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ファウスト

「ファウスト博士ですか?」

 前世で、国語の先生が雑談をしていたことを思いだす。

 天才的な頭脳を持つ博士が、悪魔メフィストフェレスを召還し、この世のすべての享楽を味わっていくというドイツの名作戯曲の主人公だったはずだ。


「そうだ。神は悪魔メフィストフェレスと偽って、博士に接触したようだ。彼は、博士に力を与えて、観測者としようとしていた」

「浦島さんはどうして、ファウスト博士が観測者とわかったんですか?」


「博士が突然、消息不明となり、その後、彼の周囲で不自然なことが続発したからだ。そのころの欧州では、魔女の祭典であるワルプルギスの夜が起きるなど、超越者の介入した痕跡が多発していたのだ」


「我ら四人は、ファウスト博士を監視し、彼が死亡する寸前に、ついにあいつは姿を現したのだ」

 老人は、顔を上気させた。


「神は、異形な怪物だった。私が見た乙姫様の美しさはそこにはなかったんだ。神=メフィストフェレスは、大きな角を二本生やしていて、筋骨隆々のたくましい体だった、翼はコウモリのような形をしていて、バサバサとうるさく、皮膚は赤くただれていた。まるで、桃太郎が戦ったという鬼のような姿をしていた」

 その説明を聞いて、おれは、夢のなかで見た鬼の姿を思いだした。天空世界から戻るための泉の中で見た日本の破滅時に確認したあの忌々しき姿を……。


 やはり、おれたちの転生にも、その神というものが関係しているのかもしれない。


「それでどうしたんですか?」

「わたしたちは、時空のかなたに逃げようとしていたあいつに戦いを挑んだのだ。あいつは、不老不死である我らを圧倒した。わたしたちは死ぬことはなかったが、無力だった」


「しかし、そこで、天才ファウスト博士が仕組んだ罠が発動したんだ」

「どういうことですか?」


「わたしたちを圧倒し、時空の狭間に逃げ込もうとした神に対して自らの命を犠牲にする一言を、彼はつぶやいた」


 それは国語の教師も言っていたはずだ。

 たしか……。


「時よ、止まれ。汝はいかにも美しい」

 おれは思わずつぶやいた。

 老人はその言葉を聞いて、すべてを把握したようにうなづいた。


「その言葉が、博士とメフィストフェレスが契約した言葉だったのだ。それを口にした場合、博士はメフィストフェレスに魂を捧げるとな」


「逆に、博士がメフィストフェレスを拘束する言葉にもなったということですか……」

「うむ」


「神は、その瞬間、動きが封じられた。わたしたちは、そこで切り札を使ったのだ」

「切り札?」


「中東の地より、我らが発掘したロンギヌスの“聖槍”だよ。別名、神殺しの槍」


あと1週間ほどで完結できると思います。

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