白兵戦
兵士たちは、じりじりと間合いを詰めてくる。
おれにとっては、人間同士で殺し合うはじめての戦いとなる。
聖剣を握る手が、少し震えていた。
ごくり。
息をのむ。
その瞬間、若い兵士が突撃してきた。
「うおおおおおおお」
その怒声は、力強く殺意に満ちている。
その声に、おれは一瞬たじろいだ。
兵士の槍がゆっくり迫ってくる。
よけなくてはいけない。
おれは、無意識にそう思ったが、体の動きはとても緩慢だった。
全ての時間と音が止まってしまったように思えた。
「ユウト、しっかりしろ」
ヌーさんの声が聞こえた。
それとともに体に強い衝撃を感じた。
衝撃のせいで、一瞬だけ意識が途切れる。
再び目を開いた時、白兵戦ははじまっていた。
体に痛みはなかった。
どうやら、ヌーさんが弾き飛ばしてくれたようだ。
おれも覚悟を決めて、剣を抜いた。
おれは、さくらに寄り添いながら、戦いに加わった。
博士とヌーさんはすでに、兵士たちを倒していた。
博士は、すでに氷魔法を用いて兵士三人を無力化させた。
ヌーさんは、兵士を怪力でなぎ倒している。
「ユウトはさくらを守っていてくれ」
ヌーさんはそう言った。
さくらは、補助魔法と回復魔法が得意だが直接、戦闘をするのは不得手だ。
だから、おれはうなづく。
さくらは、必死に役に立とうと、ヌーさんの体力を回復させたり、敵の動きを鈍らせる魔術を使ってサポートしていた。
ついに、数の上ではおれたちは逆転した。
「隊長、こいつら強すぎます」
「くそ、おまえらは、あの怪力男とじじいを足止めしろ。あとは、わかったな」
「「はい」」
やつらはそう言って、ヌーさんと博士に飛びかかる。
ふたりは、瞬時に兵士を撃退した。
これであとはひとりだ。
おれたちのなかで、気のゆるみが生じる。
「そこだああああ」
隊長と呼ばれていた男がそう言って突撃してきた。
「「しまった」」
博士とヌーさんは、隊長の目的に気がついていた。
ふたりが叫んだ後に、おれも気がつく……。
狙いは、さくらだ……。
※
さくらは、おれたちのなかで唯一の回復役だ。
それを排除してしまえば、おれたちの継戦能力を奪うことができる。
たとえ、兵士が全滅しても、戦略的に見ればやつらの勝利になる。
おれが、さくらを守らなくてはいけない。
前世ではできなかったことを、いまやらなくてはいけないのだ。
おれは、さくらを守るために剣を振るった。
宝剣は、やはりとても軽く、そして強靭だった。
ほとんど、抵抗もなく、刃は男の体を切り裂いた。
「ぐ、、があ、、、」
男は、何が起きたかもわからないような顔で、断末魔をあげた。
あいつの血が、おれを汚した……。




