決戦前
ついに朝がきた。
もうすぐ、作戦スタートだ。
あと、数分もすればゲートが開き、天空城の軍勢が到着する。
それを見届けて、おれたちは突入する。
おれは、ひとりで何気なく空を見上げていた。
天は青く、今日が天下分け目の大決戦が起きる日だと誰も思わないだろう……。
当事者のおれだって、そんな実感はない。
ほんの数日前まで、おれは日本の高校生で、異世界の田舎の農家の息子で、幼馴染とただ、楽しく生きていたつまらない人間だったはずなのに。
こんな世界の運命をかける戦いに、当事者として参戦するなんて、予想していたらそれは本当にやばいやつだ。
はたして、うまくいくだろうか。
剣を使って、動物を退治したことくらいはあるが、戦士として人間に剣を振るうことはできるのだろうか。
おれに、覚悟はあるのか。
そんなことを考えている時点で、俺に覚悟がないことは明白だった。
「緊張しているか、ユウト」
ヌーさんがそう聞いてきた。
「緊張しないわけがないだろう?」
「そりゃあ、そうだ」
そう言って、ふたりで笑いあった。
「ユウト、お願いがある」
「なんだ?」
ヌーさんはいつになく、神妙な顔でだった。
「自分たちが、生き残ることを第一に考えてくれ」
「えっ」
「そうだろう? きみたちは、言ってしまえば部外者だ。おれたちに、手を貸してくれいるだけにすぎない。だから、ここまで付き合ってくれただけでも十分だ」
「でも……」
「それに、ユウトには守りたい人がいるんだろう? 生憎、おれは妻に先立たれいて、子どももいない自由人だからな。おまえたちの脱出路くらいは、切り開けるだろう。もしダメだと思ったら、これを使え」
ヌーさんから、結晶のようなものをもらった。
「これは?」
「移動結晶だ。これを使えば、おれたちが最初に会った村まで移動できる」
ヌーさんが、そう言って笑顔になった。
今までで、一番柔らかな表情だった。
ヌーさんの優しさで、俺はぐらついていた。
もう戦争なんて、やめてこの結晶で逃亡したほうがいいんじゃないか。
そんな情けない考えが、頭の中でちらつく。
「さあ、時間だ……」
情けない考えを払拭できないまま、約束の時間が来てしまった。
赤い大地には、いつの間にか天上世界と繋がっているゲートが出現していた……。




