突入
おれたちの存在に気がつかれては、すべての作戦が失敗する。
日が暮れ始めて、周囲が暗くなってから作戦はおこなわれた。
「では、いくぞ」
博士がおれにそう言った。
おれはうなづき、兵士の近くへと移動する。
サクラがおれに近づいてきた。
おれの背中に手を差し伸ばして小声で言う。
「無理しないでね。ユウト」
「ありがとう」
短い会話だったが、彼女とおれとの間では十分な会話だった。
お互いの気持ちはもうすでにわかっている。
兵士の交代は三時間間隔だった。
あの兵士は一時間前に、交代したばかり。
だから、別の兵士が交代に来る心配もない。
すべては順調だった。
この作戦はおれと博士のふたりだけで実行している。
人数が増えると、相手にも気づかれやすくなる。
おれたちは、少しずつ間合いをつめた。
忍び足で、ゆっくりと……。
音をたてないように……。
息をひそめて……。
少しずつ兵士との距離が縮まる。
魔法効果範囲に入った。
すかさず、博士は、小声で詠唱をはじめた。
ついに、作戦開始だ。
兵士は、おれたちの存在に気がついていない。
博士は詠唱を終えた。
くりだされるのは催眠魔法だ。
この魔法を回避できるのは、相当手練れな魔法使いか高い魔法防御を備えた防具を持つ者だけだ。
あの兵士は、おそらくそのどちらでもない。
効け、効け、効け。
おれは、こころの中でそう強く念じた。
「うっ」
兵士が短い悲鳴をあげる。
それと同時に兵士が地面に倒れ込んだ。
どうやら、うまくいったようだ。
そして、兵士は寝息をたてはじめた。
作戦第一段階はこれでクリアだ。
おれと博士は協力して、兵士の鎧を脱がせた。
そして、おれが鎧を身に着けていく。
鉄仮面を含めて、おれは完全に鎧を着こんだ。
これで、一見するだけでは、おれが潜入者だとはわからない。
「では、ユウト。制限時間は三時間以内だ。そこまで、待ってキミからの連絡がなかったら、失敗だと判断して我々も突入する。がんばってくれ」
「はい」
博士とおれは作戦の概要を確認した。
おれは短く返事し、決心を固めた。
おれの足は、暗いくらい洞窟の中に向かっていった……。




