壁
ヌーさんが、衝撃波をまともにくらって壁に叩きつけられた。
おれが、この前やられたのと同じ技だ。
「まったく、そんなに焦らさんな。こっちは、おまえたちを取って食うわけではないんだから……」
あいつは、ヤレヤレという顔だった。
さくらがあわてて、ヌーさんのもとに向かう。
「じゃあ、どうするんだ?」
おれは、あいつに聞き返した。
「お願いがあるんだ」
あいつは、どこか卑屈な態度でそう言う。
「お願い?」
「ああ、二つある。どちらかでも、オーケーしてもらえると嬉しい」
背筋が寒くなる禍々しさだった。
「ひとつめは、おれの部下になれ。そうすれば、幹部としておまえらを重宝してやろう」
おれは、無言でにらみつけた。
「まあ、そうだろうな。こちらのお願いは、受け入れられるわけがない。一応言っただけだ。忘れてくれ」
「もうひとつは……」
「ああ、もうひとつは、さきほどよりもかなり簡単だ」
「わたしを見逃してくれないか?」
「なっ」
おれたちは、言葉を失う。
「あと、もう少しで、例のあれが完成するんだ。そうすれば、この戦争は無条件で終わりを告げる。キミが望む平和な世界に戻るんだよ?」
その言葉は、まるでおれに向けられた言葉のように感じた。
どこまでも、おれの心を見透かしているのだろうか。
ひとをあざ笑っているような口調だった。
「ふざけるな」
おれは、感情にまかせて怒鳴りつけた。
「どうやら、交渉決裂らしいな」
「では、死ぬがいい」
あいつの手からは、何発もの衝撃波が放たれる……。
おれの周りで、前回の比ではないおそろしいほどの、衝撃音が鳴りひびいた……。
※
おれは、おそるおそる目を開ける。
どうやら、目を開けることはできた。
まだ、生きているようだ。
だが、あれほどの衝撃波だ。
直撃すれば、四肢は無事でいられるはずがない。
おれは、手足の感触を確かめる。
四肢は、無事だった。
なにがおれを守ってくれたのか。
答えは、簡単にわかった。
おれの眼前には、厚い氷の壁ができていた。
こんなことができるのはひとりしかいない。
「博士……」
「大丈夫か、ユウト?」
博士はいつものように笑っていた。
現代最強の魔術師、天才、神の子……
博士は、おれがいた世界ではいくつもの異名で呼ばれていた。
おれは、それをわかっていると思い込んでいたのだ。
しかし、本質はまるで理解できていなかった。
博士は、本物の怪物だということに……。




