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天空の夜にて

 おれは、宿から外に出て、月を見ていた。

 ここ数日は、いろんなことがありすぎた。


 隕石、祭、聖剣、タイムトラベル、世界の命運、天空世界……。

 おれの小さな頭では、もうショートしそうな難しい問題が山積みだった。


「おれは、しがない高校生だったはずなんだけどな……」

 おれの記憶では、つい数週間前まで日本で平和に高校生をしていたのだ。


「そうだね……」

 突然、後ろから聞きなれた声が聞こえた。


 サクラがそこにいた。


「ユウト、ここにいたんだ」

 サクラはそう言って、いつものように微笑んだ。

 その笑顔がいつもの笑顔で少しだけ安心する。


「なんだか、すごいことに巻き込まれちゃったよね、わたしたち……」

「うん」


 日本にいた時は、平凡な世界に退屈していた。

 でも、いきなりこんな激動な世界に投げ出されてしまった後は、その平凡な世界がなぜだか無性に懐かしい。


「私たちって、元いた世界ではどうなってるんだろうね?」

 サクラは、声が震えていた。

「どうなんだろうな」

 わからない。

 おれたちは、元の世界にもどれるのだろうか?

 そもそも、隕石が落ちた世界は無事であるのだろうか?

 

 そんなことはわからない。


「私さ、たまに思うんだ。もし、日本にあのままいたら、一番幸せだったんじゃないかなって」

「えっ」

「だってさ、ユウトはいて、家族も友達も元気で……。あのまま、ずっと楽しく暮らせていたら……」

 サクラの声を聞いていると、おれまで感傷的な気持ちになってしまう。


「サクラは、日本に戻りたいか?」

「うん、戻りたい」

 サクラが、この世界に来てからはじめて見せる顔だった。

 少しだけ、顔がクシャクシャになる。


「でもね。それが一番の願いじゃないんだよ」

「えっ」

「戻れなくてもしかたないかなって思う時もあるの。私の一番の願いは、ユウトがそばにいてくれることだけ……。どの世界にいたとしても……」

 そう言って、おれの胸に顔をしずめた。

 少しずつ、サクラの体温が伝わってきた。


「お願い。もう少しだけ、このままにしておいて……」


 ※


 ふたりで、どれくらい抱き合っていただろうか。


 落ち着いたサクラが、顔を上げる。

 

 彼女の目は充血していた。


「落ち着いたか?」

「うん、ありがとう」


 サクラは、そういうとおれの顔に、自分の顔を近づけてきた。


 もうそこには、会話は不要だった。


 お互いの唇で、体温が交差した。


 それが、おれたちのファーストキスだった……。

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