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楽園
「いったい、さっきのはなんだったんだ……」
おれは、ヌーさんに聞く。
彼は神妙なおももちだった。
「あれは、神のさばきです」
「“神のさばき”だと」
「はい、この世界には、悪人は住むことができません。もし、不正や悪事を起こしたものは、さきほどのように消えゆくのです」
「あの食い逃げ犯は、いったいどうなったんですか」
さくらは、重ねてそう聞く。
ヌーさんは、首を横に振った。
「消えていったのです。そうしなければ、悪事はこの世界に蔓延します。そうなれば、この天空世界は地上と同じになる。だから、その根は、摘み取らなくてはいけないのです」
俺たちは、黙ってこの世界の理屈を聞くしかなかった。
まるで、小説で読んだ管理社会だ。
すべての人間の行動は、監視されていて、ルールを破った異端者は排除される。
しかし、住人はここが楽園だと信じて疑わない。
はたして、彼らは幸せなのだろうか。
俺にはよくわからなかった。




