玉座
おれたちは、兵士たちを倒して、先に進んだ。
みんな無言だった。
前世で遊んだゲームのようにはいかなかった。
ゲームなら、今は最高に気分が高揚しているはずだ。
敵軍の幹部を打ち破り、ボスが控える玉座に向かう。
緊張感と高揚感に包まれるあの感覚は、しょせんは虚構だったのだ。
いま、おれにあるのは、悩みと恐怖と後悔だけだった……。
さくらが、おれの様子をみて小声で言った。
「ユウト、ありがとう。わたしのために、苦しくさせちゃったね……。わたしも、あなたと一緒に苦しみを分け合うからね。ほんとうにありがとう」
おれは、彼女の言葉に、白い顔でうなづくことしかできなかった。
おれたちは、洞窟の奥にたどりつく。
この扉を開けたら、おそらくカシウスが待っている。
「みんな、準備はいいな?」
ヌーさんが確認する。
おれたちは無言でうなづいた。
ヌーさんが、大扉を開いた。
扉は少しずつ開いていく……。
その扉の奥に、ローブを着た男がいた。
カシウスだ。
「よく来たな。天空の犬たちよ」
やつは、この前と同じような口調でそう言う。
おれたちは、武器を身構えて臨戦態勢をとる。
「そう、緊張するな……。戦いの前に雑談をしよう」
やつは、不敵な笑みを浮かべている。
おれは、前回の不意打ちを思いだして、身が凍るような感覚になった。
「なに、ひとつだけ質問があるだけだ」
「おまえたちは、いま幸せなのか……?」
カシウスは、薄ら笑いを浮かべながら、そう言った。
「どういうことだ」
おれは、やつに聞き返す。
「いまのような家畜のような生活をしていて、本当に幸せなのかと聞いているんだ」
「ふざけるな」
ヌーさんは激怒した。
「家畜と言って何が悪い? たしかに、天空世界は快適だろう。こことは、違ってな……」
「……」
おれたちは、やつの演説を聞く。
「しかし、その生活は、この地上の民を犠牲にして成り立っている。あくまで、偽物の楽園だ」
「なにが、偽物だっ」
「エンシェントドラゴンという、独裁者に管理されたディストピアを偽物と言って何が悪い。やつの思い通りに世界は動き、異物は排除される」
「やめろおおおおお」
ヌーさんはついに我慢の限界に達したようだった。
カシウスにタックルをあびせようとしていた。
しかし、それは罠だった。
やつは、手を開き、衝撃波を放った……。




