ピクニック
ピクニック先は、村の裏山だった。
小さいころから、散々遊び歩いた庭のような山だった。
村から城下町へと続く道のように、魔物に襲われる心配もほとんどない平和な山だ。
さくらとは、何度も一緒に来た思い出も多い山だった。
「おぼえている? ユウト?」
山道を歩きながらさくらが話しかけてくる。
「おぼえてない」
おれはぶっきらぼうにそう言った。
こんな雰囲気の時は、さくらがおれをからかうようなことを言ってくるに違いないのだ。
「えー、まだ何も言っていないのに」
彼女はすこしだけ頬を膨らませる。
「どうせ、崖の花を取ろうとして、下まで落ちたこととかだろう?」
「うん、正解」
ここを通るときは、絶対にこの話題なのだ。
わかるに決まっている。
「おまえが綺麗な花だとか言うからだろう」
「えー、わたしのせいなの?」
「危うく大けがするところだったんだぞ」
そう言ってふたりは笑いだす。
ずっとこんな感じだった。
「もうすぐ、小川だね」
「うん」
ピクニックと言えば、ここだった。
綺麗な川を眺めながら、お弁当をふたりで食べる。
ずっと続いているふたりの伝統みたいなものだった。
「今日の弁当はなに?」
「野菜とハムのサンドイッチだよ」
「定番だな」
「好きでしょ?」
「うん、好き」
ふたりでサンドイッチを頬張る。
さくらが作ってくれたサンドイッチは本当に美味しかった。
おれの好きな味付けを、彼女は完全にものにしていた。
小さいころから一緒で、もう十年くらい一緒に住んでいるんだ。
当たり前だと言えば、当たり前だ。
「美味しい」
「当たり前。何年作ってると思ってるのよ」
「ありがとう。母さん」
彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。
「もう、からかわないで」
「「ごちそうさま」」
ふたりは満足した様子で空を見上げる。
いい天気だった。
「いつもこんな感じなのに、飽きないね。わたしたち」
「そうだな」
「ずっとこんな毎日が続くといいなー」
「それだと、少し退屈じゃないか?」
「全然。わたしは幸せだよ」
そうはっきり言われてしまうとおれの顔が赤くなってしまう。
「あれー、顔赤いよ。大丈夫」
「からかうなよ」
「全然、からかってないんだけどね」
「崖のこといつもからかってごめんね」
「なんだよ、いきなり」
「ちゃんと、言っておきたくてね。じつは、あの時、本当は嬉しかったんだ」
「……」
「わたしのために、無理してくれてありがとう。あの時のユウト、本当にかっこよかったよ。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
さくらも言っておいて恥ずかしくなったのだろう。
顔をぷいとむこうに向けてしまった。彼
女の顔は見えないけれど、どんな顔をしているか見なくてもわかってしまった。
こんな日々が、ずっと続いてもいいな。
おれはそんなことを思いながら、帰路についた。
ふたりの手は、小さいころと同じように繋がれていた。