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第100話 姉妹 姉妹 兄妹

―魔族領 コーカサス州州都「ガイエスブルク」近郊の森―


パチパチ メラメラ パチッ!


「あ、あのう、マスター?」 もじもじ


「ん、おいアゴン、どうした?」


アゴンとクリスは、一瞬固まって、魔法陣から出てきた少女、クリスを見ていた。


「お~い、聞こえてるかあ?」


「ハッ! な、なな、何だこれはああッ!」 ババッ!


「きゃあッ!」 ビクウッ!


突然我に返ったアゴンが叫ぶと、魔法陣から出てきたクリスは怯え、しゃがんでしまった。


「マ、マスター! だめですよそんな大声を出したら、あの子が、あの私が怯えているじゃないですかあ」 タタタ


「む、す、すまん、ついな、叫んでしまった」


「いやあ、ここまでできるとは思いもしなかったよ。ほれ、大丈夫だから」 サッ


「そうよ、大丈夫だからね」  サッ


ジオスとクリスは、怯えしゃがんでいるクリスに手を差し伸べた。


「は、はい、ありがとうございます」


魔法陣から出てきたクリスは、アゴンのアヴィスランサー、クリスとうり二つ、双子といってもよいくらいの少女であった。ただ違うのは、そのクリスの髪の色が、金髪という事と、服装がメイド服ではなく、冒険者たちが身にまとうような、白シャツに膝上のアーマースカート、茶色の野戦ブーツをはき、緑色の野戦ジャケットを羽織っていた。またその腰には、ジオスが造り与えたであろう神剣である、短剣「アストレイ」を装備していた。


「わああ、なんかすごいです! 私ってこんな感じなんですね」 


「あ、あのう、すみません、これはどうしたらいいでしょうか?」


「うん、気にしないで、わたしはクリス、あなたもクリス!仲良くしましょ!」 ニコ


「はい、よろしくです!」 ニコ


 きゃきゃ ワイワイ


2人のクリスな何やら意気投合して仲良くしゃべっていた。


「ん、案外仲良くしてるじゃないか」


「ジオスよ、お前、聖魔核はどこから出した?」


「聖魔核?」


「そうだ」


「なんだその聖魔核って?」


「な、そんなことも知らぬのか?」


「ん、知らない」


「はあ~、では教えてやる、聖魔核とはクリス達を生み出すのに使用される疑似魂魄だ」


「へえ~、そんなのがあるんだ」


「その魂魄に、我々マスターは半年間、自分の魔力と精気を込め、更に魔王様の施しを受けて彼女たちが誕生するのだ。それこそ長い時間と心血を注いでな」


「ほう、それはすごい! 魔王、やるなあ」 フムフム


「それを貴様は、事投げもなく一瞬で行いおって…」 プルプル


「あははは……」


「それだけではないのだぞ!」 バッ


「ん?」


「生まれたての彼女たちは、文字道り赤子同然、言葉やしぐさ、それこそゼロからすべて教え込まなくてはならない、だがあれは何だッ⁉」


「クリス」


「ちがーうッ‼、名前ではないッ! あの新しいクリス全体の事だッ!」


「何かまずいのか?」


「はあ~、これだから何でもできる奴は... いいかジオス」


「ん、」


「生まれたばかりのランサーはしゃべれないのだ、つまり言葉を知らない、それ以前に、知識もなく、あんなに表情豊かではないのだ! それが見ろ!」 ビシッ


 アゴンが指さしたそこには、まるで昔から存在していた、双子の姉妹のように、笑顔でおしゃべりをしているクリス達が、仲良く和気あいあいとしていた。


「ん、なんかいいじゃないか」


「う、クク...た、たしかに...はあ~、まあもういい…で、その魂魄たる聖魔核はどうしたんだ?」


「ないよ」


「は?、今なんと?」


「だから、ないよ、そんなもの」


「疑似魂魄、聖魔核がないだと?」


「ん、知らなかったし、そんなのいらないから」


「じゃあ、あの金髪のクリスは..」


「ああ、あの子はアゴンの分身体のひとつで、聖魔核なるものを使っていない、俺が創生した正真正銘の命ある魔人さ」


「彼女は生きていると」


「ああ、だがその素となったのは、お前の魔力と精気だ、だからアヴィスランサーのクリスと全く一緒だぞ、だが気をつけろよ!」


「む⁉︎」


「彼女は1人の女の子だ、その命、無くしたら、彼女自身を失うことになる」


「むう、(なんて奴だ、無から有を作り出せるなど、まるで神ではないか)」


「「 マスターッ! 」」 タタタタタ!


アゴンがジオスの言葉に考え込んでいると、2人のクリスが走ってやってきた。


「む、どうしたのだクリス」


「「 はい、あのう... 」」 もじもじもじ


「ん、どうしたんだ?」


「「 私達、一緒に行動をしても宜しいでしょうか? 」」 ペコ


2人は同時に答え、同時に頭を下げた。


「むう、ランサーは一人で間に合ってるのだがなあ~」


「そ、そんな... では、この新しい私、クリスちゃんはどうなるんですか?」


「マ、マスタ~......」


「それは...」


「アゴン、連れて行ってやれよ」


「ジオス...」


「その子、きっと役に立つぜ、それにせっかく生まれたんだ、消すには可哀想だろ?」


「け、消すってジオス様、それはどういう...」


「そりゃあ、マスターであるアゴンが『いらないッ』って言うんならそうなるしかないさ、彼女は分解消滅され、アゴンの中に吸収される」


「「 そ、そんなあ‼ 」」 


「な、ずるいぞジオスッ! 私にそんなことを... うッ!」 サッ!


「「 マスタ~... 」」 ウルウルウル


「ああーッ!もうわかった!好きにしろッ!」 ババッ!


「「 マスター、ありがとうございますッ! 」」 きゃああ♪


2人のクリスはお互い抱き合って喜んでいた。


「だが、名前は変えてもらう」


「は、はい、 そうですね、お姉ちゃんと一緒の名前だとややこしいですからね」


「え? お姉ちゃん?」


「はい、私より先にいらっしゃいますから、私が妹という事で...ダメですか?」


「妹!私に妹が…ううん、いい! 私が貴女のお姉ちゃん!そうしましょッ! さ、マスター、私の妹に名を授けてください」


「あ、ああ、わかった、ではお前の名前は『エリス』、『クリス』の妹の『エリス』、これでよいか?」


「はい! ありがとうございます」


「よかったねエリス!」 ギュッ!


「はい!クリスお姉ちゃん!」 ギュッ!


こうしてアゴンに新しいもう一人のアヴィスランサー、クリスの妹エリスが誕生した。


「はあ、では夜も更けて来た、明日に備えて早く寝るぞ」


「「 は~い 」」 タタタ


アゴンに指示され、2人はユリナが寝ているテントへ消えていった。


「ふう~、ジオス、貴様はやはり...」


「ん、その先はいいじゃないか、どうせ明日、魔王の前でわかるからさ」


「そうだな、では私も休むとしよう」


「ああ、お休み、野営は、任せてくれ」


「うむ、頼む」 ザッザッザッ バサッ


そう言うとアゴンは別のテントに潜っていった。その場に一人残ったジオスは再び焚火の前に腰を下ろし、これからの事を考えていた。


パチパチ カタン ボワッ! メラメラ パチ


「明日か......(そうだな、あれはこうして、これは...... 」

          ・

          ・

          ・

          ・

チチチ キョキョキョ バサバサバサ


その日の朝は野鳥達の鳴き声が盛んに鳴いていた。


トントントン ジュワア~ ブクブクブク ポコポコポコ パチパチ メラメラ


3張りのテントが並ぶ野営地で、こ気味良い包丁の音と、朝食の準備をする音が鳴っていた。当然、それに伴って、辺り一面に美味しい、いいにおいが充満していった。


「「 ごはんッ! 」」 にゃミャア! ババッ!


「おう!目が覚めたか?」 ジュ〜 タンタンタン!


「「おはようにゃッ!」」 にゃん ミャン


「もうすぐ朝食ができるから、顔を洗っといで」 コトコト


「「 は〜い(にゃ、ミャ) 」」 バッ タタタ


「う〜…昨日の記憶が… あッ!」 ゴソゴソ


「やあ、おはようセレス!」 コトコト、ジュウ〜


「お、おはようございます、ジオス様!」 ペコ


「ん、ミュウとミイは、今顔を洗いにいったから、セレスもどう?」


「はい、じゃあちょっと行ってきます!」 タタタ


サクサクサクッ テクテク


「「おはようございます! ジオス様!」」 ペコ


「ああ、おはようクリス、エリス、君たちのマスター、アゴンを起こしてきてくれないか?」 コトコト


「「 はい、承知しました 」」 ペコ サササッ


2人はアゴンのテントへ向かっていった。


「よし、うん、いい味だ。これでよしっと、あとはテーブルと椅子だな。ホイッ」 シュワンッ ドンドンドンッ


ジオスは異空間から長テーブルと8脚の椅子を出して並べた。テーブルクロスを敷き、各席には皿とカップ、フォークにスプーンという、屋外ではありえない食卓を準備した。


いち早く戻ってきたのは、獣人姉妹のミュウとミイだった。


「にゃ、ジオス様、何か手伝いますかにゃ?」


「そうだな、じゃあ、このサラダを各テーブルに並べてくれ」 タン


「はいにゃ! ミイ手伝うよ」


「ミャア! ごはん、ごはん♪」 


「キャアーッ! 寝坊したあーッ!早く朝食の準備を......できてる...」


「ん、おはよう!ユリナ、準備はしてあるから、顔を洗っておいで」


「は、はい!…」 カアアッ タタタ


「ふう、さっぱり、うん? え、ジオス様が朝食を作ってくれたのですか?」


「ああ、セレス、簡単な物だがね。 それよりちょっと鍋を見ててくれないか?」


「はい、任せてください! …わああ、美味しそう…」 コトコト


「ん、もう程よくできてるから、火から鍋をおろしてくれるかな?」


「はい うんしょっと!」 ゴン!


「あとは、パンを出してっと」 シュンッ!


「ふむ、ジオスおはよう」 ザッザッザッ


「おう!おはよう、よく寝れたか?」 カチャカチャ


「うむ、お前の用意したテントとベッド、なかなか快適であった。すごいなあれは」


「まあ、よく寝れたならいいか、さ、席につけよ、今朝食を用意するから」


「すまんな」ザッ


「「 さ、マスター どうぞこちらへ 」」 サッ


2人は アゴンを席に案内し座らせた。そしてそのあとジオスの元に来て給仕を手伝う。


「セレスとミュウもミイも席についてくれ、今出すから」


「え、でも…」


「いいから座って」


「「「 はい(にゃ ミャ)」」」 スタッ


「ハアハア、もうできちゃった?」 タタタ


「うん、今できたところ。ユリナも席について」 チャ チャ


「うう〜、本当は早起きして、私が作ろうと思ったのにいい」


「はははッ! ねぼすけには無理だな!」 ククク


「う〜ッ 兄様の意地悪ッ!」 プン


「じゃあ、クリス、エリス これを席に配ってくれるかな?」 ササ


「「 はい、ジオス様 」」 ササッ


クリスとエリスは、ジオスの作った朝食を、皆の席に配っていった。


「ほう、うまそうだな」


「すご〜い、これが野営での朝食? レストランと変わらないじゃない」


「ええ、びっくりですねセレス! ジオス様っていったい…」


「にゃ、これはいい匂いなのにゃ」


「ミュ〜ウ… ごはん ごはん」


「よし、皆に行き渡ったな。じゃあ食べようか」


「「「「「 いただきま〜す 」」」」」


森の中で清々しい朝食が始まった。 カチャカチャ ハムハム ゴクン 


「「 美味しいーッ 」」 パクパク ゴクン


「ええ本当に、こんなに美味しい朝食は初めてですわ」 ハムハム コクン


「これも美味しいですよ ユリナ様!」 はい


「ユリナ様、こちらも美味しいですよ」 はい


「ええ、ありがとう」 カチャカチャ ハムッコクン


カチャカチャ ワイワイ、アハハ......


「うん?」 モグモグ ゴクン


「はて?」 ジ~ コクコク コクン


「「 ハッ! ちょとまったあああ―ッ! 」」 バンッ‼


朝食も半ば、いきなりセレスとユリナが同時に叫んだ!


「ん?どうしたんだ2人とも、いきなりそんな大声で?」


「え、いやまずはユリナどうしたの?」


「え、セレスからどうぞ?」


「いいの?じゃあ、ジオス様ッ!」


「ん?」


「この者達は何者ですかあッ!」 ババッ!


そう言って、セレスはアゴン達3人を指さした。


「ああ、そうか、セレスは知らなかったな。彼はアゴン、昨晩、魔王城から俺を迎えに来たグレーターギルスで、ユリナのお兄さんだ」


「へ? ユリナのお兄様ですか?」


「うむ、グレーターギルスのアゴンだ、ユリナの兄でもある。よろしくな!」


「は、はい、失礼いたしました。私はセレス、アトランティア法王国、法皇の娘で、今はジオス様の婚約者です」


「うむ、隣国の姫君でジオスの婚約者と聞いておる。ユリナと良しなにな」


「はいッ!」 スタッ


「じゃあ、次は私ね」


「ん、で、何なんだ?」


「兄様ッ!」


「む、何だユリナ」


「そこのクリスによく似た金髪の子はだれッ⁉」


「うむ、彼女は...」 ガタッ! ババッ


アゴンが話そうとした時、アゴンの両隣にいた彼女達が立ち上がった。


「ユリナ様、ご紹介します、私の妹、エリスです」 ペコ


「ユリナ様、お初にお目にかかります。私はエリス、クリス姉様の妹でございます」 ペコ


「え? クリスの妹?」


「はい、昨夜ジオス様に生を授かり、こうして誕生する事が出来ました」


「は?ジオス様に、生? 誕生?」


「その事なんだが、ユリナ」


「はい、ジオス様、これはいったい..」


「うん、俺がアゴン、君のお兄さんの体から彼女を作ったんだ」


「え? ジオス様はベターハーフであるアヴィスランサーを生み出す事が出来るのですか?」


「ん、やってみたら出来ちゃった」 ははは


「そ、そんな簡単な…並大抵ではないのですよ!」


「そ、そうか?」


「私、知ってますから!」


「ほう、何をだ?」


「まず、聖魔核です。それが必要だと、後、物凄く沢山の魔力とそのマスターの精気がいるとかです」


「あ、それアゴンにも言われたな。 でも出来ちゃったからいいかな」


「はあ〜…まあ、ジオス様の事です、なんでも出来ちゃうんですね」 


「うむ、ユリナ諦めろ! この男は少し常識がない」 コク


「は? アゴンそれをいうのか?」


「本当の事であろう、私もクリスの妹を作るとは思わなかった」 フン


「本当は喜んでいるくせに」 ニイ


「なッ!」


「アゴン、俺は知ってるんだぜ〜」 ニヤニヤ


「バッ バカを申すな、なぜ私が…」 バッ カア~


「「 そうなんですか、マスター? 」」 グイ


「うッ お前らがいて、喜ばないわけなかろうが!」 フン


「「 はい、ありがとうございます、マスター‼ 」」 ペコ


「ジオス様?」


「ん、何だいユリナ?」


「ジオス様はいつの間に、兄様とこんなに親しげなんですか?」


「普通じゃないのか?」


「はい、たとえ同じグレーターギルスでも、兄様はここまで砕けた会話はしません」


「まあ、昨晩は色々とあったからな、それでだろ、ん、男の友情ってやつだな!」


「男の友情...ま、まさか!ジオス様は兄にも求婚を!」


「「 するかああーーッ! 」」 ババッ!


「きゃあッ!」


「俺がアゴンとそんな中になるわけないだろ!」


「うむ、ユリナよ私とジオスは昨晩戦ったのだ!そんなわけがなかろう!」


「そ、そうでした! で、それが何故このようになったのでしょうか?」


「まあ、なッ」 コク


「うむ」 コク


「やっぱり怪しい…白状しなさいいいいーッ」 ババッ


「うわあああーッ」 ババッ


バタバタ ギャーギャー ワイワイ……


「ミャ、お姉ちゃん、なんか騒いでるよ」 ハムハム ゴクン


「にゃ? いいのいいの、やらせておきなさいにゃ!」 ングング ゴクン


「いいのかミャ〜?」 パク 


「にゃ、ふふ、あれはいいの」 ハムッ! ングング ゴクン


「(ジオス様、楽しそうにゃ…)にゃん」 にゃあッ!


魔王城出発まで、今しばらく時間がかかりそうであった。




いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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