エンシェントドラゴン②
玉座には、青年が座っていた。
にこやかな笑顔で、おれたちを呼んでいる。
「ようこそ。わが城に、客人たちよ」
にこやかな表情と、その背後からただよってくる圧倒的な存在感に圧倒される。
「お久しぶりです。エンシェントドラゴン様」
ヌーさんはそう言って跪いた。
「うむ。よく来てくれた、ヌーよ。客人たちも、このような格好ですまないな」
この格好というのは、たぶん、人間の姿のことだろう。
「いえ、お会いできて光栄です。エンシェントドラゴン様」
ハル博士が、代表してあいさつする。
「それで、客人たちよ。どこから来たのだ? わたしになにか頼みがあるのだろう?」
おれたちは、今までの旅の経緯を説明した。
※
「なるほど、時間を移動している旅人か。それで、未来を変えようとしているのだな? 世界を救うための旅人。それがお主たちが持つ天命なのだな。お主たちは、私よりも上の存在に選ばれたということだな」
エンシェントドラゴン様は、おれたちの突拍子もない話をすぐに理解してくれた。
「はい、そうです」
おれたちは、素直に答えた。
「このままいけば、世界は滅んでしまう。お主たちが、時の泉に導かれてここに来たのは、きっとこの世界に世界の破滅を引き起こす“なにか”があるということだろう?」
「おそらくは……」
博士は曖昧にうなづく。
「では、お主たちは、私にこう聞きたいのだな? 世界の秩序を崩壊させるような存在を知らないかと?」
彼は簡単な説明ですぐにおれたちの求める内容の核心に行きついた。この世界を統べる全知全能の神というのは本当らしい。
「はい」
おれたちは、うなづいた。
「なるほどな……」
エンシェントドラゴン様は、そういうと長い思案に入った。
「心当たりがないと言えばウソになる」
「本当ですか?」
「ああ、しかし、それにはこの世界の歴史から話さねばなるまいな。ヌーの村の村長からある程度、聞いているとは思うが、この土地は本来、大地にあったのだ」
※
「私は、ずっとこの世界を見守ってきた。生まれてからずっとだ。最初は、命が尽きるまで、ずっと見守り続けるつもりだった。しかし、人間たちは、力をつけて争いを引き起こした。人間たちの憎悪は、時に大地の守り神である私にまで及んだ。だから、私は世界を創りかえることを決心したのだ。
「創りかえるとは?」
「文字通りだ。楽園を創ろうとした。私を信奉する善良な心を持つ者だけを集めて、天空に楽園を創ったのだ。そして、この世界が私が目指した楽園だ」
「地上に残った人々はどうなったのですか?」
「その後に発生した戦争で多くのものが亡くなった。この天空の楽園をうらやみ攻めてきた者もいた。それは私が粛清した。今は地獄のような世界で、少数の者がなんとか生きているようだ」
「……」
「私も非道なことをしているとは自覚している。しかし、ここを守るためにはこうするしかなかったのだ」
彼は淡々とした口調で、そう言った。
「しかし、この世界でも、私のやり方に反対する者が出てきたのだ。そして、彼らは地上へと逃亡した」
「その逃亡者が……」
「おそらく、世界を破滅に追いやるものになるのではないだろうか? 私の力が及ばない地下へと潜り、力を蓄えているという情報もある」
「その反乱者たちのリーダーは分かっているんですか?」
「ああ、名をカシウスという男だ」




