反逆
「この天空世界は、死んだ人間の魂を使って維持されているだと……」
兵士たちの間で、動揺が広がった。
ヌーさんも、終始無言だった。
みんな、顔色が少しずつ青くなっている。
ヌーさんが、前に出ておもむろに言った。
「嘘だと言ってください。エンシェントドラゴン様……。われわれは、あなたのことを……」
言い終わる前に、高々と玉座からは嘲笑がはじまった。
「まったく、あいつは死んでも、わたしの邪魔をするのか」
笑い声の後は、場が凍るほどの口調が待っていた。
これは、自供だった。この場にいる者、すべてが望まぬ答えだった。
「どうして……」
ヌーさんは、思わず声がでてしまったようだ。
「どうして、『こんなことをしたのか?』か。それとも、『どうして否定しないのか?』か。ヌーよ?」
あいつは、そう言って微笑している。
どこまで、ひとのことを馬鹿にしているのだろうか。
「……」
ヌーさんは、下を向いたまま答えなかった。
いや、答えることができなかったのだ。
絶望が、広間を包んだ。
「どうして、余が‟家畜″に配慮しなくてはいけないのだ? 全知全能のわたしが……」
あいつの独白が続く。
「家畜……」
兵士のひとりが絶望した口調で漏らした一言だった。
「なんだ、家畜の認識がなかったのか。ここまで聞いておいて……。本当にのんきなやつらだ」
「おまえたちは、家畜なんだよ。余が、生かしてやっている家畜だ」
「死ぬまでは、安全は保障してやる。その代わり、死んだら、魂を使って、余に奉仕しろ。魂が壊れるまでな……」
「どうだ、お互いに利益がある素晴らしい関係だろう?」
狂気しか、感じない主張だった。
「馬鹿なカシウスは、それに反対した。家畜に情がうつったのだろうな」
兵士たちは怒りに震えていた。
昨日、自分たちが命をかけて戦った結果がこれだ。
「ああ、そうだ。ヌーよ。お前の妻の魂も、わたしの養分として立派に働き、消えていったぞ。見事だった」
この発言に、ついに怒りが爆発した。
ヌーさんは、玉座へと突進する。
兵士たちも、それに続いた。
「神への反逆か。愚か、あまりにも愚か」
玉座は光に包まれて、衝撃がおれたちを襲った……。




