隕石
「とりあえず、みんな教室で待機。大丈夫、ここは学校だ。その辺の建物よりも安全だから……」
教師がそう言うと、みんな少しだけ落ち着いた。
「おれは職員室行ってくるから、みんな静かにしていろよ」
その言葉を聞いて、みんなはなぜだか安心しきった顔になっていた。
まるで、意味が分からない。
隕石の落下だぞ。
こんな学校落ちてきたらひとたまりもないに決まっている。
「ちょっと、おれ、トイレ行ってくるわ」
クラスメイトにそう言い残して、おれは教室を後にした。
とりあえず、スマホのニュースを読み漁る。
回線が集中しているせいか、表示が異様に遅かった。
この速度ではろくな情報をえられそうにもない。
おれは、ニュースを諦める。
さくらにSNSを使ってメッセージを送信した。
「話したいことがある。教室を抜け出して、げた箱まで来てくれ」
なぜだか、あいつだけは見捨てることができなかった。
「どうしたの、ユウト? 教室で待機しなくちゃ怒られるよ」
少し待ってさくらはそう言いながら、げた箱に現れた。
「逃げるぞ」
「えっ?」
「こんな学校、隕石の落下なんてひとたまりもない。空中で爆発したら、核兵器よりも威力のある爆発になる。少しでも生き残る確率をあげたい。たぶん、地下のほうが安全だ」
「でも、みんなが……」
「いいから」
さくらの腕をつかんで、うわばきのままで走りはじめた。
さくらにはそう言ったが、地下だってたぶんダメだろう。
生き埋めになるかもしれない。生き残れたって、どうせ死を待つだけの時間になる。
でも、最期くらいはさくらと一緒にいたかった。
目的地は地下鉄の駅だった。
徒歩で十分くらいだ。
でも、急がなくてはいけない。
たぶん、地下鉄には群衆が殺到する。
ふたりで走った。
駅まであと数分の距離。
少しだけ希望が見えた瞬間、おれたちは絶望に沈んだ……。
「ユウト、あれ」
さくらがそう言うと、空にはまばゆい光の玉が動いていた。
「どうして、あんなの近づいているのに、いままで気がつかなかったんだよ」
誰に向けての非難ではなかった。
でも、誰かのせいにしなくてはおかしくなってしまいそうだった。
「早く逃げるぞ」
「うん」
もう少し、もう少し。
あと数歩で、駅に繋がる階段だ。
でも、なぜだか、その一歩が動けなかった。
世界の全部がスローモーションになってしまったような気分だ。
大きな爆発音とともに、猛烈な熱さを感じる。
おれが最期に見た光景は、さくらの横顔だった……。