カシウス
「カシウス様だ」
誰かがそう言った。
群衆が歓声をあげる。
洞窟内がどよめいた。
「ああ、カシウス様だ……」
地面に平伏して、涙を流すものまでいた。
やつの病的なまでのカリスマ性におれはたじろいだ。
「みなのもの。よく聞け」
カシウスは、威厳のある声で語りかける。
民衆に緊張が走った。
「外の見張りより、連絡があった。ついに、あの悪しきエンシェントドラゴンの使いが、この聖地まで到達したようだ」
おれたちのことだ。
心臓が高鳴るのを感じる。
「兵士たちが、間者を探している。しかし、まだ見つからないようだ」
よかった。サクラたちはまだ、無事のようだ。
「やつらは、どうやら、我々の計画がもうすぐ完成に近づいているのを察知しているようだ。もしかすると、このなかにすでにスパイが侵入しているかもしれない。皆の者、くれぐれも注意してくれ」
カシウスの勘の良さに、背筋が寒くなる。
まだ、おれがここに潜入していることはバレていないはずだ。
「ところで……」
カシウスがローブのフードをおろした。
白髪の痩せた老人の顔があらわれた。
あれが、おれらの目標であるカシウス。
おれは、やつの顔を凝視した。
痩せた老人の顔だ。
正直に言えば、そんなに圧迫感はなかった。
飄々としていて、つかみどころがない印象だった。
「どうして、ここに知らない男がいるんだろうね?」
おれの体に凄まじい衝撃がはしった。
壁に叩きつけられる。
なにが起きたのかわからなかった。
意識が少しずつ薄れていく。
床には、だれかの血が見えた。
おれの顔のあたりから、液体が垂れている。
「あの男を、わたしの部屋に。わたしが尋問する」
その言葉を聞いて、おれは意識を失った……




