Part3
しばらく何も言葉が切り出せず見つめあっていた。その後、何秒たったか分からないが気まずさを紛らわすために周りに散らばっている紙を拾ってあげる。悪気はないが拾う際に内容が見えてしまう。しかしどれも訳の分からない数式や図で埋まっているため何もわからない。
「えっと…あの…」
未だにキョドキョドしている彼女に紙の束を適当に手渡した。よし、このままここを去ろう。どさくさに紛れて去ろう。すると、何故かこのタイミングで老人夫婦に話しかけられた。
「あのぅ…これ」
おじいさんから手渡されたのは一枚の赤いチケットだ。そのチケットにはゴンドラの写真にペアチケットという文字が印刷されている。
「えっと、これは?」
状況が飲み込めない。
「本当は妻とゴンドラに乗って頂上まで行くつもりだったのだが…急に戻らねばならぬ用事ができてのぉ」
「だとしてもペアチケットって二人じゃないと使えないんじゃ」
「ん?二人はカップルじゃないのかの?」
「は!?」
「ふぇ!?」
二人同時にリアクションをしてしまった。
「こっちの方が安く済むしいいじゃろう。代金はいらんぞ」
そう言い残して二人は去っていった。え?もしかして俺こいつの彼氏だと思われてんの?だとしたら最悪なんだけど。でもロープウェイ分のお金がチャラになるのか。ロープウェイだけで何ユーロかかるか分からなかったから、助け舟なのか?でもこの船は泥舟なことは確定だな。
「えっと…どうしますか?」
とりあえず聞いてみることにした。俺としては断られてもOKが出てもいいのだが。
「無料…ってことですか?」
急に真剣な眼差しで見てくる。
「まぁ、そうですね。そんな感じです」
「使いましょう!それ!」
顔を近づけてきて興奮したかのように言ってくる。前かがみで近づいてきたせいで目のやり場に困る。そして半強引に彼女に押される形で乗り場に行くのであった。