ここは……
結晶を高々と掲げると、おれたちは光に包まれた。
光は一瞬にして消えて、見たことがある地形が姿を現した。
目の前からは、阿鼻叫喚の地獄は消えていた。
そこには、いつもの日常しか存在しなかった。
転移先はおれたちが、一番最初に訪れたヌーさんの村だった。
洞窟は、どうなったかは定かではない。
この村では、村民たちが普通に生活していた。
それが、さきほどの洞窟にいた人々を思いださせる。
彼らは、ここにいるひととどう違うのだろうか?
おれは、答えられなかった。
村のひとたちが、ヌーさんの姿を見て、帰還を喜んで迎えてくれた。
村長さんが、優しい笑顔で労をねぎらってくれた。
エンシェントドラゴン様のテレパシー能力ですべてを知っているらしい。
彼は、明日ゲートを開いて迎えに来てくれるそうだ……。
「だから、今日はゆっくりしていってください。英雄を歓迎致しますよ」
“英雄”
その言葉に、おれは違和感を持った。
おれは、その言葉に値する人間なのだろうか?
ただの、大量殺戮者なのではないだろうか?
笑いながら死んでいったカシウスの顔を思いだした。
あいつは、どうして笑っていたのだろうか。
※
「大丈夫? ユウト?」
さくらの声が聞こえた。
「あ、ああ」
おれは、生返事で彼女に答えた。
「さっきから、ずっと上の空で……。やっぱり、洞窟のことを気にしているの?」
さくらはいつもの声だった。
周囲では、にぎやかな宴が繰り広げられている。
おれは、無言でうなづく。
「だよ、ね」
彼女もそう言って無言になった。
お互いに、言葉がでなかった。
当たり前だった。
「少しだけ、外の空気を吸ってくる」
おれは、さくらにそう言い残し家の外にでた。
近くの森へと足が向かう。
誰にも、会わない場所に行きたい。
ひとりに、なりたかった。
森をいくらか進んで、気がつく。
カシウスに託された黒い箱の存在に……。
おれは、ポケット入れていたそれを取りだした。
はじめて見るはずのそれは、おれのよく知っているはずの物体だった。
そして、おれは無心で真実に近づいた……。




