか、ジオス、見てやってはくれまいか?」
「ん、分かった、ちょっと見さしてくれ!」
「おいアゴン、コイツは一体...」
「すまんが、一度コイツにスカラを見さしてやってくれ」
「うむ、アゴンがそこまで言うのならば」 バッ!
医術長のマクシンは、持ち場をジオスに委ね、自分は少し後ろに下がった。
「さて、こいつは一体何をされたんだ?」 ガバ
ジオスは、スカラのシーツをはぎ取り、スカラの体を見た。
「ん、これは......」
「おい若造!何かわかったのか?」
「ジオス、どうなのだ?」
「......」
「ふん、やはりこんな若造ではどうにもならんか。さあどいてくれ、治療の続きをせねばならんからな!」
「ジオス......」
「呪詛傷病...」
「ん?若造、今なんと言った?」
「呪詛傷病と言った。これは普通の傷ではない。呪いの力がこの傷を治さず、そのまま体全体を消し去ろうとしている」
「なんだその凶悪な呪いは?」
「恐らく、この男は、相当まずい相手と戦ったに違いない。 邪神とか破壊神とか、あるいはその化身か代行者か。とにかくそれほど力を持った何かにこいつは傷を負い、呪われたんだ」
「だとしたら、ワシでは何ともならん!治療はできても呪いの解除などできないからな!」
「ジオス!何とかならんか?」
「アゴン、だからさっき言ったろ、『上に立つ者は、いつ何時、何が起きるかわからない。それに備えて万全を期せ』と、今回がその例の一つだということを」
「確かにジオスの言う通りだ、うむ、分かった精進しよう!」
「ん、じゃあ、コイツを助けるか」
「なに!若造!貴様、そんなことができるのか?」
「ん、」 コクン
「マクシン、この者に任せてもらいたい」
「アゴン!この若造は一体..」
「俺の親友の1人さ...」
「アゴン、それとここにいる医術師はいったん、この部屋から出て行っててほしい」
「うむ、邪魔か?」
「ああ、邪魔ではなく、呪いが移るぞ!」
わあああ―ッ!ダダダ! バタバタ
ジオスのその一言で、その治療室にいた医療師、看護師の全8名が、アゴンとマクシンに続き、慌てて出て行った。
「ん、これでいい。 じゃあ忌まわしき呪詛よ、今お前を解呪してやる!」
ジオスはそう言うと、スカラの体に手を当てて、スカラに巣食う呪い、呪詛傷病を治療し始めた。
「ん、神聖解呪魔法!方陣展開ッ!」 パアアアンンンッ!
治療室いっぱいに、大小さまざまな、純白の魔法陣が現れた。ジオスの呪詛傷病解呪魔法の始まりであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。