決着
カシウスは、笑いながら吹き飛んでいった。
たしかに、手ごたえはあった。
確実に、致命傷を負っているはずだった。
なのに、あいつは剣が直撃する瞬間……。
たしかに、笑っていた。
「やったな、ユウト」
治療を終えたヌーさんが、おれに近づいてきた。
博士も、一安心してうなづいている。
「いや、まだだ」
おれは、ふたりをけん制した。
まだ、カシウスには息があった。
おれは、横たわったあいつに近づいた。
「見事だ」
カシウスは、苦しそうな表情を浮かべながら、まだ笑っていた。
「なにが、おかしいんだ?」
あいつは、いまだに笑い続けている。
「すべては、わたしの計画どおりになった」
そう言うと、あいつはおれに、黒い物体を手渡してきた。
「これはなんだ?」
「なに、もらってくれればよい。わたしの形見だ」
本来は敵のはずなんだが、あいつの笑顔にはなぜだか慈愛が満ちていて、安心してしまう。
おれは、思わずその物体を受け取ってしまった。
「これですべて終わるんだな」
カシウスは、清々しい顔つきになった。
すべてをやり終えた顔だった。
カシウスは目をつぶって、もうなにも話すことはなかった。
息も少しずつ弱くなっていく。
おれは、あえてとどめを刺さなかった。
この状態では、もう回復魔法も間に合わない。
「よし、あとは、カシウスの最終兵器を探して破壊すれば……」
おれは、それを言い終わる前に、衝撃を感じた。
まるで、大きな地震でもおきたかのような衝撃だった。
天井が少しずつ崩落していく。
崩落した天井のさきから、ドラゴンの姿が見えた。
この衝撃は、まさか……。
「エンシェントドラゴン様の攻撃だ。カシウスが弱り、結界が消えたので、手筈通り、ここへの攻撃がはじまったんだろう」
ヌーさんは、淡々と状況を説明した。
おれたちの聞いていなかった“手筈”どおりに……。
「ここにいたひとたちはどうなるんだよ」
「……」
ヌーさんは、答えなかった。
答えを聞くまでも、なかった。
天空世界で出くわした粛清を思いだす。
不穏な分子は、完全に抹殺する。
ここも、そうなるだけだ。
「とにかく、脱出しよう。以前、わたした結晶を使えば、脱出できる」
おれは、無言でうなづいた。
そうすることしか、できなかった……。




