2話
そんな事を考えていたらあっという間に王城の中の第四謁見の間に着いた。
ここは謁見の間の中では小さめだが完全防音の魔法を施されてる上、金の装飾を全体に施された豪華なパーティールームのような部屋だ。
「お母様、只今参上しました第一王子のシャリオです」
ここは形式上、謁見の間なのでマナーに乗っ取った行動が必要となる。
「うむ、私の隣に座れ」
うつむいて片膝を立てていた状態から顔を上げ一礼をする。
「はい只今」
上座となる位置に置かれた女王の座る黄金の椅子の隣に今日の為にか用意されている少し女王の椅子よりも小型で汚れのないシルバーにピンクの薔薇の装飾があしらわれたファンシーな椅子に腰かける。俺の豚面にこれは辛いッ。自分の絵図等を想像しただけで嘔吐ものだ。
三大公爵家の娘が誰か一人でもいいから不細工である事を祈ろう、もう俺にはそれしかない。どこまでいっても俺の立場は異世界の姫的な立ち位置なのだ。
婿として政略結婚の道具として使われてしまうのが落ちであろう。
王家の直系で第一王子しかも絶世の美男子だ、王家の血を迎えるにしても、婿として迎えるにしても誰もが喉から手が出るほど欲しい縁談で引く手あまたであろう事がわかりきっている。
毎年恒例の収穫祭(王城に収める年貢の
恒例的行事)では王の演説に付き従う絶世の美男子と噂の第一王子の俺を一目見ようと文字通り人が広間にゴミのように集まる。その様は俺の記憶にも苦く残る日本の夕暮れ時のすし詰め満員電車にも劣らない有り様だ。
形式に習い俺は手を振るのだがその度に巻き起こる民たちのビックウェーブと歓声はいっそ面白くもあり、調子に乗ってリズム良く振りまくり後日躾のミーナ先生に折檻されるのだった。
過去を回想しながら天井から吊されたきらびやかなシャンデリアを眺めていたのだが、まだ時間もありそうだしこの際と気になってた事を聞いてみる事にした。
「お母様、ところで僕の奥方様候補はどのような方達なのでしょうか」
聞いた瞬間、明快で豪傑なお母様が珍しくが顔を歪めた。
「……あぁ、そのな、シャリオの奥方候補なのだが……」
この母にしてなんとも歯切れの悪いよほど酷い奥方候補なのだろうか、曲がりなりにも三大公爵の跡継ぎ達だろうそんな事がありえるのだろうか。
「すまん、王家では代々第一王子は三大公爵家に嫁がせるのがならわしなのだ、女王とはいえ安易にならわしを覆してはほかに示しがつかない、たとえ最悪の貴族時代と呼ばれる由縁となった三大公爵家のファイア家跡継ぎ、リーフ家跡継ぎ、アクア家跡継ぎ、のいずれかに嫁がされる息子の不憫を思っても覆すわけにはいかないのだ」
「不甲斐ない母を許しておくれ…… 」
まじかよ…最悪の貴族時代と言わしめるほど酷い候補達なのか、しかも三大公爵家の跡取り全員とか勘弁してほしい、何よりこの母の表情からにじみ出る悲壮感もそうなんだが、王家に仕える使用人達までうつむき涙を流すという状況に不安が押し寄せてくる。
「う、うん……」
いっそ隣国との戦争に大敗したくらいの敗戦国家と聞いても納得するくらいの悲壮感が謁見の間に広がりきると、静かな場にノックの音が響いた。
「女王様、三大公爵家ならびにその跡継ぎがご到着いたしました!」
数秒の後、お母様が表情を切り替え使用人達へ檄を飛ばす何を固まっている早く支度をせよと静まり返った部屋に再び活気が戻る時は動き出したのだ。
そのまま戦々恐々とし大人しく待機しているといよいよ謁見の時がやってきた、俺の未来はどうなってしまうのだろうか。
「時刻になりましたのでこれより謁見を開始致します」
シャーー、レースのあしらわれた紫の妖艶なそれでいてどこまでも上品な薄い生地の高級感溢れるカーテンが左右に開かれる。
謁見の間に敷かれたレッドカーペットに片膝をついてうつむくアクア家ファイア家リーフ家を前にしたのだが、どんな粗暴なデブ(ほめ言葉)が現れるかと思いきや意外と礼節と作法を感じる佇まいだ、それに公爵家の当主こそ恰幅の良い体型だがその跡継ぎと思われる娘達は細身の体躯に、それぞれ火を思わせる生地、森を思わせる生地、湖を思わせる生地に金の装飾をあしらわれた騎士のような服装を着こなしている、雰囲気としてはまったく悪くはない。
最悪の貴族時代とは何だっただろうか、いやまだ油断は出来ないあの部屋に広がった悲壮感はとてもじゃないがドッキリと断じるにはいささかリアルに過ぎた。
「面をあげよ、 」
女王の宣言に対してうつむいていた顔を上げる三大公爵家、
瞬間使用人の何人かが白目をむいて倒れた。
「……、 王家の使用人ともあろう者が情けない、すまんな許せよ、あれであの者達も優秀なのだ」
「いえ、娘に非があればこそ、このような場に招き入れてもらえるだけでも誉れなれど…ファイア家として王の意向のままに」
「リーフ家も並びに」
「アクア家も並びに」
女王がパチンと扇子を閉じると場をしめる。
「であるか、さっそくで悪いのだが時間もおしている事だ息子を紹介させて頂こう、 我の息子であり第一王子である、シャリオだ、シャリオ挨拶せよ」
馬鹿な…三人とも美少女だと!?こんな美少女見たことねぇよ、婿に出されるって事はこの中の誰か一人だけって事だろう?選べねぇよ、むしろ三人ともお持ち帰り即成仏だよ、むしろ俺がお持ち帰りされるよ、てかこの世界に転生してはじめて勝ち組を確信したよ。
「シャリオ!早く挨拶せよ、公式の場である、」
やべ、惚けてしまった。
「大変失礼致しました第一王子のシャリオです、三大公爵家様並びにお跡継ぎ様今後ともどうぞよろしくお願い致します」
慌てていたけどミーナ先生のおかげか淀みなく返礼する事が出来た、これでいいかな?ちらっとお母様を伺うと、こくりと頷かれるどうやら今ので及第点はもらえたみたいだ。