宝玉
その部屋の中心には、青い宝玉が鎮座していた。
おれたちは、その宝玉の前に並んだ。
その宝玉は、禍々しいほど青く美しかった。
まるで、海のような、すべてを飲み込んでしまう魔性の魅力。
おれたちは、一瞬だがその魔性の魅力に目を奪われたのだ。
「では、聖槍を作るとしようか……」
浦島さんがそう言うと、三人はうなづいた。
「作る?」
「ああ、聖槍は、我らの魔力をもって作られるのだ」
そう、浦島さんが説明してくれた。
四人の英雄は、輪を作り、小声で詠唱をはじめた。
彼らは、青いオーラを身にまとっていく。
彼らの輪の中心には、魔法陣が浮かんでいた。そして、その中央からは、美しい二又の槍が産み出された。
「さあ、完成だ」
ドラキュラはそう言って微笑んだ。
「われらの長年の悲願がついに果たされる」
政はそう言って笑った。
桃太郎は、無言でうなづき槍を握る。
「では、ユウトくんと桃太郎が宝玉を破壊してくれ。そうすれば、アカシックレコードによって、破壊の運命にあるこの世界は救われる」
浦島さんの目には、涙が浮かんでいた。
おれはうなづき聖剣を抜いた。
さくらが、おれを見ながらうなづいた。博士もおだやかに、笑っていた。
おれたちは、一歩ずつ前に進んだ。
これですべてが解決する。
おれたちの前世を奪った死の連鎖。
人類の再生と破滅をくりかえすように仕組まれた楔からの脱出。
おれたちは、高揚していた。
だからこそ、気がつかなかったのだ。
おれたちの近くにいた黒幕の存在に……。
あいつは、最善のタイミングでおれたちを絶望へと叩き落した。
※
もうすぐで、宝玉に手が届く。おれは聖剣を強く握りしめて、振り下ろそうとした瞬間、異変が起きた。
部屋の気温が、急激に低下した。
そして、衝撃波が、部屋にいた者たちを包んだのだ。
おれは、宝玉まであと一歩というところで壁に吹き飛ばされた。
「ご苦労だったな。観測者の諸君。キミたちはとても優秀だった」
聞いたことがある声が、そう言っていた。
「キミたちは、わたしが望むように行動し、望む結末を導いてくれた。それには感謝が絶えないよ。ありがとう」
おれは周囲を見回した。
敵が近くにいることは明確だった。
おれたちを絶望へと導いている神がそこにいる。
「しかし、キミたちは、アカシックレコードが作り出す因果を超越することはできないんだ。ただの人間たちにそんな力はない。キミたちは、アカシックレコードの作り出す因果を歩んでいるだけにすぎないんだよ。アカシックレコードの向こう側なんて、存在しない。破壊と再生により、魂を差しだして延々とアカシックレコードを維持していくための家畜にしかすぎないんだ」
おれの横では、桃太郎さんが一本の氷の柱に貫かれていた。
そう、それは氷の柱だった。
部屋の中心には、ひとりだけ立っているおとこがいた。
そいつは、いつものように優しく微笑んでいた。
「博士、どうして……?」
おれは、思わずそうつぶやく。
博士はいつものように微笑んでいた。
なにかを教えてくれる時のように自然に……。
「すべてはアカシックレコードのためだ」




