Part4
今俺は目的であったロープウェイに乗っている。山の頂上までとは違い、山の向こう側まで行くのだから普通ならかなりの額を取られているはずだった。しかし、運良く無料で乗れた。気の利く(?)老人とたまたま居合せたメガネのおかけだ。特に話すこともないので脚を組み直して目を瞑った。このまま寝てしまいたい。すると、その瞬間にメガネが口を開いた。
「自己紹介…しませんか」
「はぁ?」
突然の提案に思わず素のリアクションをしてしまった。何も話さないは話さないで気まずいがいざこうなると厳しいものがある。しかしそんな俺の心情を無視して彼女の方から自己紹介を始めた。
「私はアメリアっていいます。ドイツ出身なんですけどあの事件の後イタリアに引っ越してまして…。えっと…好きな食べ物は行きつけレストランのカルボナーラです!!」
全てを話し終えたようで、息を切らしながらこちらを見つめている。次は俺の番だって言いたいのか。俺も好きな食べ物言わなくちゃいけないのか?
「…俺はカールだ。以上」
「えっ!え〜ちょっと!あんなこと言った私が馬鹿みたいじゃないですか!!」
こいつ、この世の終わりみたいな顔してやがる。
「チッ…分かったよ!出身はフランスで、好きな食べ物は…その…エクレアだ」
なぜだか気恥ずかしかった。メガネ…ではなくアメリアはぽかんとこちらを覗いている。そしてこう言った。
「カールさんって、思ってたより優しいんですね」
「第一印象は怖いとでも言いたいのか?」
俺はよく目つきが鋭いため恐ろしがられている。どうせ今回もこんなところだろ。
「はい…まぁ初めは。でも書類を拾ってくれたり傷を負ってもなんだかんだで許してくれたりロープウェイに無料で乗せてくれたり」
正確には無料にしてくれたのはあの爺さんのおかげだがな。
「で、カールさんはどこまで行くんですか?そんなに大きなリュックを持って」
ここでハッとした。アメリアやら老人やらですっかり忘れていたが俺の最重要事項は妹の探索なのだ。俺はこいつに行き先を告げなくてもいいのだがロープウェイを降りるまでに時間がまだある。俺が言わなかったせいで微妙な雰囲気になり暗い空気の中にいる方が俺はゴメンだ。
「俺は今からイル=ド=フランスの方に行く。それだけだ」
妹のことは伏せ、行き先を有耶無耶にして伝えた。すると、アメリアが食い込むかのよう「私もそこ方面に行きます!」と言ってきた。おいおい嘘だろ?何となく読めた。こいつ俺に付いてくる気だな?
「まさかだけどさ、俺に付いてこようなんて思ってないよな?」
「え?ダメですか?」
このメガネは平気な顔をして言ってきやがる。そしてため息をついた後尋ねた。
「じゃあさ、せめてお前がイル・ド・フランスの方に行く動機を教えてくれよ」
いまロープウェイはアルプス山脈の頂上だ。この箱は折り返し地点を過ぎたと同時にアメリアの話は始まった。