神殺しの先に
あいつが、おれたちの攻撃に集中している間に、政さんが執行者の後ろに回り込んでいた。
彼の腕には、二又の槍があった。
本来、ここには存在しない聖槍だった。
政さんは、勢いよく執行者の体を貫いた。
おれたちを攻撃しようとしていた執行者は、苦悶の表情を浮かべる。
自分が貫いたものが、ロンギヌスの聖槍であることに気がついたようだ。
「どうして、これが、ここに……」
槍を離した政さんは、執行者と同じように厳しい顔となっていた。
「その聖槍は、使用者の生命力を使って、繰り出せるものだ。常人の生命力では、使用者の体がもたないから、我々は四人の力を合わせて使っていた……」
「まさか……」
「そう、我々は不老不死だ。だから、ひとりでもこの槍を使うことがで、きる。最も、使用、後は、……」
彼はそう言って、力尽きた。
彼の体は、一瞬にして灰となった。
「自分の生命力を極限まで使い切りやがったのか」
執行者の言葉が乱れていた。
明らかに動揺していた。
ここが最大のチャンスとなるのは明白だった。
おれとさくらは、アイコンタクトを取り、すべてを理解した。
おれが一直線に、あいつに向かって突撃する。
執行者は、氷の刃で応戦しようとするも、聖槍の効果で動きが鈍っていた。
そのうえ、さくらの魔法により、動きが封じられる。
「ぐ」
執行者は短い悲鳴のような声をあげる。
おれは、その瞬間を逃さなかった。
聖剣によって、執行者の体がふたつに分かれた。
「やった」
おれは、手ごたえを感じて、倒れこむ。
緊張が解けて、体が動かなくなった。
執行者は、まだ息があった。
「みごとだ、ユウトよ」
博士の声でそう語りかけてくる。
「やはり、ここでわたしが倒されるのも、因果の決定事項だったようだな」
あいつはそう淡々と話した。
そこでおれは気がつく。
「因果の決定事項」だと。
しかし、おれは天空世界から離れる際に、こいつがこの時間上で世界を破壊する姿を見たのだ。
こいつが倒れるということは、おれが見たあれはなんだったのか……。
おれが死んだ隕石の落下は、規定事項ではないのか。
なにかがおかしい。
「しかしな、わたしがここで消滅することは、アカシックレコードに明示されていないのだよ。どうしてか、わかるかな?」
「まさか」
おれは、蒼白になる。
嘘だろ。
ありえない。
どうしてだ。
しかし、そうなれば結論はひとつしかなかった。
あいつがここで消滅しないということは……。
「執行者の分体は、もうひとり存在しているのか?」
おれは最悪の可能性を口にした。
「左様。そして、そいつはすぐそこにいる。さあ、名乗りでるがよい」
そう言って、執行者の本体はこときれた。
そして、分体は、執行者本体にゆっくり近づいた。
おれは、頭の中が真っ白になるのを自覚する。
あいつは、うつむきながらこう言ったのだった。
「ごめんね、ユウト」
執行者の分体は、おれの幼馴染「さくら」だった。




