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アカシックレコード

 そして、おれは知っている童話の話を、本人に説明した。

「あなたは、昔、亀を助けて、そのお礼に竜宮城へと導かれた。竜宮城では、乙姫様がいて、あなたを手厚くもてなしたのでしょう。しかし、あなたは地上に帰りたくなった。あなたは、竜宮城から玉手箱をお土産にもらって地上へ帰還した。しかし、地上では数百年の月日が経過していた。あなたは、気が動転して、お土産の玉手箱を開くと、中から煙が出て老人となってしまった……。違いますか?」


 おれの脇で博士は愕然としていた。博士にはおれが転生者であることは秘密のため、どうしておれが彼のことを知っているのか不思議だったはずだ。


「いくつか誤りがあるが、概ね正しいな」

 老人はそう言って笑った。


「どこが違うんですか?」

「順を追って説明しよう」

 老人はそう言って笑うのだった。


 ※


「まず、修正その一……

 これは補足と言ってもいいな。わたしが亀を助けたのは、おそらく二千万年以上前のことだ。当時、わたしたちは、ひとつの集落に固まって住んでいた。そこには、妻と子供たちがいたのだ。わたしは、家族のために狩りに出かけた。しかし、残念ながら、獲物にはめぐりあえなかった。なので、わたしは近くの海に向かったのだ。魚を捕まえようとしてな……」


「そこで、亀に出会った」

「そう。亀は浜辺に打ち上げられていた。わたしたちの集落の信仰では、亀は神の使いと信じられていたのだ。だから、わたしはすぐに亀を海へと返してやった。そこで、意識を失ったのだ」

「気絶したんですか?」

「ああ、起きたら、そこは見知らぬ場所だった。まるで、図書館のような場所だった。そこで、わたしはひとりの女神様に出会ったのだ。彼女は自分を乙姫と名乗った。そして、ここは竜宮城だとな」


「そして、彼女は自分の部下である亀を助けたお礼をしたいと言い、わたしをもてなしてくれたのだ。そこでは、食事は食べたいものがすぐに出てきた。酒まで振る舞われた。乙姫様はこう言ったのだ。優しいあなたに“観測者”を任せたい、と」

「“観測者”とは?」

「あかしっく、なんとかの記録を作るための観測者と彼女は言っていた。竜宮城にある図書館。わたしは、ここの記録を管理するために観測者になって欲しいということだった」

「もしかして、アカシックレコードですか?」

 おれは昔、ひまつぶしで読んだオカルト雑誌の記事を思いだす。

「そうかもしれない。それは、一体何なんだ?」

「宇宙誕生以来のすべての記録が存在している場所と言われています」

「そうか、そういうことか。キミに言われてやっと理解できたよ。わたしの役割をな」


「それで、どうなったんですか?」

「わたしは、彼女の願いに同意して、観測者になるための試練を受けた。それが、修正点の二つ目だ」

「それが……」

「そう、玉手箱を開けることだった」

「……」

「玉手箱を開けると、そこからは煙が出てきた。そして、たくさんの情報がわたしの脳へと送りこまれたのだ。稲作の方法、鉄器の作り方、人々の統治方法、文字の書き方……」


「そして、煙が終わると、頭に激痛が生じた。わたしは激痛で、再び意識を失ったのだ」

 老人は目を閉じた。


「目がさめた時、わたしは海辺に横たわっていた。さきほどまでいた乙姫様はもうどこにもいなかった。わたしは、自分の住んでいた集落へと帰った。そこには、妻たちが普通に暮らしていた」

 おれの知っている童話とは、話が全然異なっていく……。

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