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すしプロ:涙と慰めで交わす最初の握手。  作者: 千石杏香
第一章 一年ぶりの「はじめまして」
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【幕間】中学時代Ⅰ

司が初めて隣国に興味を持ったのは、中学二年生の秋のことであった。二学期の中間考査を控えており、深夜まで勉強をしていた。


疲れが回ってきた。筆を()き、休憩に入ることとする。


スマートフォンを手に取り、動画サイトへと接続した。


そのころの司は、気に入ったアーティストを見つけては作品を聴き漁るということを繰り返していた。一人の作品を聴きつくしては別のアーティストを探し出し、数か月ごとに渡り歩いた。


その日は、動画サイトのトップに有名な歌手グループのPV動画が上げられていた。彼女らの姿はかつてテレビで目にしたことがあった。けれども司はあまりテレビを見るほうではない。しかも相手が韓国人ということもあってか、それまで興味が湧かなかったのだ。


しかし、このときは何となくその動画をタップした。





箱庭のような画面の中に街の風景が瞬き、歌声が流れ始めた。





  心が  細かく振動した。




胸が時めいて

  動画から目が離せなくなった。


勉強に疲れた身体へと、

冷たい潤いが与えられたかのようであった。


  聴き終えたあとは

遠くから響き渡る海鳴りのような

  静かな余韻が耳の奥で引き摺られた。


しばらくして、司はもう一度再生(ボタン)をタップした。

ベッドに入るまで、その晩は何度も同じ歌を聴き続けた。


彼女らの歌が司の心を掴んだことは言うまでもない。


それからのことだ――、


司が、その歌手グループの歌を積極的に聴くようになったのは。


普段は数ヶ月で飽きるところだが、今回に限っては深くのめり込んだ。少ない小遣いの中からCDを買い、ポスターを買い、部屋へと飾り、まるで宝物を蓄えたかのような気分となった。


部屋の新しい景色は、小学生のころのある記憶を思い出させた。


中学に上がり、両親が離婚するまで、司は長期休暇のたびに母の実家へと帰省していた。


母の実家は鎌倉にあり、目の前には由比ヶ浜が拡がっていた。近所に住む少年と出掛けては、波に(なら)された沙浜(すなはま)の中から、珊瑚(さんご)欠片(かけら)や桜色の貝殻、あるいはシーグラスなどを探し出していた。


特にシーグラスを探し当てたときの喜びは今も忘れられない。


(まる)硝子片(ガラスへん)は波の飛沫(しぶき)に似ていた。沙の中から探し出しては、蒼穹(あおぞら)(かざ)して喜んだ。どこにあるのかも分からないその欠片(かけら)の故郷と、深海を漂ってきた長い時間に思いを()せた。――


そのときと同じ気持ちを抱いた。


歌手グループに対する興味は、韓国に対する興味へと敷衍(おしひろ)げられた。司はさらに、韓国製の映画やドラマを観たり、韓国について調べたり、ハングルを覚えたりもした。まだ行ったことのないその国について、朝な夕なに思いを馳せた。


――いつか、この国の友達や恋人ができたらいい。


そのときは、まだ、無邪気にもそう思っていた。

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