奉行
おれたちは、客間で待たされた。
久しぶりの和室だった。
懐かしい畳のにおい。おれたちにとっては、ノスタルジックな環境だった。
「なつかしいね、ユウト」
さくらは、博士に聞かれないようにそう小声で言った。
おれも、うなづく。
博士は、和室に直に座るということにかなり戸惑っていた。
おれたちの前には、お茶が用意されていた。
口をつける。
苦く懐かしい味だった。
いつもの世界で飲むハーブティーとは全然違う味わいによりノスタルジックな気持ちになる。
「お待たせいたしました」
奉行さんがやってきた。
見た目は三十代くらいだろうか。かなり、若かった。
「あなた方が、旅の方ですか」
見た目とは違って落ちついた物言いだった。
「はい、ハルと申します。こちらは、一緒に旅をしているユウトとさくらです」
「どうも」とおれたちは、頭を下げた。
「それで、援助とは具体的にどうすればよいのですか?」
おれたちは旅の目的を説明した。
※
「なるほど、世界の未来を救うために旅をしている、と」
信じられないという顔でおれたちの説明を聞いていた奉行は、そうまとめた。
「はい」
「にわかに信じられませんが、なるほど、わかりました。できる限りの支援をさせていただきましょう」
「ありがとうございます」
「それについてですが、いくつか、お願いがあります。まず、あなた方は魔法が使えるということでしたね。さきほど、水を作る実演もしてもらった」
「はい」
「それを、街中では使わないようにお願い致します。大混乱になってしまう危険性が非常に高いので」
「わかりました」
「それでは、わたしのほうで、通行証を用意いたしましょう。これがあれば、この国のどこにいくにも困らなくなるはずです」
「この世界の伝承などを調べたいのですが、詳しい方をご紹介できますでしょうか?」
「なら、海岸近くに住んでいる学者を紹介しましょう。たしか、伝承や神話を研究課題にしていたはずです。なにぶん、変わり者ですが、知識は本物です。わたしが紹介状を書くので、それを見せれば、協力してくれるはずです」
神話や伝承に詳しければ、もしかすると黒い影。それに近いものの話を知っているかもしれない。
「それで、その学者のお名前は?」
おれは、我慢できずに聞いた。
「たしか、“浦島太郎”といったはずです」
今日の更新はこれで終わりです。




