捕囚
「ここは……」
いったい、どれくらい経過しただろうか。
おれは、目がさめた。
体の節々が痛い。
おれは、体を起こそうとした。
しかし、体は動かなかった……。
手と足に重い違和感があった。
どうやら、四肢は鎖でつながれてしまっているようだ。
つまり、おれは捕まってしまったということだ。
あたりを見回す。
どうやら、ここは牢獄らしい。
おれは、牢の中にいた。
やはり、あの衝撃は……。
「どうやら、目がさめたようだね。スパイくん? 一時間も寝ていて、飽きないかね?」
声の方向に、ローブを着た男がいた。
やつの口元は少しだけにやついていた。
その笑顔が、母性のようなものまで含んでいてさらに不気味だった。
「カシウス……」
「残念ながら、きみの冒険は終わりだよ。いくら、偽装しても、ひとが持つ固有の魔力は隠せないのだよ。わたしにとって、スパイはただの異邦人にしか見えない。ひとりで乗りこんでくるなんて軽薄だったね。エンシェントドラゴンになにを吹きこまれたか知らないが、やつの大陸はもうじき終わる。わたしの最終兵器を使ってね」
「どういうことだ」
「それ以上は、知る必要がないことだよ。きみは終身刑だ。じきに、きみの仲間も一緒に投獄してあげるよ。そうすれば、寂しくないだろう。わたしは、とても親切なんだよ」
カシウスは、優しそうな声でそう言った。
プロの詐欺師のような口ぶりだった。
まるで、サイコパスのように、淡々としている。
「そうだ。きみの名前を聞いていなかったね」
紳士的な口調だ。
「名乗るほどのものでも、ない」
「そうかい。じゃあ、もう会うこともないだろうけど。元気でね」
拷問でもされるのかと思ったが、拍子抜けするほどあっさりだった。
まるで、古くからの知り合いに話すかのような、慈悲がこもった別れの文句だった。
「そうですね。次は地獄で会いましょう」
おれは、軽口で答えた。
「きみは、本当におもしろいやつだね。さすがは、エンシェントドラゴンに見込まれただけはあるよ。あのペテン師に」
そう言って、カシウスはどこかに行ってしまった。
「詐欺師はどっちだよ」
おれは、ひとりでそうつぶやいた。
制限時間まで、あと一時間半……。




