異世界
おれの発言に対して、ふたりは怪訝な顔をしている。
「なにを言っているんだこいつは」そんな表情だった。
「ユウト?」
さくらがそう言いながら近づいてくるが、年配の女性がさえぎった。
「いいのよ、さくらちゃん。まったく」
ずしずしとおれに近づいてくる。
そして、
「いつまで、寝ぼけてるんだい。このバカ息子。いいから、早く起きな。食器が片付かないんだよ、このバカ」
おれの頭をどかんと叩く。
「ごめん、母さん」
自然と口から出た言葉だった。
さっきまで、見たことがなかった女に対して、おれは当たり前のように母さんと呼んでいた。
「やっと、目がさめたかい。早く下りておいで」
「もう、ユウトったら。大丈夫だった」
「うう。どうやら寝ぼけていたみたいだ」
そう、母さんだ。
どうして、おれはあんなことを口走っていたのだろう。
生きてきて十八年間、おれは彼女の息子として育ち、この村でずっと生きてきた。
記憶だってちゃんとある……。
ただ、その記憶が一つだけではないということだ。
ふたりで階段を下りて、朝食を食べ始める。
さくらは、同い年の幼馴染で、幼いころに両親を流行り病で亡くしてからは、彼らの親友だったおれの両親が引き取り、兄妹のように育った関係だ。そう、この世界では……。
朝食は、トーストと目玉焼きだった。
おれは別の世界で食べた最後の朝食を思いだす。
「どうしたの? ボーっとして」
「ちょっと、考え事」
「今日のユウト、少し変だよ」
「祭の準備のせいで、少し疲れてるのかもな」
もうすぐ、この村の年に一度の収穫祭だった。
そのための買い付けで、遠くの城下町を往復したりで、クタクタだった。
「なら、今日はふたりで、ゆっくりしよう。予定ないでしょう?」
「じゃあ、そうするか」
たまには、遊んだって罰は当たらないはずだ。
夏から仕事づくめで、あんまり休んでいなかった。
「おば様、今日はユウトとふたりで、ピクニックにいってきます」
「ああ、行っといで。楽しんでおいで」
とんとん拍子で話が決まっていく。
「わたし、お弁当作ってくるから、準備しておいて」
そう言いながら、さくらは台所に消えていった。
なにはともあれ、さくらの手料理を食べることができるのが楽しみだった。