浦島
「うらしま、たろう?」
聞いたことがある名前だった。
ほとんどのひとが知っている名前のはずだ。
あの童話の世界のビッグネームと同姓同名の人間だった。
さくらも驚いている。
「あの、そのひとは若い漁師かなにかですか?」
おれは我慢できずに、奉行に質問した。
「いや、漁師という話は聞いていないな。たしか、高齢の老人だったはずだが?」
なるほど、そっちか。
おれは、ひとりで納得する。
※
奉行邸を出たおれたちは、案内通りの道を歩いて、浦島の住む海へと向かった。
そこには、ひとつの古びた小屋がひとつだけあった。
これが浦島邸。
学者は貧乏と相場が決まっていると言われるが、これは本当にぼろ屋敷だった。
おれたちは、おそるおそる扉を開ける。
「どちらさんかな?」
白髪の老人が床に座っていた。
長く白いひげがたくわえられている。
仙人のような容貌だった。
紙に向かって何かを書いている様子だ。
「浦島太郎さんですね」
「いかにも」
老人は、おだやかにそう言った。
「聞きたいことがあって来ました。これが、お奉行様からの紹介状です」
「どれどれ」
ふむふむと彼は紹介状を読んでいく。
「なるほど、遭難者か。時空のな」
彼は学者らしく、少しだけ婉曲におれたちを表現した。
「ということは、もしかすると私の正体も知っているのではないかな?」
老人は、おだやかな笑顔をうかべつつ、眼光が少しだけ強くなった。
「はい、知っています。あなたは、私たちと同じ時間旅行者なのではないですか?」
おれは核心へと突き進んだ。




