戦争
剣を振るった時、敵から流れてくる血が、スローモーションのように見えた。
本当に、これをやったのが自分なのか。
まるで、テレビゲームをして、雑魚敵を倒すような、そんな感覚だった。
ほとんど、敵を切ったという手ごたえはなかった。
宝剣の切れ味のおかげだった。
だからこそ、現実感覚はなかった。
「ユウト、さくら。大丈夫か?」
ヌーさんと博士が駆けつけてくれた。
「わたしは、大丈夫。ユウトは?」
さくらは、無事のようだ。
「ああ、大丈夫」
おれは、短く答えた。
無我夢中だった。
今度こそさくらを助けなくては……。
それだけしか、頭になかった。
こときれている兵士の姿が見えた。
「これは、本当におれがやったのか……?」
あいつを切った時の記憶がよみがえる。
わずかな感触と、崩れていく兵士の絶望した顔。
短い断末魔。
おれが、ひとを殺めた。
その実感が体を包んでいく。
いくら、敵でも……。
さくらを守るためだったとしても……。
おれは、人を殺したのだ。
つい、先日まで、ただの高校生で、ただの農家の息子だった、おれが、だ。
いままでのおれはただ、ヒーローごっこを演じていただけだった。
世界の未来を救う。
聖剣に選ばれたヒーロー。
時空を旅できる人間。
ゲームでもプレイしているつもりだったんだ。
でも、おれは人を殺した。
そう、これはゲームでもなければ、遊びでもなかった。
本当の戦争だった。
「ユウト、よくやったよ」
ヌーさんがそう言ってくれた。
「ありがとう、ユウト……」
さくらは、おれを心配そうに見つめている。
「とにかく、急ごう。さわぎを聞いて、かけつける援軍がいては面倒だ」
博士は、もっともなことを言っている。
おれは、力なくうなづいた。
もう、後戻りはできないのだ。
どんなにショックを受けようとも……。
おれには、もう選択肢がなかった。




