粛清
おれたちは、天空城から再び城下へと帰ってきていた。
明日に備えて、必要な保存食などを買い込んだ。軍資金はエンシェントドラゴン様が、提供してくれた。
そして、屋台で食事をする。
チキンステーキをみんなで食べた。
「誰か、そいつを捕まえてくれ」
街から大きな怒声が飛んだ。
「食い逃げだあああああああああああああああ」
「捕まえろ」
「やっちまええ」
優しい笑顔で包まれていた街の雰囲気が急に変わってしまった。
この世界に来てから、初めて感じた悪意ある感情だった。
おれたちも騒ぎの中心を覗きに行く。
罪人を街の人たちが取り囲んでいた。
「どうして、あんな馬鹿なことをしたんだ」
「許してください。もう、何日も食事をしていないのです。どうか、どうか」
「ならん、悪の心を持つ人間をのさばらせるわけにはいかないのだ。そうしなければ、この楽園も地獄に変わってしまう」
「どうして、彼らはこんなに怒っているのですか?」
おれは、ヌーさんに聞く。まるで、すべてが滅亡してしまうかのような騒ぎようだ。
「この世界には、悪人は住んではいけないのです。もし、悪の心を持つ者はどんどん増殖します。だから、ここで、その芽を摘んでおかなくてはいけないのです」
「どうやって……?」
「すぐにわかります」
「我を呼ぶものは誰か?」
空から、低く威厳がある声が響いた。
「エンシェントドラゴン様が来たぞ」
誰かがそう言った。
夜空には、赤いドラゴンの顔が浮かんでいた。
みんなが平伏した。
「エンシェントドラゴン様。この者が、私の店から食い逃げをしたのです」
「お許しください。エンシェントドラゴン様……」
事件の当事者たちは平伏しながら、事態の説明をしていた。
「その者、何か申し開きはないか?」
「お許しください、エンシェントドラゴン様……」
罪人は、ひたすらに懇願していた。
「よかろう」
「えっ」
一瞬の光をつかんだような声だった。しかし、それは簡単に取り崩された。
天から一本の光が放たれた。それは、一瞬にして罪人は光に包まれていた。
その光が消えた後、そこにはもう何も残されていなかった。
「……」
「……」
「……」
おれたちは、その処刑現場をただ、見ていることしかできなかった。
 




