鎧
さくらと昼食を一緒し、おれは夜の準備のために村長さんの家にきていた。
道中はさきほどの会話を思いだしていた。
彼女と約束した夜が楽しみになる。
「おお、ユウトくん。よくきてくれたな」
白ひげをたくわえた柔和ないつもの村長さんだ。
こども好きで、小さいころはさくらと一緒に遊びに来ては、おかしを食べさせてもらっていた。
「いやいや、あの小さかったユウトくんが、こんなに大きく、立派になって。わしも歳をとるはずだな」
しみじみとした口調だ。
「ははは」
会うたびにこの話題になる。少し食傷気味だ。
「今日の主役がんばってな。衣装の着つけは、わしが手伝ってやるから」
そう言って、別室に案内された。
そこには、立派な光り輝く白銀の鎧が飾られている。
今日のおれの衣装だ。
「ふふ、わしがこれを着たのは、もう四十年も昔のことになるな」
聖剣の持ち主だったと言われる古代の英雄が、装備していた甲冑のレプリカらしい。
あくまで、偽物なので、みためよりも軽い。
おれは、村長さんに、手伝ってもらいながら鎧を身に着けていく。
「村長さん。あの遺跡にはいったいなにがあるんですか?」
ハル博士にも聞いた疑問だった。
なぜだか、おれは祭りについて、いつも以上に興味をもつようになっていた。
「よくわからん。英雄様が、なにかを封印したと言われているが、なにを封印したかは彼しか知らないのだ」
「封印はどうやったら、解けるのでしょうか?」
「選ばれし者が、剣に手を触れた時、封印は解かれるそうじゃ。まあ、千年以上封印は解かれていないので、本当のところはよくわからん。祭りも、剣の第二の持ち主を見つけるためにはじまったらしいがの……」
口伝で代々受け継がれていた話だ。
正直なところ、みんな“なんとなく”やっているだけなのである。
楽しければ、酒を飲めればいいじゃん。
村のみんなは、そんな軽いノリだ。
おれもずっとそのノリで過ごしてきたのだから、ひとのことは言えないのだけれども。
「さて、できたぞ」
三十分くらいで、着つけは完了した。
思った以上に早く終わってしまった。まだ、祭りまで時間がある。
どこかにいこうとしても、この状態ではどうにも動きにくい。
やることもなく、ずっとイスにすわり続けなくてはいけない。
「昼寝でもして、待っていなさい。今日は長くなるからな」
手持ちぶさたなおれに村長さんはそう言った。言葉に甘えて、おれは目をつぶる。
少しずつ眠くなる。
視界が暗転し、おれの意識は闇につつまれた。