告白
※
「ねぇ、ユウト? この旅が終わったら聞いて欲しいことがあるの」
「そんな死亡フラグ建てるなよ、縁起でもない」
「ごめん」
「わかってるよ。言わなくても」
「でも、口に出しておきたいの。たぶん、ユウトが考えていることとも違うし」
「なら、今言ってくれ。これが最後になるかもしれない」
「そうだね」
さくらは、空を見上げた。満月が美しく輝いている。
「実は、いままで隠していたことがあるの……」
「えっ」
「わたしね。前世の記憶があるって言ったじゃない。それは、この日本でユウトと一緒にいた記憶だけじゃないの……」
「ほかに、なにをおぼえているんだ?」
「えっとね、日本での生活ほど、はっきりとしたものじゃないんだけど……」
「やっぱり、ユウトと一緒に冒険している夢みたいな記憶。そんな記憶あるはずないんだけど、あるんだ。色んな敵と戦ったりしていて。でも、最後にはわたしたちは、離れ離れになっちゃうんだ。わたしたちは、今みたいに、その、付き合っていなくて、ちゃんと好きって言わなくちゃいけなかったと毎回、思うの」
「……」
「旅をすればするほど、その記憶ははっきりしていくんだ。もうすぐ、大事なことを思いだしそうな気がする」
「だいじなこと?」
「それは、なにかは思いだせないの。でも、言わなくちゃいけないことは言える」
「……」
「ユウト、大好きだよ」
おれたちは、再びキスをした。
※
「さくら、どうして……」
おれの言葉は、あまりのショックで途切れてしまう。
どうして、だましていたんだ。
どうして、おまえなんだよ。
どうして、言わなかったんだ。
いろんな気持ちがおれのなかを渦巻いた。
「ユウト、ごめんね。わたしもいま、すべてを思いだしたの」
「……」
「わたしは、さくらであって、さくらじゃなかった」
「どういうことだよ」
おれは、思わず冷たい声を出してしまう。
さくらは、悲しい顔になった。
「わたしは、厳密に言えば転生者じゃないんだ。ユウトは転生者なんだけど……」
「……」
「あの隕石が落ちた時、死んだのはわたしだけ……。ユウトはあの衝撃で、魂が時空の狭間に取り込まれてしまった」
「時空の狭間?」
「今まで生身の人間でそんなことができるひとはいなかった。それを確認したとき、執行者は愕然とした。もしかすると、あなたは、アカシックレコードに干渉できる能力を持っている可能性があった」
「アカシックレコードへの干渉、か」
「それは、確信へとすぐに変わった。あなたが時空の狭間から抜け出て、別時間軸へと転生したとき、奇跡は起きたの」
「それが……」
「そう、聖剣カリブルヌスの復活。神殺しの聖剣として、時空を操る能力を持った聖剣が再び人間世界に舞い戻ってしまった。完全な能力を引き出せなかった前の持ち主とは違い、適正者の才能があるあなたが使用者となる運命をもってね」
「だから、執行者は、対策を考えたの。あなたを監視するスパイとなる分体。前世で、あなたと仲がよかったさくらという個体が、適任だと判断された」
「つまり、おまえが監視をする執行者の分体ということか」
「そう。さくらは、完全に死んでしまったから、わたしは記憶をサルベージして作られたさくらにしか過ぎない。言い換えれば、あなたの幼馴染とは完全には一致しない存在。それがわたし」
さくらの口調が事務的なものに変わっていることに気がついた。
そういうことか……。
「そして、記憶にプロテクトをかけられた。執行者がいなくなった際に、新たな執行者に成り替わることが、私の生まれてきた意味。そして、その瞬間がここに発生した」
「おまえは、執行者になるのか?」
「そう、あと数分で、私の意識は完全に失われて、新たな執行者に成り替わる」
「だから、ユウト」
さくらの口調が変化した。
「わたしを殺して」




