脱出
大きな地震の後で、なにかが壊れる音がした。
少しずつ、空が遠くなってきているような感覚におちいる。
「これは……」
博士が、瞬時に状況を分析した。
「なんですか。いったいなにが……?」
おれは、慌てて博士に聞いた。
「おそらく、エンシェントドラゴンの魔力が尽きたのだ。この天上世界は、あの者の魔力と死者の魂を使って、維持されてきた」
「はい」
「その魔力の主が、亡き者となった後、なにが起こるか。簡単なことだ。浮力を失って、地上へと落下を始めるしかない」
「……」
「おれたちは、どうすれば……」
「逃げるしかあるまい。もとの世界へと、な」
この世界をあきらめる選択肢しかないのか……。
「大丈夫だ。ユウト」
ヌーさんが、おれたちに話しかけてきた。
「ヌーさん……」
「おまえたちは、早くここを脱出しろ。おれたちは、大丈夫だ」
ヌーさんの声は力強かった。
「どうしてですか……」
「この世界の住民は、いつかここが地上に落ちることを想定して生きてきている。このような状況が発生した場合は、事前に作られている扉を使って、この世界から脱出することができるんだ」
「だけど……」
それでも逃げ遅れるひとはでてくるのは避けられないじゃないか、とおれは声にだそうとした。
「大丈夫だ。おれたちは、力を合わせて生きていく。地上をまた楽園にしてみせるさ。おまえたちが、帰るための泉は、この天空世界にしかないんだろう。以前、渡した結晶を使って、早く泉へ。そうしなければ、地上への落下によって、泉は失われてしまうぞ……」
おれたちは、力なくうなづいた。
「三人とも元気でな」
ヌーさんは、そう言って笑った。
おれは道具袋から、結晶を取りだして、天に掲げた。
それからは、よく覚えていない……。




