裏切り
私は、エンシェントドラゴン。この天空城の主にして、全知全能の存在である。
しかし、今日、愚者どもが反乱を起こした。
私はやつらを一掃した。造作もないことだった。
これで邪魔者たちは、いなくなった。
カシウスを倒した時空の旅人たちは、すでに虫の息で床に倒れ込んでいる。天空城の雑兵では、私を倒すことは到底不可能だ。半数以上が、戦意を失いはいつくばっている。
芋虫のようなその姿に、笑いがこみあげてくる。なんと滑稽だろうか。
私は、再び力を解放した。芋虫たちを掃除するために……。
衝撃波が再び発生し、周囲の物体の戦闘力を奪う。これでもう私を止める者はいない。
さきほど、勇者に切られた腕と尾を再生させる。ストックしていた死者の魂が、二〇個ほど消失した。
だが、すべては計画通りだ。
カシウスは死に、勇者たちは崩れ落ちている。
カシウスは、私に届かないことを理解し、最後の賭けに出たのだろう。
自分の命を失う代わりに、家畜たちの可能性に賭ける。とんだギャンブラーだ。
しかし、やつのギャンブルは破綻した。こうも容易く。
ここにいる家畜たちの魂を喰らえば、さらなる力を身につけることができる。
そうすれば、いずれは、「あの御方」すら上回る力と永遠なる命を手にいれることができる。
そして、私は本当の神として、この世界に君臨するのだ……。
さて、やつらのとどめを刺すか。
私は、雷撃の準備をおこなう。一秒後には、すべてが灰となる。
はずだった……。
※
部屋全体に放たれた雷撃は、一瞬にして反射する。
私の武器であるはずのそれは、凶器となって私に襲いかかった。
激痛が全身を包む。
こんな芸当ができる相手はこの世界にはもういないはずだった。
そう、この世界には……。
部屋の中心に黒い影を見つけた。
それは、陽炎のように揺れていた。
そして、私は確信した。
その陽炎の正体に……。
「どうして……」
黒いもやは、少しずつ私に近づいてくる。
「ご苦労だったな。エンシェントドラゴンよ」
影は、低い声でそう言った。
「きみは本当に優秀だった。すべて計画通りにことを運んでくれた。ありがとう」
その言葉が終わると、体にさらなる激痛が走る。
わたしは、床にたおれた。
「なんで……」
わたしはなさけないこえをだす。
「豚は太らせて喰えと言うだろう?」
影は、確かに笑っていた。
意識が消滅した。




