地下へ
おれは、少しずつ地下へと繋がる洞窟の道を進んだ。
洞窟内部は、少し進むと階段になっており、おれは地下へと下る。
内部は、わずかな松明の灯りが頼りだった。
こんなところに人が住めるのか。
かなり劣悪な環境だ。
内部は少しずつ息苦しくなり、においもこもっている。
日光はなく、地面もよく見えない。
まるで、潜水艦のなかみたいだ。
おれは、前世で読んだことのある本を思いだした。
潜水艦に乗って特攻する若者をえがいた小説だった。
その小説の主人公と自分が重なり合う。
自分もまさか、そのような環境になるとは思わなかった。
長い階段が終わり、おれは地下へとたどり着いた。
兵士が近づいてくる。
「どうした? 交代の時間にはまだ早いぞ」
予想していた反応だ。
おれは考えておいた答えを口にする。
このために、鎧には血のりをつけておいた。
「大変だ。怪しい人影が見えたんだ。そして、すぐに地上に来てくれ」
「なんだって」
「数人いた。いきなり、火の玉が飛んできて……。おれは、あわてて助けを呼びに……」
「そうか。よし何人か来てくれ。地上へいくぞ。おまえは医務室にいって見てもらえ」
「ああ、すまない。頼むぞ」
「よし、いくぞ。野郎ども。天上世界のクソ野郎どもが攻めてきたんだ。戦争だー」
「「「「おおう」」」
屈強な兵士たちが徒党を組んで出陣していく。
作戦成功だ。
サクラたちはこのために、入り口から離れた場所で待機することになっていた。
兵士たちにみつかる心配はかなり低い。
そして、おれは医務室に行くふりをして、空いている部屋に潜りこんだ。
部屋の中は、魔法の影響だろうか。
さきほどまでよりも、自然な明るさだった。
散乱している衣服から推測するに、ここは兵士たちの脱衣場だろう。
おれは、鎧を脱ぎ、兵士の服を拝借した。
これで、潜入工作はうまくいきやすくなるはずだ。
洞窟内は、いくつかのフロアと部屋に分かれている。
さきほど、潜りこんだ入り口以外の出入り口を探す。
おれは、脱衣場をでて、洞窟内の探索をはじめた。
※
内部は、一般的な居住エリアも存在していた。
そこでは、多くの一般人が住んでいる。
食料等は、魔法を使って育てているようだ。
何百人も住んでいるこの集団を支えるには、かなりの魔力が必要となる。
おそらく、カシウスの力だろう。
やつは、エンシェントドラゴン様の側近だった人物だ。
博士と同じように規格外の魔力を持っていると思って間違いない。
居住エリアでは、こどもたちが遊んでいた。
戦争ごっこらしい。
「来たな。エンシェントドラゴン率いる悪の軍団め。地上で見捨てられた同士の仇。ここで討ち取ってやる」
「おろかな愚民どもめ。死をもって償うがよい」
こんな感じだ。
やはり、カシウスの恐怖政治がこどもたちにまで影響しているらしい。
おそらく、カシウスは洞窟の奥深くにいるのだろう。
おれの変装もどうやらばれていないようだ。
このまま、奥深くまで進むしかない。
おれは、そう思って先に進もうとした瞬間……。
民衆の歓声がはじまった。




