表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すしプロ:涙と慰めで交わす最初の握手。  作者: 千石杏香
第一章 一年ぶりの「はじめまして」
8/57

Ⅴ チョウム・ベプゲッスムニダ。

そして、来日して初めての日曜日がやってきた。


その日は綺麗に晴れた。


湿ったアスファルトを踏みしめ、熾子は浅草へと向かった。胸裏(むなうち)には期待と不安が縦横に織られている。そもそも、相手が本当に女子高生だという確証はないのだ。本当はオジサンなのかもしれない。


人々の顔も街の景色も韓国と変わりない。それなのに、聞こえてくる言葉や、街にあふれる文字などは全く違っている。


まるで韓国語の通じない韓国へ来たようだ。


しかし街の清潔さには明らかな違いがある。路上にゴミはあまり落ちておらず、違法駐車も少ない。何より、気温は韓国より暖かった。


浅草駅は古い洋館を思わせるビルであった。待ち合わせ場所は、その前の三角形の広場だ。


待ち合わせ場所でしばらく待った。


午前中ということもあり日はまだ高い。空には雲一つない。


ビル風が絶えず熾子の髪に吹きつけている。


駅ビルから吐き出される人込みに混じり、やがて一人の少女が姿を現した。彼女は熾子と目を合わせる。髪は長く、醤油のように黒い。頭の上には銀朱(ぎんしゅ)の背をした海老を載せている。


頭の海老の尾を揺らしながら、彼女は近づいてきた。


「キム・チジャさんですか?」


これが「つかさ」であろうかと思った。


そうです――と熾子は答える。


少女はぱっと明るい顔をした。


「『つかさ』です。――チョウム・ベプゲッスムニダ。」


ほっとしたことは言うまでもない。その韓国語には日本語の(なま)りが強かったが、意味が通じたことには変わりなかった。思わず熾子も「つかさ」の挨拶を真似る。


「金熾子です。――처음(チョゥン) 뵙겠습니다(ブェブゲッスムニダ)(初めまして)。」


それが、一年ぶりの初めての出会いであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ