表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

ゆっくり更新になると思います。

アパレル系の、青春小説になります。

 目の前にあるピンク色のポロシャツに、わたしは思いっきり目を凝らした。どう見てもわたしが作ったポロシャツ。わたしがデザインしてパターン引いて裁断して……長くなるから省略。とにかく、全工程わたしがやったオリジナルポロシャツが、こんな所にある。こんな現実認めたくないけどね、本当に。だって結構自信があったんだ。ネットで売った商品だけど、なかなか好評で追加販売までして。それが、三ヵ月後には、この押し入れの臭いがするリサイクルショップのワゴンの中。だっさい服たちの中に紛れ込んでいる。クツジョク以外のなにものでもない。最悪な気分。バーゲンセールみたいにぐっちゃぐちゃにされてないだけマシなのかな。一応きれいに折りたたんで置いてあった。こんな事なら見つけなければよかった。一番上に置いてあるシャツを取ったら、ひょっこり出てきたのだ。かなり可愛いデザインだと思う。襟と袖と裾の部分に白いレースまで付けてるし、縫い方も少し工夫してて、そこらへんの量販店では見つけられないポロシャツなのに。それが、こんな、おばちゃん御用達のリサイクルショップで売られちゃうなんて。おかしい、絶対! こんな店に入らなければよかった。絹ちゃんのせいだ。絹ちゃんがここに入ってみようなんて言うから。

「どうしたの? 固まっちゃって」

 涼しげな姉の声が、なんだか癇に障る。答えないでいると背後からわたしの手元を覗いてきた。

「……あ、これ……」

 ちょっと気まずそうな声。余計クツジョク感が増した。

「絹ちゃん、このポロシャツって三百円になっちゃうほどひどい?」

 値札には、『B 特価300円』と黒ボールペンで殴り書き。店に売った奴もむかつくけど、値段を付けた店員もかなりむかつく。

「うーん、せめて五百円くらいにはしてほしいね。もともと三千円だったよね?」

 全然フォローになってない。そう、送料込み三千円。正直、少し高めの値段設定だったけど、結構売れたから、かなりの儲けになった。黒字でちょっと得意になってたのに。

「あ、待って! この裾の部分、ちょっとシミが付いてるじゃん。だからランクBで安いんだよ、きっと」

 姉が嬉しそうな声を出して、わたしの肩を痛いほど強く叩いた。一応元気付けようとしてくれているらしい。でも所詮ひとごとだ。姉はこのポロシャツには一切関係してないんだから。全てわたしのプロデュース。

 たしかに裾の、白いレースとピンクの布地の境に細いスポイトで一滴、オレンジジュースを零したようなちっこいシミが付いているけど。ただの気休めにしかならない。……売った人は、絶対この服に飽きちゃったんだ。

「そんな不機嫌な顔してないでさあ……もう出ない?」

 ワゴンの前でじっとしたまま動かないわたし達を、店員のお姉さんが不審そうな顔で見ていた。レジから出てきそうな勢い。そんなにわたし、怖い顔してた? 反省。

 姉が、よしよし、とわたしの頭をなでて来た。馬とか犬に「どうどう」って言っているみたいだ。

「帰る」

 ポロシャツから手を離し、わたしはさっさと出口のドアに向かって歩き出した。その途端、どしん、と大きな物体がわたしの体にぶつかってきた。

「あーら、ごめんなさいねえ」

 間延びした、全然悪びれた様子もない声で、巨漢のおぼちゃんが謝ってきた。おばちゃんの顔は、わたしの方に向いていない。ひたすらハンガーにかかっていLサイズの服を見つめている。少し大きめの黒いスーツ。でもこのおばちゃんには到底着れそうにない。無理やり袖をとおしたら、間違いなく破れそう。おばちゃんの見た目だと、XXLがベストサイズだ。「無理じゃないの?」よっぽど言ってやりたくなったけど、やめた。そこまでわたしもガキじゃないし。一応高校生だしね。

 おばちゃんが立っているせいで、もともと狭い通路が余計狭まっている。体を壁に擦り付けながら、わたしはおばちゃんの脇を通り過ぎた。

 店内は、九月に入ったというのに、冷房がガンガンにきいていた。多分、太り気味のおばちゃん客が多いからだろうなと思った。流れてくるのはつまらないAMラジオ。置いてあるのは、タダでも貰いたくない趣味の悪い服ばっかり。……そんな場所に、わたしが作った服が置いてある。なんだか落ち込んでしまう。

 外に出ると、突然体が九月を感じた。やっぱり夏をひきずっている。暑い。

思わず瞼を閉じると、暖かいオレンジ色が脳裏に浮かんだ。白い斑点も。

「ねえ、駅前のマックに寄っていかない?」

 背後から姉の誘いが聞こえてくるけど、どうでもよかった。早く家に帰りたい。

「お姉ちゃん! 作ろうよ! 春もののシャツ!」

 イメージが消えちゃう前に。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ