北へ
翌日、おれたちは、お世話になった村を出発し、北へと向かった。
村長さんの話では、だいたい三日ほど歩く必要があるらしい。
案内人として、ヌーという男が同行してくれることになった。
「このヌーは、無口な男ですが、村でも一番の怪力です。体力もあるので、どうぞよろしくお願い致します」
「ヌーです。よろしく」
彼は、手短に挨拶を済ませた。保存食と水まで村長さんから分けていただいた。
おれたちは、道を進む。途中で、野生のオオカミのような魔物に遭遇したが、ヌーさんが簡単に追い払ってくれた。
「強いんですね、ヌーさん」
おれは、そう感心すると
「しょせんは雑魚です。自慢できません」
そうやって謙遜する。おかげで、おれは宝剣を抜く必要もないのだけれど……。
そうやって、進んでいくと、少しずつ日が傾いてきた。
「今日は、ここまでにしましょう」
ヌーさんはそう言う。少し早めなのだが、この近くは夜に急激な気温変化が起きやすいので、事前に野営準備が必要らしい。
さくらが料理の当番で、ヌーさんは食料探し、博士は、魔法で火をおこす当番で、おれだけすることがなかったので、テントの準備をした。こうして、おれたちの冒険ではじめての野宿となった。
さくらが、保存食を使ってうまく料理してくれた。塩漬け肉をヌーさんが持ってきた野菜と一緒に炒めたりすることで、キャンプとは思えない食事をすることができた。
そして、寝袋に潜る。さくらの寝場所は仕切りによって、区分けされて、男たちは三人雑魚寝だ。
博士は疲れていたのか、すぐに寝てしまった。
「ユウト、起きてるか」
ヌーさんが、渋い声でそう言った。
「起きていますよ」
おれは答える。
「おまえは、さくらと付き合ってるのか」
ぐふっ。いきなり、直球の質問が飛んできたのだった。これはなにか?修学旅行の夜なのか?
「ふっ、顔が赤くなってるぞ。初心なやつだな」
ヌーさんはそう言って笑う。無口な男なのに、こういう話は好きなんだな。
「まだ、付き合っていませんよ。ヌーさんこそどうなんですか? 誰かいい人とかいないんですか?」
おれは仕返しに少し意地悪する。
「まだ……か。おれは、妻に先立たれたんだ。だから、ひとりだ」
悪いことを聞いてしまった。バツが悪い。
「ごめんなさい。無神経でした」
「なに、謝ることない。ただ、人生の先輩として言っておこう」
「なんですか?」
「自分の気持ちに素直になることだ」
「素直?」
「そうだ。おれはそれができなくて、後悔している」
「そうなんですか……」
「つまらん、話をしてしまったな。明日も早い。そろそろ寝るか」
「そうですね。ありがとうございます」
「ああ」
こうして、夜は更けていった。




