Part8
車を走らせること何時間か。オルレアンに着いた。着くとすぐに俺らは喫茶店に行った。今日は朝にねじ込まれた少量のエクレアしか食べていないためとてもお腹が空いている。早速持ち込まれたサンドウィッチにかぶりつく。その横で大食らいがこれよりも大量のサンドウィッチを食べているのを見ると、どっかの神様を思い出す。ここの店には備え付けのテレビがあり、速報と書かれた赤いテロップがやけに目立つ。勿論内容は沼地の拡大の話が主だ。衛星写真では紫色の地面が一晩で腕を伸ばしたかのように伸びている。コメンテーターは人が多い方に伸びていくのではないかという疑いまでも持っていた。でも俺とアメリアの二人しか加わっていないからそんなに人口が増加した訳でもないだろうし、この説に関しては俺が否定できる。そして隣では十五個のサンドウィッチを五つしか頼んでいない俺よりも早く平らげたアメリアがコーヒー…に大量の砂糖とミルクを入れたものを飲みながらひと息ついていた。残念ながら俺はコーヒーと言えばブラック派なのだ。初めてブラックを飲んでいることを妹に知られた時は「かっこいい」と言われたのをハッキリと記憶している。そんな風に思いを馳せながらブラックコーヒーに口をつける。俺もひと息付き、最後のサンドウィッチに手を出そうとしたところであることに気づく。やけに外が騒がしい。キャーキャー言いながら逃げる者に一点の方向を見つめる集団。テレビのコメンテーターもアナウンサーも何か慌てた様子で資料を受け取ったりしている。暫くすると店のドアを慌てたようにおじいさんが開けて「早くお前さんたちも逃げろ!」と言った。俺は訳が分からないがとりあえず逃げた方が賢明だということだけを頭に残して呑気に寝ているアメリアを叩き起す。
「おい起きろ!てめぇおい!」
「むぅ〜んどうしたんですか?」
寝起き独特のトロトロとした声で聞いてくる。
「ほら!早く立て!」
しかし、アメリアは「え〜」と言って聞かない。仕方なく俺はアメリアをおんぶする。感想としては重いというのが正直なところだが、今こいつの体重のことなどどうでもいい。俺が背負った途端アメリアは「えっ、ちょっと!」と動揺している様子だがそんなの関係ない。店の外には人だかりができており、店内から見たのと同じように一点の方向を見つめている。それに便乗してその方向を見て、俺は言葉を失った。それはあの日、パリが毒沼と化した時にみた沼の色。沼の泥をそのまま人の形にした十メートル程の巨大な人形が佇んでいた。それは生きているかのように動き、こちらに向かってきている。そして俺は、何故かそいつに親近感を覚えた。この前見た夢のあいつにそっくりだ。そのまま、アメリアに押されるまで動き出せなかった。何故なのだか、自分でもわからない。